寮に入ってすぐに視界に飛び込んできた赤色に頬が緩む。
「ただいま!」
「おー、おまえか。てか【ただいま】ってなんだ」
ラギは怪訝な顔を隠しもせずに向けてくる。
「だって、ここは皆の家でしょう? だから【ただいま】! それに、【おかえり】って言ってもらえたら嬉しいじゃない?」
「そうか? そんなこと考えんのは、おまえくらいだろーと思うけどな」
「そうかな?」
首を捻りつつも、ラギからは聞いてないと思い出して向き直る。
「ただいま!」
「……なんで二度言う。まさか、オレに言わせようとか考えてんじゃねーだろうな?」
「ただいま!」
「………………」
「………………」
「………………」
じっと見つめ続けていると、ラギはあからさまに嫌そうな顔をしてため息をついた。
……やっぱり、しつこかったかな。
「だーっ! こんなことぐれーで落ち込んだ顔すんな! わかったよ、言えばいいんだろ言えば!!」
私が肩を落とすと、ラギはぐしゃぐしゃと髪を乱暴にかいた。
「……おかえり。…………これでいいんだろ!」
そう言うラギはどことなくヤケになっていた気もするけど、真っ赤な顔が、嫌がっていたわけじゃないと教えてくれたから。
だから私は、笑顔でもう一度「ただいま」と言うのだった。
ただいま
(やっぱり、「おかえり」って言ってもらえると嬉しいから)
何かネタはないかと探していたら見つけたのでサルベージ。拍手のあいさつシリーズのボツ案その2でした。
2011.01/20掲載