「私とエドガーって、似てるのかな」
 今日は休日、時刻は昼。絶好の日和に大勢の生徒達が街へと繰り出す中、寮に残って勉学に励む者はごく少数だ。
 自習室で黙々と勉強していた二人だったが、ルルがふと零した呟きにエドガーは顔を上げた。
「誰に言われたの、それ」
「ラギとビラール。まるで双子みたいだって」
 ルルの言葉を受けて、エドガーは教科書の上にペンを放る。集中力は疾うに尽きていた。
 それは向かいに座っていたルルも同じだったようで、目の前には数十分前と変わらぬページが開かれている。エドガーが大きく伸びをすると、彼女もペンを置いた。
 その様子を目で追ったエドガーは、頬杖をついて口を開いた。
「ボクも言われたよ。君たちは似てるねって」
「誰に?」
「アルバロとユリウス」
 馴染みの深い名前に、ルルは瞬きをする。それからややあって、緩く首を傾げて小さく唸った。
「他の人たちには、そう見えるのかしら」
「自分ではよくわからないよね」
「うんうん」
 今まさに二人で頷き合っている様こそがそう言われるに足る理由だということには、当人達は気づいていない。
「そういえば、エストにも言われたこともあるかも」
「なんて?」
「うーん、なんだったかしら。【落ち着きのないところもそっくりなんですね】って言ってたかも」
 言いながら、盛大に眉を顰めた姿を思い返す。詳しい状況こそ忘れはしたものの、ひどく重い溜め息と共に言われたことだけは記憶に鮮明だ。心なしか、口元も引き攣っていたような気もする。
「ボクも、ノエルに【君達は双子のようにそっくりだな】って言われた」
「やっぱり、みんなにはそう見えるのかな」
「不思議だね」
 顔を見合わせて、首を傾げる。その動きは、まるで鏡合わせであるかのように全く同じだ。そうしてしばらく互いの顔を見つめあっていたが、やがてルルはふっと顔を綻ばせた。
「でも、嬉しいな」
「どうして?」
 突然の言葉に、目を瞬かせる。
「だって、エドガーと家族だったらきっと毎日が楽しいわ。エドガーは嫌?」
「うーん……嫌じゃない、けど」
「けど?」
 煮え切らない返事に、ルルは首を傾げる。真っすぐな視線を受けて、エドガーは頬を掻いた。
「もしボクとルルがキョウダイだったら、ちょっと困るかも」
「困る?」
「そう、困る」
 くり返し、エドガーは言葉の通りに眉を下げる。
「私はいいと思うんだけどな……」
「ボ、ボクも、キミと家族だっていうのが嫌なわけじゃないよ?」
 僅かに沈んだ声に、エドガーが慌てて首を振った。その勢いに、ルルは目を丸くする。
「そうなの?」
「うん、もちろん」
 大きく頷いたエドガーに安堵の息をもらすと、ルルは口元を綻ばせた。
「なら、良かった」
「それじゃ、そろそろ勉強もしっかりやらないとね」
「わ、本当。もうこんなに時間が経ってる」
 エドガーが促すと、ルルは素直にペンを取った。対するエドガーは、ペンを拾うこともせずにルルのことをじっと見つめ続ける。ルルはそんな彼の様子に気づくこともなく、教科書へと視線を走らせていた。
「家族、かあ」
 ぽつりと、目の前にいる少女には聞こえないほど小さく小さく呟く。再びこちらを向くことなく熱心に課題を映す飴色に、どうしようもなく重いため息が出た。

ふたりの違い
(キョウダイじゃ、困るんだよなあ)

 まだ、それを伝える勇気はないけれど。



公式で魂の双子とまで言われている二人。エドガーがルルに想いを寄せていたなら、双子みたいにそっくりだねって言われたら複雑なんじゃないかなぁとの考えから思いついた話です。

2010.09/08掲載
2011.05/02修正

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