* Caution!*


・黒バロ注意報
・甘さなんて微塵もない
・大人げないアルバロ
・アルバロが精神的にエストをちくちく

 以上を見て嫌な予感がした方は即座にブラウザバックでお戻りください。
 大したものではありませんが、「ちょっとでも暗いと駄目」という方にはお勧めしません。
 全然構わないよーと言う方はコチラから。






























































































































































































































































































































































































































































































 夕闇の迫る中、エストは渡り廊下を歩いていた。周囲に人影はなく、ただ静寂のみがあたりに漂う。
 ふと、静かな学院には似つかわしくない気配を感じて彼は足を止めた。今まで歩いてきた道を振り返り、暗闇を見つめる。

「……なんの真似です」

 影に向かって言葉を投げると、闇の中でゆらりと動く気配がした。

「君って、本当に我慢強いよね」
「なんのことです」

 唐突な言葉に眉を顰めて見返すが、暗闇から姿を捉えることはできない。ただ、声が響くのみだ。

「何をそんなに迷ってるのさ」

 笑みを含んだ声が、空気を震わせる。その纏わりつくような響きが不快で、エストは意識して冷たい声を出した。

「何を言っているのか、理解に苦しみますね」

 そう吐き捨てて、闇へと背を向ける。早くその場から離れようとする彼を嘲笑うかの如く、愉悦の混じった声が追いかけてくる。

「素直になった方が楽だよ?」

 その言葉に、エストは踏み出しかけた足を止めた。

「……先程から、何が言いたいんですか」

 不愉快だと言外に告げると、押し殺したような笑いが耳に届く。


「引き摺り下ろしちゃえばいいのに」


 瞬間、視界が白く染まる。頭が沸騰したような気さえした。思わず振り返ろうとする身体を、強く拳を握り締めることで封じる。ぎり、と噛みしめた歯が鳴った。

「同じ場所に墜とした方が、早いのにね」

 君もその方が嬉しいんじゃない?

 怒りに震えるエストに追い討ちをかけるように、耳障りな声が響く。

「僕はそんなこと望みませんし、興味もありません」

 硬い声で返すと、「ふうん」と気のない返事が聞こえた。

「そう言い張るなら、別にそれでもいいけどね」

 だけど、と一旦そこで声が途切れる。

「全部を知ったら彼女、どんな反応するのかな」

 その言葉に、マントの影で魔導書をきつく抱きしめる。

「……僕には関係ありません」

 震えないようにと零した声は、あまりに小さく響いた。

「そうかもしれないね、あまり俺も関心はない。……でもさ、」

 それまで平淡だった声が、一転して闇色に染まった。

「彼女が絶望を知ったとき、どんな表情を見せてくれるかは興味あるなあ」

 きっと、すごくきれいなんだろうね。

 継がれた言葉に、その声が宿す昏い色に、全身が粟立った。思わず、後ろを振り返る。

「あはは、すごい顔」

 ばさりと揺れたマントの向こうで、闇に浮かぶ歪んだ薄紅が見えた。それを認めて、エストは今度こそ踵を返してその場をあとにする。
 声の主が追いかけてくることはなかったが、いつまでも背中に視線が張りついているような気さえした。



「あーあ、怒らせちゃった」

 喉を震わせて、道化師は嗤う。その双眸は、既に誰もいなくなった廊下へと注がれたままだ。

「さて、これからどうなるのかな?」

 口元が、歪な笑みを形づくる。
 正直、あの二人がうまくいこうが破綻しようが、自分には関係がない。ただ、楽しめるのか否か。それだけが重要であり、それ以外に興味などない。

「最近のエストくんは、いじり甲斐があるんだよね」

 やっぱり、あの娘のおかげかな。

 口の中で呟いて、ようやく廊下から視線を外す。もう下校時刻はとうに過ぎている。面倒ではあるが、戻らなければ。

(……それに)

 この後で自分と彼女が話している姿を見て、彼がどんな反応を見せるのかも気になるところだ。表面上は繕っていても、必要以上に硬くなる表情と態度で本心はわかりやすい。

「ほんと、見てて飽きないよねあの二人って」

 ゆったりと、斜陽のかかる回廊へと踏み出す。鮮やかな陽を受けてもなお、彼の瞳は昏かった。

「ねぇ、俺を楽しませてよ」

 歪な三日月を刻んだ口元から、軽やかに音が零れ落ちる。それはどこまでも純粋で、無邪気で、果てしなく悪意に満ちていた。

逢魔ヶ刻にであう
(それは、どこまでも残酷な)



一度は書いてみたかった、アルバロとエストで暗いお話。
時期は期間中、光+闇→無でも光→無←闇でも。

2010.05/12掲載

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