ラギが目蓋を持ち上げたとき、目の前には赤の世界が広がっていた。
 一面を覆い尽くす朱色は分厚い雲に反射して輝いており、雲の切れ間からのぞく空は、未だ青い。自然が作り出した不可思議な光景に、ラギはしばし見惚れる。

「あいつが見たら、喜びそうだな」

 零した言葉は、存外大きく響いた。それと同時に、あの笑顔が胸を支配する。

「…………」

 唐突に、彼女に会いたくなった。何故かはわからないが、目の前に広がる景色を自分ひとりで見るには勿体ない気がして。

「……っし、帰るか」

 反動をつけて起き上がる。ラギは脇に退けていたマントと剣を掴むと、身につける間も惜しいとばかりに駆け出した。



 ルルは、目の前に広がる世界にただただ立ち尽くすばかりだった。
 雲に朱色の光が弾かれて輝き、その合間から青がのぞく。自然が作り出す幻想的なコントラストに、彼女はただひたすらに魅入るだけであった。

(きれい)

 声には出さず、唇だけで言葉を紡ぐ。まるで、雲が燃えているようだと思った。
 時間が経つごとに変化していく情景を目で追いながら、ルルはひとりの少年のことを思い浮かべていた。
 燃えるような髪色に、夕焼けのような色をした瞳。目の前に広がる世界は、否応なく特定の人物を想起させる。

(あいたい)

 徐々に青の世界を侵食する色を眺めて、ルルはそう願った。
 そうして、どれくらいの間ここにいたのだろう。声もなく空を見上げ続ける彼女の背に、待ち望んでいた声が届いた。

「ルル!」

 驚きに、飴色の瞳が大きく見開かれる。ゆっくりと振り向けば、大剣を担いで駆けてくる少年の姿があった。
 求めていた姿を映し出し、甘やかな色を宿した瞳が柔らかく緩む。桜色の唇は、確かな熱を込めて「ラギ」と紡いだ。

 少しずつ大きくなっていく足音を聞きながら、ルルは再び空を見上げる。
 赤と青が混じりあう様はやはり美しく、けれど先ほどよりもずっと深みが増しているような気がした。

夕焼け空に願う
(この色を見ると、あなたに会いたくなるの)



お互い無自覚な話。きれいな夕焼けの写真を見たので、このお話を書きたくなりました。

2010.03/08掲載

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