それは、カフェでお茶をしていたときのこと。
「はい、ルルちゃん」
 そう言って差しだされたのは、きれいに包装された箱。両手に収まるくらいの大きさで、有名ブランドのロゴが入ったリボンがかかっているのが見えた。
「アルバロ、これは何?」
「何ってプレゼント」
 見てわからない? とでも言うように、首を傾げられる。
「そうじゃなくて……どうしてアルバロが私にプレゼントを贈ろうと思ったのか。それがわからないから聞いてるのよ」
 なんだか、怪しい。そう思っていたことがはっきりと顔に書かれていたのか、アルバロは大袈裟に肩を竦めてため息をついた。
「信用ないなぁ。俺はただ、かわいい恋人にバレンタインの贈り物をしたかっただけなのに」
 いったいどの口が信用とか言うんだろうとか、いつから私がアルバロの恋人になったんだろうとか、言いたいことはいっぱいあるけど。山ほどあるけど!
 だけど、それよりも引っかかったことがある。
「……バレンタイン?」
 もう、そんな時期だったろうか。
「あれ、ルルちゃんてば忘れてた? 意外だな、イベント事には敏感そうなのに」
「……ついこの間まで試験だったじゃない。ずっと勉強に追われていたから、忘れてたの」
 本当に意外そうに言うものだから、なんだか悔しくてもごもごと反論してみた。……あまり、効果はないみたいだけど。
「ショックだな……恋人からバレンタインのプレゼントを貰えないなんて」
「……いつから私たちって、恋人になったの?」
「いやだなぁ、それは気にしちゃいけないよ」
 それって、すごく大事なことだと思う。そう言いたくなるのを飲み込んで、私はため息をついた。
「でも、本当に何も用意してないわ。ごめんなさい」
 忘れてすっぽかしてしまったのは事実だ。私だって、本当ならちゃんとプレゼントを渡したかった。けれど、こうなってしまってはもうどうしようもない。
「んー……じゃあ、こうしようか」
 上から降ってきた声に目を向けると、アルバロが考え込むような顔をしていた。目があうと、にんまりと口が三日月の形に吊りあがる。なんとなく、嫌な予感がした。
 アルバロはゆっくりと、長くてきれいな指を通りへと向ける。その指し示す先には、最近できたと話題のチョコレートショップがあった。
「あそこの店で、好きなチョコレートを買ってあげる。それでいいよ」
「待って、それのどこがいいの?」
 なんだかその対応は妙な気がして声を上げる。対するアルバロは、「まあ最後まで聞いてよ」と言って笑った。
「そして、それを俺に食べさせてくれればそれでいい」
「………………は?」
 たっぷり間を空けて、震える声で返す。それを正面で受け止めたアルバロは、変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。ううん、さっきよりも意地悪な顔をしてるって思うのは、絶対気のせいじゃない!
「もちろん、口移しで……ね?」
 加えてそんなことまで言いだすものだから、完全に思考が停止した。
 ラズベリーピンクの瞳を細めて艶のある声で囁かれてしまえば、自然と頬は熱をもつ。
「なっ……な……」
 何か言いたいけど、何も思い浮かばない。完全にパニックに陥った私を満足そうに眺めて、アルバロは「さあ行こうか」と告げた。
「ま、待ってアルバロ!」
「いやー、楽しみだなぁ」
 制止の声も虚しく、アルバロは私の手を取って強引に歩き出す。気がつけば目の前に迫る看板を捉えて、私は逃げ道がないことを悟った。

 今年のバレンタインは、一生忘れられないものになりそうかも。

強烈バレンタイン
(来年は、絶対ちゃんとしたものを用意しよう……)



アルル版バレンタイン。アルバロは当然ルルが用意していないことを見越して言ったに違いない。

2010.02/14掲載

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