「ラギ、待って! 待ってってば!」
後ろから聞こえた声に、足を止める。振り返ると、息を切らせて走ってくる姿があった。
「お、わりーわりー」
すっかり連れの存在を忘れていたのに気づいて、ひとまずルルが追いつくのを待った。
「もう、ラギってば自分だけさっさと行っちゃうんだもの」
傍に寄るなり頬をふくらませてルルが言うが、それも仕方ないだろうとオレは思う。
「だって仕方ねーだろ、八割引だぞ八割引! これで急がずにいられるかってんだ」
「でも、別にお店は逃げないと思うの……」
そんなことはわかってる。だけどあれも食おうとか、それも食おうとか考えてると、どうしたって気が逸るのだからしょうがない。
「それでもだ。ほら、モタモタしてねーでさっさと行くぞ」
言うと同時に、ルルの手をとって歩きだす。オレにしてみれば、さっさと目的地に着きたくてとった行動だった。ほとんど無意識だったが、手を握り返されてふと我に返る。
(……って、何してんだオレは!)
オレの手の中にすっぽりと収まるぐらい、小さな手。なんだか、このまま力を込めたら壊れちまうんじゃねーかってくらい脆そうな手だと思った。
「うっわ!?」
「きゃっ! な、なに?」
そう意識した瞬間、耐えきれずに手を離した。振り返れば、驚いた顔をしたルルがこっちを見ている。そりゃそうだろう。手を掴まれたそばから離されれば、誰だって驚く。
「ラギ?」
視線に耐えきれなくなって顔を背ければ、心配そうな声をかけられる。オレはというと、何も言えずにさっさと歩きだした。
「ラギってば! どうしちゃったの?」
ルルの声が追いかけてくるが、今は口をきける状態じゃない。
たかだか手を握ったくらいで馬鹿らしい。そう思ってるくせに、一度意識しだしたら止まらない。
(なんで今さら、女だって意識してんだよ)
そんなの、今に始まったことじゃねーってのに。
わけのわからない熱が身体中を巡るのを意識しながら、オレは頬を冷ますように街中を突っきっていった。
慌てて離した手
(意味わかんねー)
お題:確かに恋だった
「微妙な距離のふたりに5題」より
二回目のデート、カフェに着くまでを妄想。この二人は、甘酸っぱいイメージがあります。
2010.01/05掲載