ゲーム

街と呼べるほど栄えてはいないが、人が多く商売が盛んな町。太陽が半分ほど沈み赤味のある光が家々を照らすこの時間帯、町の目玉である市場は夕食の買い出しをする人々で賑わっていた。

そこから街道沿いに歩き商人の活気付いた声も届かないほど離れた場所で一人、町で買い物を終えて自らの家に帰る影がある。

夕陽を受けて輝く黄金の本を持った彼は、同じく腕に抱えた茶色い紙袋の中を覗いてご満悦だった。

「いやはや、まさかこんな所でお目にかかれるとは。」

彼、ネシアもまた食材の買い出しにと町へ寄ったのだが、袋の中身の半分ほどは予定と違う物が入っていた。
柔らかな黄色の皮に包まれ南国の香りを漂わせる果実、バナナンの実が何房か袋の中を占領している。
それを見て嬉しげに口角を上げていたが、ふと、ネシアは足を止めた。喜色を少しばかり抑えた表情で近くにある木立に視線を向けると、そちらに声をかける。

「私に何かご用ですか?」

ネシアが問いかけると木々が揺れ、枝の上や木の影からギラついた目の男達が現れた。
彼らは獲物を前に下舐めずりをするような笑みを浮かべてネシアの方へ歩み寄る。それぞれの手には不揃いの武器。盗賊だ。

「まさか気づかれるとはなァ。いや、すごいすごい。褒めてやるよ。」

一定の距離を保って止まった盗賊達の中、ニヤニヤと笑いながらリーダーらしき男が歩み出た。彼は手に持った斧をこれ見よがしにいじりながらネシアに返す。

「さて、そんな勘のいいあんたなら俺達の言いたい事は分かるよな?持ってるもん全部置いていきな。そうすりゃあんたには何もしねぇからよ。」

斧をこちらに向けながら言う盗賊に、ネシアは茶袋を抱え直して肩を竦めた。

「おやおや、この中には旅費と少しの食料、そして私の好物ぐらいしか入っていませんよ?」

「袋だけじゃねぇよ、その本もだ。そんだけ凝った装飾ならそれなりの値打ちはあるだろ。」

余裕を崩さないネシアの態度に、盗賊は少しずつ苛立ち始めた。それに気付きながらもネシアは変わらない態度で飄々と返す。

「おや、困りましたね。この本も欲しいとおっしゃいますか。この本の価値が人間、ましてや貴方達みたいな低俗な方々にわかるとは思えないのですが。」

「ふざけてんじゃねぇぞテメェ!!もういい、ぶっ殺して身ぐるみ剥いでやる。おい、お前ら!」

合図と共に周囲の盗賊達もそれぞれ手持ちの武器を構えた。その様子を尚も物怖じしない態度で眺めながら、ネシアは彼らに声をかける。

「武力行使ですか。でしたら少々お待ちください、私とゲームをしましょう。」

「ケッ、ビビって時間稼ぎか?」

今にもこちらを斬りつけてきそうな盗賊に対して、ネシアは楽しげな笑みを浮かべる。
そして彼らの狙いである本、神々の黙示録を開いた。

周囲に風が起こり、ページがパラパラと一人でに捲れる。それに応じるかのように周囲の地面に無数の魔法陣が浮かび上がった。
何事かとざわめく盗賊達を囲むかのように魔法陣から現れたのは、生気を感じさせない虚ろな表情をした兵達。彼らは皆一様に武器を構えると、殺気だけを盗賊達に向けてきた。
自分達の何倍もの数の相手にただならぬ身の危険を感じ盗賊達は狼狽える。体中を駆け巡る不吉な予感に先程までの威勢も消え失せ、弱々しく威嚇しながらもただただ後退るしかなかった。

そんな盗賊達の様子を眺めながら、ネシアは笑みを崩さぬままに口を開く。静かになった場で、彼の声ははっきりと盗賊達の耳に届いた。

「そこまで言うのなら仕方がありません、特別にこの荷物はあげますよ。……貴方がたが生き残れたら、ね。」







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