君の元へ



ジェシス、ほのぼの




天まで透き通るような青空が眩しい日、グラムブレイズの面々は
兵達の訓練に当たっていた。快晴の空は彼らに陽光を注いだが、涼しげな風が吹くため熱さに気力を削がれることもなく絶好の訓練日和だった。

その合間の休憩時間、ジェノンとシスキアは近場の花畑に来ていた。ジェノンが気晴らしにとシスキアを誘ったのだ。

「散歩日和でもあるだろ?今は花が満開の時期だしさ。」

この場所は小高い丘になっているため、とりわけ気持ちいい風が吹く。訓練に疲れた体をほぐすため、シスキアはうんと腕を伸ばした。

「はー、生き返るー!ここんところ訓練続きだったからさ、花なんて見てる暇無かったもん。何だか久々に癒されたって感じがする!」

大きく深呼吸をした彼女は周囲を見回しながら歩いて行き、ジェノンもそれについて行く。
最初はゆっくりと歩いて見て回ってた二人だが、やがてシスキアがある一点へと駆けて行った。

「あ、ジェノン、こっち来て!」

そう言い何かを手に持ったシスキアに、ジェノンが近づいていく。シスキアは頃合いを見計らって振り返ると、ふーっと息を吹いた。たんぽぽの綿毛だ。綿毛は彼女の吐息に背中を押されて風に乗り、ジェノンへと襲撃していく。

「うわ!」

「あはは、ジェノンったら綿毛まみれ!」

朗らかに笑うシスキアに、ジェノンも苦笑を返す。綿毛達は彼の服のあちらこちらにくっついていた。
さりげなく風上に移動しそれを取り外すジェノンの横で、シスキアはまた綿毛を吹く。今度は遠く、丘の向こうまで届きそうなくらいに飛んで行った。

「昔よくこうやって遊んだよね。まだみんな小さかった頃。」

「そうだね。たしかガーロットがなかなか一緒に遊んでくれなくて、さっきみたいにシスキアが綿毛を吹きかけたらムキになってやり返してきたっけ。」

「そうそう!何本も綿毛を取って、一気に吹いてきたりさ。結局みんな綿毛だらけになっちゃったよね!」

はしゃぎながら思い出を語るシスキアに、ふとジェノンは思いついた。自分も綿毛を摘み、記憶を辿りながら細工する。

「シスキア。ほら、これあげる。婚約指輪。」

ジェノンが渡そうとしたのはたんぽぽの綿毛で作られた簡単な指輪だった。茎の部分を丸めて作られたそれに、シスキアは笑う。

「もう。ジェノンったらまたそんな冗談!」

「はは、上手く作れたと思ったんだけどな。」

笑顔を繕うも、やはり冗談だと受け取られてしまったかとジェノンは沈んだ。彼女は覚えてないだろうか、昔遊んだ時もこうして作った指輪を渡そうとした事を。
いつか届くようにと願った思いは未だに彼女に伝わっていない事に、内心寂しさを覚える。

その時、今までより少し強い風が吹いた。ジェノンの手元で風に煽られた指輪から、綿毛がいくつか攫われていく。

「とう!」

急に腕を伸ばしたシスキア。目をぱちぱちとさせるジェノンに見せながらその閉じられた指を開くと、手のひらには飛ばされた綿毛がいくつか収まっていた。

「やった!その指輪から飛んだ綿毛だよ。すごいでしょ?」

上手くキャッチした綿毛を見せながら自慢気な顔で言うシスキアに、ジェノンは穏やかに笑う。彼女の手に捕まった綿毛達は潰れることもなく、誇らしげにその白い産毛を風にそよがせていた。
いつかこの思いも彼女に届くだろうか。

いつか、きっと。






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