名前は、本当は、不器用なのだ。
浴衣だって、まともに着られるようになるまで、10回は失敗した。そもそも、どちらが前か、知らないところからはじめたのだから。
親の力は借りたくない。名前の意地だ。祖母に電話しながら、冷房のよく効いた部屋で悪戦苦闘をくりかえした。
やっと着られた浴衣を両親に披露してみると、ふたりして渋い顔に変化した。母親の渋い顔と父親の渋い顔、その意味はそれぞれ違っているのだろう。母親がおはしょりをととのえてくれて、なんとか着付けは終えられた。
普段は、メイクを施さずに過ごしているけれど、すっぴんで着てみた自分の浴衣姿は、どことなく野暮ったかった。化粧品というと、日焼け止めとヌーヴのパウダー、メイベリンのマスカラ、キャンメイクのチーク程度しかもっていないけれど。厚くならないようにパウダーをはたいたあと、通学鞄に入ったままのポーチを取り出してみる。その中には、友達にもらった、アプリコットオレンジのリップグロス。リップクリームをひいたあと、おそるおそるのせてみた。
こうして軽くメイクをほどこしてみると、少しはマシになったかもしれない。 髪型は、ファッション雑誌に載っていたお団子にしてみる。
キヨシが、本当はどんな女性が好きなのか、名前は重々わかっている。 変わることのできる自分と、変わることのできない自分、名前のなかには二つある。 好きでもなければ嫌いでもなかった、自分の顔、からだ。誰かのためにどんなふうになりたいだなんて、これまで生きてきて一度も考えたことはなかった。 キヨシを好きになってから、名前に変化がおとずれた。一から変わってしまうことなんて到底無理であることはわかっているけれど、少しでもキヨシを歓ばせられるような自分に、なれただろうか。鏡の中の今日の自分は、少しだけ大人っぽい気がする。
母親がおろしてくれた草履。父親は、現地までおくるといってきかなかったけれど、断った。自分の足で、キヨシに会いに行きたかった。
神奈川新聞の花火大会。
それが、如何ほど大変な人出になるか。近場に暮らしている名前は、いやというほど自覚しているし、自宅の部屋からも花火の様はちいさく見えるのだ。でも、これは、どうしたって足を運びたくなる、夏休みの一大イベントだ。 とっくにコンクールで負けてしまって、まだまださきの文化祭の練習をのんびりとこなしていれば終わる、午前練習のみの、ゆるいペースの部活動にのぞみ、それなりの量の宿題をこなす。名前のそんな、高校生らしい、こどもじみた夏休み。そんな夏の、大切な楽しみのひとつ。
今年は、キヨシと見られる。 否、見られるかもしれない。
名前と違って、キヨシは、若い身空で、一人前に働いているのだ。
この時間は、かならずわたしがとりますから。
そう伝えると、その時間ちょうどにかかってきた電話。両親が出たって、キヨシと名前の関係を、誠実に説明する自信はある。だけれど、疲れているキヨシによけいな負担はかけたくなくて。
そうして、公衆電話から、キヨシが律儀にかけてくれた電話。
「神奈川新聞だけどよ……」 「はい、お約束してた」 「……それがよ、えれー遠い現場が、入っちまってよ」 「えっ、かけもちですよね?キヨシさんたち、優秀だからって、お二人だけで受け持ちすぎじゃないですか?」 「俺ら半人前だからよ、現場選べる立場じゃねーんだ」
きっぱりと意見してみたつもりの言葉は、世間知らずの高校生の、あさはかな口出しにすぎなかった。 名前の幼い言葉を聞いたキヨシの低い声には、電話越しに咎める気色なんてひとつもなくて。いつもの優しいキヨシのまま、名前に、誠実に語ってくれる。 自分の浅慮を恥じながら、名前は、キヨシのことを、精一杯いたわってみる。
「無理なさらないでくださいね?無理だったら、大丈夫ですよ?」 「でもよ、見にいきてーんだろ?」 「行きたいけど、仕事優先……」 「なんとか都合つけるからよ」
名前の気遣いをさえぎるように、落ち着いた声で、キヨシが宣言した。 体力と運動能力に恵まれ、性根もあかるくて。きっと、仕事場で愛されているふたりなのだろう。こうして、仕事が増えてしまうことは、よくあることのようだ。
元町・中華街駅は、まだ混み合っていない。けれど、これから会場へ向かうにつれて、人が多くなり始めるだろう。
桜木町駅で待ち合わせることに決めたから、いったん馬車道駅で降車した。午後6時過ぎのみなとみらいは、すでに大変な人出であった。歩いて桜木町駅まで移動する際、クラスメイトたちと何度もすれちがった。そのそばには恋人がいたり、見知った顔で連れ立って訪れて居たり。名前も一緒に行こうよと誘われたけれど、彼氏と約束しているのと、誠実に打ち明けた。
桜木町の、南改札、東口。 ここから少し歩けば、みなとみらいへゆける。 6時半には、いますからと伝えると、もしかすっと開始時間にまにあわねーかもしれねえ、と、申し訳なさそうな声で伝えられたこと。
そんなことはすべて織り込みずみ。 名前には、いくらでも待つ覚悟はあった。
駅の構内にも、駅前にも、待ち合わせをしている家族連れや、カップルで混雑している。そんな中で、わずかなメイクでひきたてられ、紺地の浴衣をまとった名前の姿は、多少目立っていて。ちらちらと視線をおくる男たちも多いが、当の本人はいたってマイペースに、キヨシを待ち続ける。
いざキヨシと落ち合えても、有料席は確保していない。できたばかりのランドマークタワー付近は混雑が凄まじそうだから、象の鼻パークがいいか。花火を横目に、山下公園まで歩いて戻っても、かまわない。部活で忙しい友達は、去年、駅のホームから楽しんだと話していた。ずいぶん穴場だったそうだ。
そして、ごったがえしている駅も、駅前も、人波がじょじょに動き始めて。 花火開始直前。明確な目的地と、そこへともにする連れ合い。 名前と違って、会いたい人に会えた人たちが、次々と、駅から姿を消してゆく。 すべて覚悟の上だったけれど、こうなってしまうと、なんだかさみしくて。 名前は、生来のきょとんとした顔で、軽くためいきをついた。
そのとき、駅の外から聞こえてくるのは、開始の大号令をつげるような、花火の音。 このまま駅前へ出てしまえば、いままさにあがりつづけている花火が見えるであろう。 この花火大会は本当に毎年素晴らしい。七色の花火が、次々と打ちあがり続ける。 でも、キヨシがくるまで、花火はみない。 キヨシがよく使う「筋」ということば。 それを執り行うことが、名前がとおすべき「筋」とやらに思えた。
午後7時半。 柱に背中をあずけて、キヨシを愚直に待ち続ける。 仕事を無言で遂行する駅員が、夏らしくかざられた浴衣姿の名前を、気がかりなようすで眺めたあと、目をそらした。
南改札の出口そばには、伝言板がわりの黒板が置かれている。
「先にいっています」 「予約したレストランにいます」 「ホテルでまってます」
大切な人におくられたメッセージが所狭しと詰め込まれた伝言板。 そのすみっこの、あいているスペースに、名前も書き込んでみた。
「キヨシさんへ ○○で待っています 名前」
ちっぽけなチョークをとりあげて、文字をスペースに詰め込む。 そして、名前は、駅に併設されているカフェへ向かった。 おなかがすいてしまっては、キヨシを待ち続けるためのパワーを失ってしまう気がしたのだ。カフェで、簡単な軽食を注文する。浴衣にはねないようなごはんを選び、花火に興味をしめさないタイプの客層に、ひとりゆかたでまぎれこみ、名前はマイペースに食事をほおばった。
カフェのなかにも聞こえてくる音。それらに微塵も左右されない、疲労とマイペースさが漂う空間。こうした場所も名前は嫌いじゃない。そして、きっと、キヨシも嫌いではないだろう。
今度、ここにキヨシと来てみよう。そう思案しながら、名前は、お金を払ってうきうきと駅の構内に戻ってみるも、キヨシはまだいないみたいだ。 伝言板には、書かれているメッセージを了承したというしるしを書き込むスペースもある。そのスペースに変化もない。
どかんと爆発するような花火の音、そして、電車がホームにすべりこむ音。 その二つが相俟って、名前の心の奥底が、頼りなさと寄る辺なさ、所在のなさと不安により、次第にざわつきはじめる。
遠くっつってもよ限度はあっから。最悪8時には来れんよ?
そう明るく語ったキヨシの声の記憶だけが、今はたよりだ。
事故ではないだろうか。もしくは現場でのケガ。 あるいは、あの日、キヨシの部屋を襲おうとしてきたような人ではないだろうか。
ただ、心配で。南口の改札からは、スーツ姿の社会人や、ジャージ姿の部活帰りの学生や、おくれて会場に訪れた浴衣姿の女の子たち。疲れていたり、切羽詰まっていたり、その表情はさまざまであれど、みんな、誰とどこにゆくか、きっと確かなのだ。
名前だけが、この場所で、いつまでたっても不確かで。 この駅の空の上で、いつまでもあがりつづける打ち上げ花火。その七色の美。 すべてが不吉なきざしに思えて、名前は、雑踏のなかで、ふらりとたよりなくくずれそうになる。
そのとき、そんな覚束ない名前の背後を、乱雑な歩調で歩くサラリーマンがいた。その人の肘が、花文庫のかたちに結ばれた、名前の浴衣の帯を、一気に引っ張った。
当の男性は、その所業に気づくこともなく、すたすたと歩き去ってゆく。
「あっ……!」
思わず背中をおさえた。自分の力で懸命に結んだ花文庫が、ほどけかかっている。自分で直そうにも、この結び方を再び手早く再現できるほど、着付けには慣れていなくて。 南改札東口の片隅にあわてて駆け寄って、とりあえず、最も基本的な文庫結びで、着付けなおしてみる。 トイレにでもかけこめばいいのに、ここを動くことが、今の名前には不安でたまらなくて。ぶかっこうで、不器用な帯が、情けなくできあがった。どうしようもない思いで、結びなおした帯をくるりと後ろにまわした。動揺により、一気に噴き出してきた汗。蒸し暑い駅構内。バッグからハンカチをとりだして、汗をぬぐうと、肌色のフェイスパウダーも一緒にとれてしまう。
キヨシのまえでは、せいいっぱい、明るく振る舞うけど、生来、能天気な性分だけれど。 キヨシに恋をして、名前は変わった。 心配することを知って、不安になることを知って、変わりたくなる自分を知った。
そうして表情の曇ってしまった名前には、いつしか彼女らしくない隙が生まれていて。
駅の片隅で、しょんぼりとたたずんでいる名前に、二人組の影が近づく。
こざっぱりと着つけられた名前の浴衣の肩が、いきなり叩かれる。 皆、駅前まで出て花火を楽しんでいる中、いつまでも駅構内で、だれかを待ち続ける名前は、いやでも目立っていた。
一人かだとか、何を食べに行かないかだとか、ろれつの回らない口調で尋ねられた。 それは好きじゃないからいやですと正直に伝えると、ひきつった笑い声が駅中に響く。 女子校だと、名前のこういうところを、みんなうけいれてくれる。キヨシ、そしてヒロシも、あの背の高い褐色の肌の青年も、名前のこういうところを、こころよく認めてくれる。
そして、世の中、そんな人ばかりじゃない。
名前と同い年だけれど、名前より大人のキヨシは、きっと、そういうことをすべてわかって、この社会で生きているのだ。そうして、キヨシの優しさが、荒波で傷ついたとき、キヨシから怒りがうまれるのかもしれない。
うつむいて考えごとをしている名前に、小汚い手がのびようとしたとき。
名前のはなを、汗のかおりがくすぐった。 それは、疲労と充実感で染められた、名前にとって、とても優しいかおり。
「キヨシさん!!!」
名前の前に立ちはだかった、みなぎるように広いその背中。
「おめーら、俺の……」 オンナ、に、何、して、やが、る……。
「キヨシさん!大丈夫ですか!!」
汗まみれのキヨシが、名前を守って、二人組と名前の間にたったあと、ふらりと膝をつきかけた。
「わりぃ、走ってきてよ……」
名前に向かって片手をあげたキヨシ、 その名前を呼んだ名前。
労働後の汗のにおいが、二人組の男のやすっぽい香水をうちはらう。
聞き覚えのある名前、どこかで見たことのあるツラ。 そう悟った二人組は、いつのまにか雑踏の中へ、逃げ込んだ。
「名前、待たせたな」 「キヨシさん!お怪我とかないですか?」 事故?違いますよね!?
小汚い二人にからみつかれていて、ゆうに二時間は待たせ続けていて。 ソフトで澄んだ声になじられること、その愛くるしいツラで泣かれてしまうこと。 すべてを覚悟していたキヨシは、背中にかばわれ守られて、おびえやおそれをみせるとおもいきや、いきなり切羽詰まった声で、キヨシを気遣いはじめた名前に、逆に気圧されるのだ。
「ケ、ケガぁ?ヒロシが事故るわけねえだろ?デージョブだよ」 ゆっただろ、遠くてよ……。
浴衣姿で、汗臭い己にかまいもせずぴとりとくっついて、開口一番己のことを気遣う恋人のことが、いとしくて、しかし面はゆく。 キヨシは、名前の真っすぐな瞳から、ばつがわるそうに眼をそらす。
「すごいあせ。走って・・・・・・?」 「ヒロシはヒロシでよ、約束あるみてーだからよ」
まっすぐな声でしかられるものだとばかり その純粋な声は、キヨシのことを案じてばかりだ。 何のトラブルにも巻き込まれず、ただ、遅くなっただけ。
「遅れてわるかった。……その浴衣よ、かわいいナ?」 「本当ですか、ありがとうございます!」 がんばって自分で着ました!
袖を広げて、誇らしげに浴衣を披露する名前の頭をぽんぽんと撫でようにも、凝った髪型を崩すことなど、できなくて。 キヨシの、不格好な太い指は、ゆきばをなくして、だらりと落ちた。
「キヨシさん、お疲れですね、外出ましょ?」 「みなとみらい行くかよ?つか、もう終わるよな……」
キヨシのほうからとられた手を、名前も握り返す。
「あ?西口?そりゃ、オレんち行っちまうぞ」 「行きましょ?歩いていれば、この花火もみられるし!」
結局、花火は、最後に乱れうちされるクライマックスを楽しめたのみ。 ヒロシにほうりだされ、数キロの道を一目散に駅めがけて走ったキヨシも、花火どころではなかったのだ。
野毛へ向かう出口から出てしまえば、花火大会の人ごみから、じょじょに逃れられる。
「キヨシさん、おなかすきましたか?」 「弁当三個くったからな……」
キヨシの食欲は、名前にとってたまらなく楽しい事象のひとつだ。大好きなキヨシがおなかをすかせることもなく、今日も健康に、すこしハードではあれど、皆から必要とされて、仕事にうちこめて、そうして、そんな元気なキヨシとこの日最後の花火を見られたこと。 名前にとって、こんなにいとおしいことなんて、ないのだ。
充実した表情の家族連れやカップルとすれちがうと、名前まで楽しくなる。 何がなんだかわからないが、妙に機嫌がよさそうな名前を伺って、手をつないだまま、キヨシは片手で鼻の下をこすった。 そういえば、名前はおなかをすかせていないのか。 そんなことをたずねようとすると、頭ひとつ背が低い名前が、澄んだ声で、突拍子もない提案を口にした。
「花火、やりませんか?」
立ち止まったのは、ヒロシのアパートから800メートルほど離れた公園。
「……、おめーよ、んなとこで花火やってっとよ、オマワリとんでくんだぜ」 「じゃ、キヨシさんちで!!」
空いたコンビニのかたすみで、名前がささやかな花火を買った。それくらい、キヨシが買ってやれる。もっと豪華なのにしろよと言っても、名前はきかなかった。
しかし、アパートでやるといっても。偏屈な住民に叱られるかもしれないと伝えると。
「小声でしましょう!小声で!」
一階のすみのキヨシの部屋。掃除に使っているバケツに水道水を張って、アパートの壁面の死角に、ふたりしてしゃがんだ。
「黙ってやる花火って何なんだ?」 「シッ!キヨシさん、しずかに!」 「しずかにったってよー……パチパチいう音はきこえんぞ?」 「小声でやりましょう!」
名前のペースにまきこまれたまま、ほんのちいさな花火セットをばらして、頼りない先端に、100円ライターで火をつけてやる。 シュボっという音をたてて、花火が火をふきはじめた。名前もキヨシも、こういった花火をやるのはいつぶりか。 ささやかな花火でも、鮮やかな火が噴き出すさまは、ほんの少しの脅威と悦楽を感じて、キヨシの口元にも笑みがうかび、名前は満面の笑顔だ。
「おそくなっちまってよ、親おこんねーか?」 「遅くなったら友達の家泊まるって、言ってるの」 「いーんかよ、ムリさせてねーか」 「前も言ったでしょ?うち、外泊OKです。そのかわり、何があっても、自分で責任とりなさいっていわれてる。人のせいにせずに、全部自分で責任とれるなら、どこで何やってもかまわないわよって、両親に言われてます」 でも、今日は、帰ろうかな?お父さん、電話くれたら迎えにいくって言ってたから。
どこかせいせいした顔で、そうつぶやく名前を、案じるようにみやったキヨシが、ぽつりとつぶやいた。
「今日もガマンさせちまっただろ、すまなかったな」 「ガマンしてるのはキヨシさんでしょ!もう、お疲れなのに……。今日は、わたしのことなんか気を遣わないで、ゆっくり休んでください。明日は休みでしょ?」 「疲れなんかよ、おまえみたらどっかいっちまったよ」 「無理はいけませんよ!きっと明日もヒロシさんとバイクでどっか行っちゃうんだから!」
花火に照らされて、名前の顔はいたって真剣だ。 責められているわけではないことはわかっているけれど、キヨシの口から、詫びの言葉が矢継ぎ早に出てくる。
「あんまよ、すっぽかさねーよーにすっから」 「すっぽかされてないですよ、走ってきてくれて」 「おくれちまっただろ」 「無理なさらないようにしてくださいね。わたしも、キヨシさんに何かできることないかな?」 「名前がそばにいてくれりゃ、じゅーぶんだよ」 「キヨシさんって、欲がないですよね?」
んなこというんぁよ、オメーだけだゾ……。
キヨシが、いとしい悪態を名前に向かってつきながら。 名前が買ったささやかな花火は、アッという間に終わった。
「ケータイもつかよ……」 「お電話は持ってたほうが、職場の人たちも安心するかもしれませんねえ……」
いつしか、ふたりの声は、小声なんてものではなく、いつもどおりの弾んだ会話となっていた。それを自覚したふたりが、顔を見合わせ、ばつがわるそうにわらう。花火の残りかすを、まとめてバケツにつっこみながら。 膝をかかえてしゃがみこんだままの名前の、きれいにゆいあげられた後頭部。大きな手が、名前をひきよせる。
「今日、ちょっとだけメイクしたの」 「何のせよーとよ、何ものせてなくてもよ、名前ぁよ、いーオンナだ」 「キヨシさんも、いい男です」
汗と潮のかおりは、名前にとって、とてもここちよい。 腕をつかまれて、思い切り立ち上がらせられて、その逞しい胸のなかに倒れ込む。
そうして、キヨシから不器用なキスがおくられる。浴衣をまとった腕が、キヨシのべたついた背中にすがりつき。 不器用な名前は、不器用なキスを、不器用に、そしてきまじめに。 ぬるい夏の夜。名前はいつまでも、あたたかなキヨシのキスを、受け止め続けた。
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キャラクター キヨシ / 「花火に行く約束をしたが、キヨシの仕事が終わらず間に合わない。彼女は待ちぼうけ。ナンパされかかったところへキヨシ登場。浴衣の彼女にデレる。花火会場へは行けなかったけど、つかの間のデートを楽しむ二人」(+公園花火)
ナナシ様、リクエストありがとうございました!! このあとお父さんが迎えに来ると思います。
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