( エースと同じ会社 )



「ヒロインちゃん、これ下に持っていってくれる?」

「はーい、分かりました、係長ですか?」

「うん、もしいなかったらエースくんでもいいよ」

「了解です」

「ん、お願いね」


課長から書類を受け取って、下の階へ向かう。


ドアを開けて係長のデスクへ目をやったけれど、姿はなくお留守みたい。


だけど代わりに、隣のデスク。


ちょうど大きな口を開けてあくびをしているところのエースさんと目が合って。


「ふふ、お疲れさまです」

「お疲れさん」


思わず、きっと必要以上の笑みが零れてしまうと、エースさんもつられたようにニカッって笑ってくれた。


午後の陽射しが入る窓際の席。


きっと朝からきっちりと結んできたんであろうネクタイが、ちょっと窮屈そうに見えちゃうエースさん。


「エースさん、寝不足ですか?」

「んー…そういうわけじゃねェんだけどな、この時間帯特に眠ィ」

「しかもお昼寝日和ですしね」

「おー、そうなんだよ」

「くすくす、はい、これ、課長から預かってきました」


他愛もない言葉を交わしながら、預かってきた書類をエースさんに差し出す。


「ありがとな、…ん?」

「え?」


エースさんも手を出して受け取ってくれた。


けれどその瞬間止まって。


エースさんは顔を上げて、私の目をまっすぐに見た。


「なァ、ヒロインちゃん」

「はい」

「すげーいいにおいする」


そして真面目な顔して予想外なことを言われて。


確かに身嗜み程度には香水を付けてる。


今朝は気分で、いつもより少し甘い香りのものをチョイスしたことを思い出した。


「あ、そういえば今日いつもと違う香水付けてるんです」

「いつもいい匂いすんなーとは思ってたけどさ、ヒロインちゃんとその香り最強だろ」


真剣な顔して言葉を続けるエースさん。


エースさんが下心から今更こんなこと言うなんて考えられないし。


多分純粋にこの香りがエースさんの好みにはまったんだろうな。



「やべェ、目ェ覚めた、やる気でた」

「あはは、ほんとですか?」

「おお、まじで、ヒロインちゃんすげェ」


エースさんは大きく伸びをして、改めて私の方へ向き直った。


本当に口調までも、はつらつとしてきているような。



それからまたとびきりの笑顔で。


「ヒロインちゃん、明日からもそれ付けておれのとこ来てよ」って言われて。





プチきゅん。




外見を褒められるよりも、なんだか不意を突かれてしまった。


この香水、会社専用になりそう。



(もう行っちまうの?まだいりゃあいいのに)
(ふふふ、課長に怒られちゃいますから)
(んじゃあまた早く仕事頼まれて来て)


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