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突如サンジくんに後ろからさらっとお尻を撫でられた私!


突然のこと過ぎて拒否る隙すらなかったんだけど。


「ええぇ…サンジくん!今なんでお尻触ったの!?」

「でゅっふっふ〜、いや、今ヒロインちゅわんの尻に虫がいてさ」

「え、本当に?」


今起きた一瞬の出来事の確認をしようと。


振り向きサンジくんの顔を見れば、全てのパーツをだらしなく緩ませとっても幸せそうな表情で。


そんな顔で虫がいたとか言われても説得力ないような…。


「おれがヒロインちゃんに嘘を吐くと思うかい?悪い虫が付いてたよ、…でゅふふふふ」

「いやいや…だってその顔……、あ、てかサンジくん、そもそも虫なのに大丈夫だったの?」

「ああ、気持ち悪ィ系の虫じゃなきゃ平気だよ」

「そっか…そうなんだ」

「それにしてもヒロインちゃんの尻…クソ触り心地よかったなぁ…」


今度はサンジくんは感触を思い出しているようで、幸せそうな表情には拍車が掛かった。


でも本当の本当に虫がいたのかなぁ?


けど…気持ちを伝えることこそしてないものの、私はサンジくんのこと好きだし。


尻を触られるくらいいいような気もするんだけどね。


こんなだらしない顔もかわいいとか思えちゃうし。


「…ふふ、じゃあサンジくん、」

「うん?なんだい、ヒロインちゅあん」

「虫、追い払ってくれてありがとう」

「ぐほぉ!ヒロインちゃん…!そんなかわいい顔して礼を言うのは反則だぜ…!!」

「あはは、普通の顔してるだけだけど」


真偽は分からないけれど一応お礼を言えばサンジくんは胸の所を押さえ苦しみ始めた。


ほんと忙しないんだから。


私はそんなサンジくんを笑って眺めてた。


「あー…やっぱダメだ、」

「え?」


するとさっきまでの症状が落ち着いたらしいサンジくんは、ふと真面目な表情になって。


「君が、他の男に取られるとか…」


少し小さな声で言った。


今までとのギャップと、今のセリフが理解しきれなくて。


ちょっとだけ思考が止まってしまった。


「昨日さ…、出港する前、」

「…うん?」

「男に絡まれてたって本当かい」


そうして真剣な眼差しで見つめられる。


雰囲気が変わったことが分かる。


でも変に意識しても仕方ないっていう気持ちが、無意識に平静を装わせていた。


体内では、真面目な顔したサンジくんに、心臓の音がうるさくて仕方ないっていうのに。


「ウソップが見掛けたらしいんだ、ヒロインちゃんが町の男と話してたの」

「昨日……、あ…ただちょっと声掛けられただけだよ」

「だが、誘われたりしたんだろ?」

「でもちゃんと断ったよ、そもそも相手にしてないし…、そこはウソップに聞かなかった?」

「聞いた、が…、でも、」


…あれ?なんだろう、これ。


彼女が心配性の彼氏に問い詰められているようなシチュエーション。


まぁサンジくんにとったら世界中のレディが彼女のようなものなんだろうけど。


そんな顔してこんなふうに心配してもらえることは、単純に嬉しかったりしちゃうの。


でも相手はサンジくんなんだからと自分を戒めて、ちょっと切なくなったり。


心の中で葛藤が始まった時だった。


今度はサンジくんは私の二の腕を掴んで。


「…ふ、サンジくん?またなんかいた?」

「ああ…、また悪ィ虫が」


でも今は明らかに虫なんていなかったのに。


「くすくす、やっぱ嘘なんじゃん」

「違ェ…嘘じゃねーよ、」


サンジくんの意図も分からないけど、ひたすらに気持ちが掻き乱される。


どうかこの胸の高鳴りが、サンジくんにとって重荷になりませんようにと願いながら、精一杯の笑顔を作っていた。


だけどサンジくんは私の気持ちなんてお構いなしに、更に私との距離を縮めて。


耳許に唇が近付いてきて、いよいよ戸惑いも隠しきれない。


するとその唇は、少し自信なさげに囁いた。


「――…サンジ、っていう悪い虫」

「ん…?」

「君に付いてること、忘れねェで」

「ぇ…え…?えっと…サンジくんは、わるいむしなんかじゃ…」

「いや…悪い虫でいい、…から、君の一番傍にいてェんだ」


そうして私はサンジくんに抱き締められていた。


きっとサンジくんの気持ちが目一杯込められた腕の中。


「ヒロインちゃん…好きだ」


幸せで目が眩みそうになるのをこらえて、私もサンジくんの背中に腕を回した。





告白をされた日の思い出。




あれは、一年前の出来事。



「まともな告白すらできねェで、ヒロインちゃんの尻触るとか、まじで話になんねェよ」


そう言って、今、隣で。


照れくさそうに笑うサンジくんは、あの日から私の大切な恋人。



(あ、でも、サンジくん、)
(うん?)
(悪い虫のせいにしてお尻触ったのはなんで?)
(あー…あー……そりゃあただ単に触りたくなっちまったから、悪い虫はおれだって言い切ろうと…)
(あは、やっぱりサンジくんはサンジくんだね)


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