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※現パラ



ふわふわと掴み所のねェ振る舞いで。


おれを虜にして。


ああこのひと、おれじゃねェとダメなんじゃねーか、って。


本気で思えるのに。



どうして?



帰る場所はおれ以外の男の所。




「逢いたい…サンジくん、逢いたいの…」


ヒロインちゃんの、この言葉だけで。


テメェの予定なんて、全部真っ新にできちまうくらい惚れてる。


おれは君さえいればなんにもいらねェんだよ。


君が全て。おれの日常。


でもおれにとっての日常は、きっと君にとっての非日常に過ぎなくて。



おれからはかけねェって約束してる電話。


どんなに顔が見たくても、せめて声が聞きたくても。


約束を破った時点で終わっちまうかも知れねェから。


優しく愛を囁きてェ時も、めちゃくちゃに抱きてェ時も、我慢してる。


だがそんなふうに待っている間に。


このまま消えちまうんじゃねェかって不安に襲われる日は、気が狂いそうにもなる。


だからこんな関係終わりにした方が、いっそ楽なんじゃねェかってまじで思う。


約束を破って、終わりを告げようと、何度躊躇したことか。


それでも「逢いたい」の一言で。


別れの言葉は泡沫のように消え。


やっぱり君にはおれがいねェとダメだって思えちまうから。



いつもの待ち合わせ場所まで、今日も車で迎えに行く。


おれに気付くと嬉しそうに手を振って、駆け寄ってくる姿。


キラキラと輝いていて、どの女よりも眩しいおれの女。


ただ、左手の―――。



薬指だけは、霞んで見えねェまま。



「サンジくん、逢いたかった」

「ああ、おれもだよ、ヒロインちゃん」


助手席のドアを開ける為に車から一度降りれば。


首に華奢な腕が回されて、毎晩求めている香りで埋め尽くされる。


甘ったるく優しい声がおれの名を呼ぶ。


それだけで、欲しさから、おれの喉は静かに鳴った。


「ヒロインちゃん…、人に見られちまうよ、とりあえず乗りな」

「でも…逢うと、やっぱり、そんなことどうでもいいって思えちゃうの…、サンジくん好き」

「フ…どうでもよくねェだろ」


なんでおれの方が世間体を気にして。


ヒロインちゃんがそう言うなら、何もかも気にしねェでこのまま拐って。


名前すら知らねェあの男から、奪っちまえばいいものを。


それができねェのも、本気で愛してるから。



「ヒロインちゃん、メシ食った?」

「あ…まだ、だけど、」


今となっちゃヒロインちゃん専用の助手席。


ハンドルを握ってねェ方の腕を伸ばし、手のひらを重ね、指を絡め。


隣に居ることの幸せを噛み締める。


逢えねェ時間だったら、たっぷりとあるから。


次に逢えたらどんなことを話そうかとか。


どんなことをして楽しませてやろうかとか。


普通の恋人同士のようなことだって、たくさんしてェし。


様々な想いを馳せるんだ。


いつも。


「そっか、ならどっか食いに行く?」

「ううん、でも、まだ大丈夫」

「あー…じゃあ先に夜景でも見に、」

「サンジくん」


なのに。


遮るようなヒロインちゃんの声。


「サンジくん…ごめん…はやく、もっとふれられたいの…」


逢えねェ時間は、あっけなく壊され。


都合よく赤に変わった信号を、二人だけのものにして。


呼吸すら邪魔になる程のキスを。


「っ…サンジく……!」

「…足りねェよ」


淋しさとか苛立ちとか、含ませて。


自分勝手で最低なキス。


おれの気持ち、思い知ってよ。



家まで連れていく距離すらもどかしくて。


ホテルの部屋に入り、疼くからだの思うままに。


「サンジくん待って、シャワー…」

「今更…いらねェよ、そんなもん」

「だけど、」

「言っとくけど、煽んのはいつもヒロインちゃんだからな」


貪るように唇を濫妨。


だが乱暴なだけのものにしてェわけじゃねェから、甘く舌を絡めて。


服を剥ぎ取りながら、ベッドへ沈めた。


「ヒロインちゃん…、今夜、は…?」

「ふふ、朝までいられる」


下着姿のヒロインちゃんは、心から幸せそうに微笑んで。


人差し指でおれの唇をそっとなぞった。


今夜は時間を気にすることなく抱ける。


その事実がおれの疼きに更に拍車を掛け。


再び激しく唇を重ねながら。


ヒロインちゃんが纏う煩わしいもん全部、脱がせたくて。


「じゃあ存分に抱ける」

「んッ…」


柔らかな胸に指を沈ませる。


まだ触れてもねェのに存在を主張する頂きに歯を立てて。


からだ中をまさぐって。


「サンジくん…!」

「なに、」

「じらさ、ないで…ッ、はぁ…」

「……ハ、焦らしてんのはどっちだよ」


脚を指で辿りながら思わず言っちまったセリフ。


ヒロインちゃんは潤んだ瞳に悲しげな色を差し、首を横に振った。


そんな顔させてェわけじゃねェのに。


こうなってくるともう嗜癖なんじゃねェかとすら思える。


手に負えねェアディクション。


過ち、自責、懇願、―――謝罪?


そんなもんいらねェから、君の全てをおれにくれよ。


「アッ…!!ん…!」

「フ…ヒロインちゃん、すげェ」

「はぁ……だって、私がすきなのは、サンジくんだけなの…!」


言っちまった言葉は取り消せねェ。


誤魔化すように、愛撫なんて必要ねェ程に潤った泉に指を埋め、掻き回す。


同時に滴る蜜と、漏れる音がクソやらしくて。


「じゃあもっと、おれしか知らねェ顔見せてよ」

「ッ…今だって…、ぜんぶ、サンジくんのもの、だよ…!あ、あぁ…だめ」


もっと焦らして攻めて、責め立ててェけど。


泣き叫びたくなる程の愛は。


いつも自分自身すらコントロールできねェで、早くヒロインちゃんの中でぶちまけたくなっちまう。


この身一つで、ここまで君を悦ばせてやれるのはおれしかいねェ、と。


おれを求めるヒロインちゃんの姿を見てると、幻想だって抱いちまうから。


「あっ!…やぁぁ…!!サンジくん…!」

「クク、ヒロインちゃん…今日も、挿れただけでイッちまったの?」


勢いよく貫けば。


ヒロインちゃんは悲鳴のような喘ぎと共に、まず達した。


「ん…、ぁ…はぁ…はぁ、」

「クソかわいい、…だがまだまだ終わんねーよ」

「…ンジく……」


恍惚の表情でおれを見つめるヒロインちゃんに一層煽られ。


休む間も与えずに腰を振った。


ありたっけの愛を耳許で囁きながら。


「ヒロインちゃん、愛してる」

「サンジくん…私もッ…」

「愛してる、愛してるよ」


なのにありきたりな言葉にしかならねェことが歯痒くて。


だからいつもどれだけ抱いても足りねェ。


からだ中、余すことなく何度も犯して。


ドロドロした感情に蝕まれた。


おれの毒で、君を侵す。


だが吐き出した毒ですら、ヒロインちゃんはおれのものならば喜んで受け入れる。


毒まみれなはずなのに。


君は一向に汚れず、美しいまま。




誰のもの?



なァ、どうして?


どうして、他人のものになんてなった。


どうして、その関係を終わりにしねェ。


あぁ…どうして君は、ここまで残酷になれるんだ。



そんな言葉、全部呑み込んで。



「クソ愛してる…」

「ぅん…サンジくん、あいしてる」


我慢できずに抱いて、二度目の吐精の後、優しく抱き締めた。


二人の唇を混ぜ合わせるようなキスはやめずに。


どれだけ時間が経ったかも分からねェ。


ここは楽園。



だが、その時。


「…!」


無機質な音が鳴り響いた。


二人を引き裂く音。


聞き覚えのねェ着信音は、おれの携帯ではなくて。


そもそもおれは携帯の電源を落としてるのに…。


その瞬間ヒロインちゃんは青冷め、あっという間におれの腕をすり抜けた。


白い背中が随分と遠く見えて、ひどく胸が傷んだ。


「―――…はい、」


着信音は途切れ、代わりに聞こえるヒロインちゃんの弱い声。


電話の相手は想像したくもねェけど。



震えてる。



…携帯を持つヒロインちゃんの手が震えてるから。


ああもう、どうして。


「今?…ううん、家じゃない」


君が背徳に怯えるのなら、和らげてやりたくもなっちまうんだよ。


後ろからそっと抱き締め、震える手を覆うようにおれの手を重ねた。


ヒロインちゃんのからだは小さく反応を示しもしたが、当たり前のようにおれを受け入れる。


「えっと…、今日は泊まりって言ってたから、お友達とごはん…」


オトモダチトゴハン…。


違ェだろ。


おれと、人に言えねェようなセックスしてたんだろ。


一瞬思考が鈍りそうになり、回した腕に少し力を入れた。


そんな中でも否応なしに漏れて聞こえてくる、男の声。


「ハハ、おれがいないからってあんまり羽目を外すんじゃないよ」

「……ふ、分かってるよ、…それでどうしたの?」

「いや、案外仕事が早く片付いてさ、あと二時間もすれば家に着くと思う」

「あ……、そうなんだ、」


おれを楽園から奈落へと突き落とす非情な会話。


ヒロインちゃんとの心の距離は、もう隙間なんてねェ程に近付いてるはずなのに。


…だったらこれ以上どうしたらいい?


分かんねェ。


それでも、朝まで一緒にいられると心底嬉しそうに告げたヒロインちゃんの笑みを。


偽りだなんて思うことはできねェから。



電話を切り、顔は見えねェけど茫然としているであろうヒロインちゃんの耳に口付けをして。


「…送るよ」

「でも…!!」


できる限り棘のねェ優しい声を作り、言葉を振り絞れば。


ヒロインちゃんはハッとしたように振り向き。


瞳には綺麗な涙を溜めて。


「おれのことはいいからさ……、帰らねェと、」

「違うの!…サンジくん、違うの」


息苦しくなるほどに切羽詰まった声と表情。


留めきれずヒロインちゃんは大粒の涙を流しながら、おれに抱き付いてきた。


「私が、サンジくんと離れたくないの…!」


泣いて、縋らせて。


満たされて。


なのに、同時におれの心はまた空になり。


同じ日々を重ねる。



これが君の、思惑通り?



まんまと手中で游がされて。





リスキーゲーム。




あと五分もすりゃあ、ヒロインちゃんを見送る場所。


言いてェこと、色々あるはずなのに。


適切な言葉が一つも見付からねェまま。


別れの時は刻々と近付いて。


繋いでいる手のぬくもりが恋しくて仕方ねェ。



「サンジくん、じゃあ…またね」


あっという間にいつもの場所で、ヒロインちゃんは名残惜しそうにおれを見つめた。


まだ泣きそうな顔。


んな顔してたら、気付かれちまうっつーのに危なっかしい。


どうせ同じ結末を辿るなら、今、おれの腕の中へ閉じ込めちまおうか。


行かねェで、と告げて?



おれの隣から去ろうとするヒロインちゃんの手首を掴み引き寄せた。


そうしてきつくきつく抱き締める。



「ヒロインちゃん…」



行かねェで。行かねェで。



行かねェで…。




「ヒロインちゃん、…じゃあまたな」



結局手放した。


削除した言葉の代わりに。


別れ際のキスは、最高のキスにしよう。



君がまたすぐに。


おれに逢いたくなるように―――。


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