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どうしてこんな女、好きになっちまったんだ。



「なァ…」

「なぁに、ゾロ」

「何って…」


おれの気持ちを知った上で。


いや、おれが伝える前から、きっと知ってて。


それでも表面上、知る前も、知ってからも。


態度に変化はなくて。


もしかしたらおれの反応を見て楽しんでるのかも知れねェ、掴み所のねェ女。



艶を含み優しく微笑む。


その顔も好きで、目が離せねェ。


なんて、もう口が避けても言わねェけど。


「ヒロイン…、おまえ人の話、聞いてるか」

「くすくす、失礼ね、聞いてるに決まってるでしょ」


夜の甲板。


手すりに肘を置き、暗い海を眺めてたらしいヒロイン。


その隣に立って、おれも海に目を向ける。


ただただ黒ェ。


まるでヒロインの心の中みてェに何も見えねェ。


「ハァ…」

「人の顔見て、ため息なんて、ますます失礼な男」

「…チッ」

「あはは、今度は舌打ちー?」


軽快に、けれどキレイに笑う。


いつの間にかおれの心の中に入ってきて。


知らねェうちに居場所作って、追い出せなくなっちまって。


欲しくてたまらなくなった。


だから数日前の深夜、二人で酒を飲んでいい雰囲気だったし、言った。


“おまえが好きだ”と。


その時もヒロインはキレイに微笑んで。


そして自らおれの唇に唇を重ねてきた。


ずっと欲しかった女の柔けェ唇。


突然の出来事に、一瞬にして理性は崩れかけた。


が、ヒロインの気持ちも聞いてねェし、わけが分からねェ戸惑いが、ギリギリのところでおれを留まらせた。


初めてここまで接近したヒロインを、引き離し制止した。


「…なに、すんだ」

「しよ、ゾロ」

「しようって…、何を、」

「ふ、分かってる癖に」


正直こんな展開になるとは思わずに。


事態を飲み込めねェでいると、ヒロインは再び唇を重ね、今度は舌を割り込ませてきて。


…もう、我慢しろっつー方が無理だろ。


結局なし崩しに関係を持った。


行為の最中も、なんてキレイな女なんだろうと何度も思った。


こんなにも欲しかった女を抱いている事実だけでもおれの気持ちは昂って。


感情の全てをぶつけちまったら、ヒロインを壊しちまいそうだったから。


セーブすることで精一杯だった。


だがヒロインは、ただおれを受け入れているだけで、気持ちが結ばれたわけじゃねェような気がした。


主導権はおれじゃなかった。


一晩共に過ごしても、ヒロインの気持ちは聞くことができずに、変わらねェ日々は過ぎた。



「……あー…まぁ、いい、…なにしてたんだよ」

「うん、ただね、ちょっと海見てた」

「何も見えねェだろ、楽しいか?」

「んー…あんまり?」

「ハ…つくづく分かんねェ女だな」

「ふふ、でも、今はゾロが来てくれたから楽しいよ」


――…言葉に詰まる。


期待させるようなこと言いやがって。


一人でいりゃあ、おれが自分をほっとくわけねェことも分かってて、今こうしてたんじゃねェかとすら思える。


思惑通り、か、知らねェけど。


転がしやすい男になっちまってることに、もう一度舌打ちしてェ気分だった。



「ねぇ、ゾロ、」

「あ?…ッ」


呼ばれたから、顔を向けた。


そうすりゃこの間みてェに、また唇が重なって。


優しく触れて離れていった。


月明かりに照らされるヒロインは、澄んだ瞳でおれをまっすぐに見つめた。


「ヒロイン、ふざけてんのかよ…」

「ふざけてなんかいないよ」

「じゃあなんでこういうことすんだよ、…おまえの気持ちまだ聞いてねェだろ」

「ゾロってば、せっかちさん」

「…やっぱ、ふざけてんだろ」


おれ達のからだはより密着をし、ヒロインの指はさりげなくおれのからだをなぞった。


それだけでおれの体内ではヒロインを抱いた晩の快楽が蘇り、その刹那言葉を失っちまった。


そんなおれを見てヒロインは、ゆったりと、それでいて艶やかに唇の両端を上げて。


「返事、欲しいの?」


まるで恋人同士が内緒話でもするみてェに。


「そしたらもう、こういうことできなくなっちゃうかも知れないのに?」


背伸びをし、耳許で囁いた。


かわいらしい声に、どこまでも誘うような仕草。


なのにセリフは残酷さを含み。



「……ムカつく女」

「ゾロ、抱いて?」

「うるせェな、黙ってろ」


ムカつくから、少し勢いよくヒロインを壁に押しやり、激しく唇を奪った。


自分がこんなにも浅ましいなんて思いもしなかった。


明確な答えを求めてる癖に。


目の前のヒロインに触れることも我慢できねェ。


もし今、おれのことなんて何とも思ってねェと言われりゃあ、おれはもうヒロインを抱けねェ。


味を占めたからだを簡単に手放すこともできなくなっちまって。


コイツといるとおれは、心を見透かされ、丸裸にされるようで。


「はぁ…ゾロ…」

「あ?」

「きもちー…」

「そうかよ」


腹立たしいが、居心地は悪くねェ。


だから余計にタチが悪ィ。



「ねぇ、ゾロ」

「…んだよ」

「すきだよ」

「ッ…、ヤッてるときの言葉なんて信用しねェよ」

「ふっ、くすくす、なによ、もう、」



おれはこれから何度繰り返すだろう。


こんな関係を望んでいたわけじゃねェけど、もう抜け出せねェ。





溺れる。




だったらいっそ二人で、もっともっと深い所まで。



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