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縋れるものは、あなただけ。




「おまえがこの船に乗ってくれることになって良かったよ」

「私の方こそシャンクスさんの船に乗れるなんて光栄です」

「だっはっは!そうか!」


楽しそうに笑う愛しいひとの声。


少しだけ癪に障ることに気付く。




この船に仲間が増えた。


その人は懸賞金なんかも懸かっている結構有名な女剣士さんらしくて。


この間上陸した島で出会い、彼女の剣さばきを気に入ったシャンクスは、船に乗らないかと誘ったんだ。


そしてその誘いに彼女は快く頷いた。



今夜は彼女の歓迎の宴。


シャンクスの傍にはその娘と幹部の皆さんがいて、上機嫌で呑んでいる。


ていうか今、私もこの輪の中にいるんだけど。


単純にやきもちだよね。


決して彼女が悪いわけじゃない。


もちろんシャンクスだって悪くない。


誰も悪くないし、宴は楽しい、のに。



でも私は何も持ってないから。



「ヒロイン、どこへ行く」


盛り上がってる雰囲気は壊さないように見計らい、少しだけこの場を離れようとそっと立ち上がった。


けれどすかさずシャンクスに手首を捕まれて。


まっすぐに私を見つめる視線に胸がきゅっとなった。


妬いてるなんて知られたくないし、にっこりと笑えばシャンクスもおおらかに笑ってくれた。


「んー、なんかちょっと酔っちゃったみたいで、風にあたってくるね」

「分かった、酔っぱらい共に絡まれんなよ」

「誰もお頭の女になんか手ェ出さねーよ」

「あはは、ですよねーヤソップさん、だからシャンクスだいじょーぶだよ」



この船の人達は宴が好きだ。


だから何かと理由を付けては宴をしてその都度船内は大盛り上がり。


今も何処へ行ってもお祭り騒ぎ。



それでも、お酒の入っていた大きめの樽がいくつか置いてある比較的静かな場所を見付け、壁に背を預け一人ぼんやりと夜空を見上げた。


キラキラと星が瞬いている。



「はぁ…キレイ…」


みんなが盛り上がる声は途切れることなく聞こえてくるけれど、その音が今は妙に遠く感じられてなんだか別世界みたいだと思った。



別世界。


…確かに数ヵ月前までは、海賊なんて無縁で何も分からない世界だった。


私は小さな町で暮らしていて、この船に乗るまで島を出たことすらなくて。


でもシャンクスが私を好きになってくれて、私も日々惹かれて。


いつの間にか平穏な生活は全て棄ててもいいと思えるほどにシャンクスに夢中になっていた。


そうしてこの船に乗った。


シャンクスの仲間も気のいい人達ばかりで、私はこの船にすぐに馴染むことができた。


シャンクスも本当に大切にしてくれて、陽気な毎日の中何不自由ない生活が送れている。



それなのに、あれだけのことでやきもちなんて、馬鹿だよ。


だけどシャンクスの為に剣を使える彼女が羨ましくもあって。


何もできない自分に劣等感のようなものも感じてしまったの。


私は自分が海賊だなんて未だに夢のように思える時もあるし、現に海賊らしいことは一つもできなくて。




「…エロ親父のばか」


―――でも、大好き。



私にあるのはシャンクスへの想いだけなんだよ。


きっと今も、あの娘の隣で楽しそうに笑ってるであろうシャンクスに、一言だけ八つ当たり。


そして募って止まない想いを星に向かって唱えた。


やきもちなんて気付かれたくないけど、ちょっと拗ねちゃいたい乙女心も混在してるね。


こんなの子供みたい。


それでも、シャンクスはそんな私が好きで必要だと言ってくれるから、ここにいることができる。


ただそれだけの理由で、ここにいれる。



けど、決してシャンクスの重荷になりたいわけではないし。


妬く必要もないやきもちなんか妬いていたら、呆れられてしまうかもしれない。



海賊、しかも大頭の彼女になれたんだから。


すごく愛されてるのも分かってるんだから。


せめて、これくらいのことには動じずに構えていられるようにならなきゃダメだよね。



そろそろ戻ろう。



「エロ親父!?」

「わ!シャンクス…!?」


凭れていた壁から背を離し歩き出そうとしたその時、予想外にご本人様の登場。


その上さっきの私のセリフのせいで焦っちゃったみたいで。


「隣にいねェと落ち着かねーから探しにきたんだが、ヒロイン!誰かに何かされたのか!?」


シャンクスは物凄い勢いですぐに私の目の前まで来て真剣な顔をしている。


「え…?えぇ!?違うよ、エロ親父って言ったら、シャンクスしかいないでしょ」

「ああ、なんだ…おれのことか、だよな、そうだよな、良かった…」

「ふふふ、そこは否定しないんだ」


シャンクスの勘違いだけど、こんなふうに心配してくれるなんて。


しかもそんな理由で探しに来てくれた。


やっぱりやきもちなんて、馬鹿みたいだね。


こんなにも愛を感じることができるんだから。



今、目の前のシャンクスのおかげで、あっという間に最高に幸せ。



だけどシャンクスは切なさが混ざったような視線で私を見つめて。


私の頭に腕を伸ばし、優しく撫で始めた。


「…?どうしたの?」

「気分はどうだ」


シャンクスはゆっくりと言葉を紡いだ。


「あ…、うん、もう大丈夫、ありが…っ!」


かと思えば、優しく撫でてくれていた手が今度は後頭部に回り、キスをされた。


シャンクスの舌が口内に入ってきて、いきなりの激しいキスに呼吸が追い付かなくなる。


「んんッ…、…ンクス…!」

「ヒロイン…」

「シャンクス…?酔ってるの?」


名残惜しそうに、一度離れていく唇。


荒くなってしまった呼吸を整えながらシャンクスを見つめた。


月明かりを浴びる赤い髪がキレイで思わずそっと触れる。


今はもう触れ慣れた感触が恋しい。



「クク、酔ってるように見えるか」

「だって、いきなりこんなことするから、」

「…ヒロインこそ本当に酔ったのか」

「え?」

「あー…フ、おまえが酔うことなんてなかなかないだろう」

「くすくす、私のことなんだと思ってるの、シャンクスさん」


笑ってはいるけれど。


シャンクス、少し余裕がなさそうで。


「心配なんだ」

「ごめんね、大丈夫だよ」


余計な心配掛けちゃったんだね。


私もシャンクスに気持ちを振り回されることはよくある。


でもシャンクスのことも無意識に振り回しちゃってるのかも知れない。


シャンクスも私と同じように、私のことを想ってくれているのなら嬉しい以外の何物でもないけど。


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