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「ヒロイン」

「ん?なに?エース」

「おまえ今日かわいくね?」

「…それ、昨日も聞いたよね」


目の前にいるエースの顔は極めて真顔で。


「おー、だっておまえまじでかわいいからさ、見る度にかわいいっておかしくね?罪だろ」

「あのね、それ、おかしいのはエースの目の方だから」

「なんだよー、謙遜しやがって、このやろう、かわいいやつめ」

「ぎゃーやめて!」


そして今度は目尻を下げデレッと笑って抱き付こうとしてきたけど。


まじ勘弁してください、だからね。



「待て待てヒロイン、照れんなって」

「いやいや、照れてんじゃなくて、」

「フ、ほら、じゃあ来いよ」


言いながらエースは満面の笑みで両手を広げた。


ああ、その笑顔、本当に幸せそうね。



…そう、なぜか私は見ての通りエースに溺愛されている。


そりゃあエースはかっこいいし強いし、そんな人にこんなに好きになってもらえて最初は嬉しかった。


うん、最初は、ね。


でもそれがこうも毎日続くと、うざいっていうかなんていうか、うざいっていうか、うざい?


「行くわけないでしょ!そんなのこれっぽっちも望んでない!」

「じゃあなんだ?おれに何して欲しいか言ってみろ、ヒロインの頼みならなんだって聞いてやる」

「…じゃあ、ちょっとあっちに行っててください、静かになりたいから」

「!!、なんでだよ!ヒロイン!おまえおれがいなくて寂しくねぇのかよ!?」

「ええ、ちっとも、」

「おれはヒロインがいなきゃすげぇ寂しい!だからどこも行かねぇ」


そう言ってエースは今度はあからさまに不機嫌そうな顔をした。


まぁこうやって拗ねちゃったりするとこはかわいいとか思っちゃうんだけど。



「はぁ…ふふふ、拗ねてんの?エースくん」

「だってヒロインが冷てぇから…ちょっとかわいいからって強気になりやがって」

「…だから、自分のことかわいいとか思ったことないって」


口をへの字に曲げ未だ不機嫌そうにしているエースの顔を下から覗き込む。


そうすれば、伏し目がちなエースと目が合って。


エースは少しだけ頬を紅く染めた。


「嘘つけ、」

「嘘じゃない」

「嘘だろ、そんなかわいい顔してる癖に思わねぇ方がおかしい」

「あはは、もーしつこい、エー…!!、エース!やめて」

「やっぱ笑顔が一番かわいいな!」

「ぎゃっはっは!おめぇら昼間っから見せ付けてくれやがって!」


あまりにもしつこく真剣にかわいいって言ってくれるから、思わず笑ってしまうと。


今度こそ逃げる隙もなく抱き締められて。


周りにいるクルー達は冷やかしてくるし。


やっぱ、うざい!



「はぁ…エース、離して」

「あー…ヒロインっていつもすげぇいいにおいするよな、なんでだ」

「…ねぇエース聞いてる?」

「ヤリてぇ…あーヤリてぇ!!」

「……はぁ、」


会話噛み合わないしね。


何度ため息をつけば私の気持ちを理解してくれるのかな。



「つーことでおれの部屋行かねぇ?」

「つーことで、の意味が分かんない、」


エースは少し腕の力を緩め私の目を見つめ、相変わらずのスマイルで部屋へのお誘いをしてきた。


その笑顔にまた一つため息が漏れる。


ため息なんか、このエースに通用するわけないんだ。



「あー…えーと、あ、そうだ、エース!私ココアが飲みたい、あったかいやつ」

「ココアか!よし、分かった今すぐ持ってきてやる!!」


言えばエースは物凄い速さで消えた。


突き放すようなことではなく、単純にお願い事をすれば、エースはすぐに聞いてくれるんだ。


なら最初からこうしてれば良かったんだよね。


エースといるとどうしてもエースのペースに呑まれちゃうんだから、私もまだまだだ。



でもやっと訪れた平穏(…ちょっと大袈裟かもしれないけど)には、不思議なことに少しだけ違和感も感じつつ。


甲板で座って、きっとすぐに戻ってくるであろうエースを待った。


そして身構えた。


戻ってきたらまた気が抜けないから。


…ていうかこの隙に隠れちゃえば良くない?


あ、でも、それは見つかった時に怖いか。


それをしたら今まで以上に離れてくれなくなりそうだ。


「おまえ一人にするとどっか行っちまうだろ、すげぇ心配したんだかんな、絶対ぇ離れねぇ」とか言って…。


そんな事態になれば仕事すらサボり出しそうで、マルコ隊長に私まで怒られそうだし。


おおコワイ。


余計なことはしないで大人しく待とう、うん、そうしよう。


それと同時に結局エースからは逃れられないのかもなんて考えが頭を過った。


そしてその瞬間、遠くの方から私を呼ぶ聞き慣れたら声がもう聞こえてきて。



「ヒロイン〜〜!ココア持ってきたぞ!」

「エース、ありがとう、早かったね」

「たりめぇだろ!」


そうしてあっという間に私の前まで戻ってきたエースは、ニカッと笑ってマグカップを手渡してくれた。


…分かってはいたけどエースの手にはもう一つマグカップがあって。


当然のように一緒に飲むんだよね。


束の間の平穏終了。



「うめぇか!?ヒロイン!火傷すんなよ」

「あ、うん、でも私には隣のあなたの方が熱すぎるけどね」

「ハハっ、嬉しいこと言ってくれんな」

「や、別に誉めてない」

「フ、だから照れんなって」

「……、」


エースの暴走が全開の会話は止まることを知らず。


そして並んでココアを飲み始めたけど、エースは一気に飲み干してしまって。


また嬉しそうな顔で私を眺めてる。



「……ねぇ、なに?」

「あ?なにが?」

「何がって…そんなに見られてたら何か用があると思うじゃん」

「かわいいから見てるだけじゃねぇか、それが理由で見てちゃいけねーのかよ」

「……、」


二番隊の隊長さんは、アホなのかな?アホなのか?


アホなのかもしれないね。


(なんてことは最近はことある毎に思ってるけど。)


でもいちいち反応しちゃう私もダメなんだよね。


放っておけばいいのに。


だけど気になっちゃって。


これじゃお互い様のような気も……。


いや、でもエースがこんなんだからいけないんだよ。



「ヒロイン!!!!」

「え!?なに!?びっくりした」

「さみぃか!?震えてんのか!?」

「へ…?どこが?」

「ほら、手!おれが暖めてやるよ!!」

「………これはだねー、エースくん…」


なんかもう理由説明すんのもめんどくさくなってきたぞ。


神様私に彼を気にしないように生活できるスルースキルをください。


…今私が何をしてたかと言うと、沈殿したココアを、こうね、カップを持った片手でくるくるしてただけで。



「ヒロイン!おれは火だ!暖まるには最適だろ!」

「あーもうエース暑苦しい!」


にっこにこ笑って再び両手を広げるエースだけど。


さすがにほんとにめんどくさくて、ちょっとだけ強めにきっと睨み付けた。


すると、…なんで?


なぜかエースの頬がまた少し赤く染まった。


あれ?エースってそんな趣味があったっけ…?いや、ないよね。


じゃあ、なんで。



「お、おい、ヒロイン、…んなかわいい上目遣いでおれを見んなよ」

「…はあ?」


思わぬ返答に思わず文字通り“は、あ”と言ってしまった。


…まぁ…うん、そうだね、確かに今顎を引いてエースを見た。


見たよ、睨んだつもりでね。


でも、なんと、エースにはそれが上目遣いに見えるらしい!


もうその思考回路こわいよー!



「すっげぇかわいい!…誘ってんのか?」

「!、誘ってない!誘ってない!誘ってない!誘ってない!」

「クク、ヒロインって照れ屋だよなー、そんなとこも好きだぜ!よっしゃやっぱ部屋行こう」

「ぎゃー!」


…そうしてエースの肩に担がれ連行される中。


例えどんなに私がエースを相手にしなくても、きっとどうしたってスルーしきれないだろうと悟った。





レッツポジティブシンキング!




エースのポジティブ、敵わない!




…だけど、もしも今。


このエースの愛がなくなるようなことがあったら、きっと物凄く寂しい。


だからエースにはずっと傍にいてほしい、なんてこっそり思ってる私の思考が一番厄介で。


お話にもならないよ。




これ以上ポジティブになられても困るから、エースには絶対に言えないけど、ね!




(ハハ、今日もヒロインは愛されてんなァ)
(サッチ隊長…笑い事じゃないですよー)
(あー…まぁこんなに愛されて私って幸せ!って思えばよくね?)
(思えたら苦労しませんよね…エースのポジティブを分けて欲しい)
(フ、でもさ、そんだけ愛されてっと多分もう他の男じゃもの足りねぇよ?)
(……はぁ、そうなんです、それが分かっちゃう自分も嫌なんです)
(クク、大丈夫おまえらお似合いだって!あー若ェっていいなー)
(はぁ…)



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