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キッチンで夕飯の仕度をしていると三バカが入ってきた。


「サンジー!今日のメシなんだー!?」

「腹減ったぞー!!」

「肉ーーー!肉が食いてぇ!」

「おお、てめぇの望み通り肉あっから、もうちょっと大人しく待ってろ」


肉があることを告げると三バカは目を輝かせ顔を見合わせた。


そして、何を思ったか。


口々に「肉が怖い」と言い出した。



「あ?肉が怖えって…なんだよ、それ」

「にっしっし!!おれ怖えものねーけど、肉は怖えんだ!」

「このおれ様も!怖えものなんてねーが、肉は怖え!!」

「おれは…ちょっとだけ怖えものあるけど…でも肉が一番怖えんだ!」



…意味が、分からねぇ。


しかもそんな主張をおれにしてどうする。


眉を潜め怪訝な顔で楽しそうに騒ぐ三バカを眺めた。



するとまだ仕上がってねぇ料理にルフィの手がびょーんと伸びてきて。


「だから!!こんな怖え肉はおれが食っちまうんだ!!退治だー!」

「おれもーー!」

「おれもだぁぁ!」

「!、はあ!?ちょっと待て!てめぇら!!」


わけの分からねぇ理由で堂々とつまみ食いをしようとする三バカに華麗に蹴りを入れボコボコにする。


そしてこぶだらけに顔面を腫らし「ずびばぜんでじた」と反省するこいつらを正座させ説教タイムだ。


たく、忙しいっつーのに…。


紫煙を吐き出しながら見下ろし口を開いた。



「…“肉が怖えから食っちまう”なんてくだらねぇ入れ知恵は誰の仕業だ」

「…今日のおやつ、まんじゅうだっただろ」


するとチョッパーがびくびくしながら、話し出した。


「まんじゅう食いながら、ヒロインが教えてくれたんだ」

「…ヒロインちゃんが?」



ヒロインちゃんがこんな入れ知恵を?


つーか、まんじゅうと何の関係が。



確かに今日のおやつの時ヒロインちゃんはキッチンにいたから。


ナミさんとロビンちゃんにおやつを渡す為にヒロインちゃんを待たせ一度キッチンを出たが、入れ替わりで匂いを嗅ぎ付けた三バカが入ってきたんだった。


その時に何か話したっていうわけか。



「四人でまんじゅう食ってたら、ヒロインがいきなり“まんじゅうこわい”って言い出してよ」

「おお、それでなんだそりゃって聞いたら、そういう話があるんだって教えてくれたんだ」



その話というのは、昔怖いものは何もねぇという強気な男がいて、だがその男は唯一まんじゅうが怖いと言ったそうだ。


そして強気なそいつを懲らしめてやろうと企んだやつらが、大量のまんじゅうを渡したところ“怖い怖いこんな怖いまんじゅうは食べてしまおう”と平らげられてしまい。


それから最後にその男は“やっぱりお茶が怖い”と言ったというオチの話らしく。


こいつらは、そういう話があることをまんじゅうを食いながらヒロインちゃんに聞いたということだ。



…なるほどな、そういうことか。


まぁ、ヒロインちゃんは普通の会話として言っただけで、確実に入れ知恵をしたわけではねぇだろう。



正座をさせていた三バカにはこんなバカなことは二度とすんなと釘を刺して。


説教でロスした分も取り戻せるようにさっさと支度を済ませ夕飯にした。


そしていつも通りに夕飯も食べ片付けも終わらせて。


今夜は不寝番のヒロインちゃんの所へあったけぇ飲み物を持って行った。


ヒロインちゃんが不寝番の時はこうすることが、互いにとって自然のこととなっていた。



「あ、サンジくん、ありがとう」

「ん、ヒロインちゃん、お疲れさん」


マグカップを渡しながら隣に座り込めば。


ヒロインちゃんはそれを両手で受け取り、にっこり笑い礼を言ってくれて。


かわいくてたまんねー。



そして、自惚れかも知れねぇが。


多分、ヒロインちゃんは、おれが好きなんだと思う。



「なぁ、ヒロインちゃん」

「んー?」

「おれのこと、どう思ってる?」

「え!?あはは、なに、いきなり」

「いや、ちょっと気になっちまって」


で、多分、おれがヒロインちゃんを好きなのも伝わってるはずだ。


だからおれ達の関係は、今すげぇもどかしいんだ。


けれど、おれは今日こそ進展させてぇと思っている。



ヒロインちゃんはそんなおれの顔を一度だけちらっと見て。


それから両手で持っているマグに視線を落としながら、少し照れくさそうに口を開いた。



「…サンジくんは、優しくてかっこよくて、いつも素敵」

「フ、そっか、嬉しいな」

「ふふ、あー…じゃあサンジくんは?」

「…ん?」

「サンジくんは私のこと、どう思ってる?」


ヒロインちゃんは少しだけ頬を赤く染め期待を含んだ目でおれを見つめた。


その顔もクソかわいいよ。


だが、きれいやかわいいなんていつも言ってるしな。


だから今日は、やっぱり。



「ヒロインちゃん、おれはね、君が怖いよ」

「え…!?サンジくん、私のことそんなふうに思ってたの!?」


ヒロインちゃんはすげぇびっくりした顔をして。


「どこがかな…?直すから教えてください」なんて、またクソかわいいことを言ってやがる。



「クク、ヒロインちゃん、まじで怖え」

「えー…そんなに言われるとショックだよーサンジくん」

「うん、ヒロインちゃん、だからさ、」


そうして本当にしゅんとしちまった、ヒロインちゃんの耳許に顔を少しだけ近付けて。


ヒロインちゃんがおれとの距離が近付いたことに驚いている隙に囁いた。



「なぁ、ヒロインちゃん…怖いから、君を食っちまってもいいかい?」

「!?…どういうこと?サンジくん」

「クックックッ、まんじゅうこわい」

「あ〜……」


それから、ヒロインちゃんは納得したような顔でくすくす笑って。


だったらサンジくんに怖がられててもいいや、とおれの肩に頭を預けた。





きみがこわい。




だから、おれだけのプリンセスになってください。


なんて、お話にもなりませんか?



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