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町の外れ。


小さな酒場の手伝いをしてお給料もらい、平穏な暮らしを送っていた。


仕事のない日は、一人で過ごすこともあれば、友達と過ごすこともある。


そして恋人ができたり、別れたり。


そんなことを繰り返す日々。


本当に、平穏。



言い方を変えれば、刺激のないとも言えるかも知れない。


でもそれでいいと思ってた。


なんの不満もなかった。



彼に逢うまでは。




「―――ヒロインの好きな酒をくれ」

「ふ、毎日そればっかり、よく飽きないね」

「ヒロインと一緒に呑むんだ、ヒロインが好きな酒が一番だろう」


そう言って、ゆったりと笑う彼は、有名な海賊の赤髪のシャンクス。


初めてこのお店に立ち寄った日から、欠かさずこの時間にお店に来るようになった。


閉店間際。


そんな日が続いて、もう三週間になる。


「でもシャンクス、今日ももうお店閉めるんだけど」

「だから来てるんじゃねーか、ヒロインと二人きりになれる」

「あ、ふふふ、店長もまだいるけどね」


グラスに注文されたお酒を注いで。


カウンターの中から、目の前の椅子に座るシャンクスの前にそのグラスを置いた。


シャンクス、ではなく、私、の好きなお酒の入っているグラス。


「じゃあわしは今日も邪魔のようだね」

「ああ、おっさん、あとはヒロインにやってもらうから大丈夫だ」

「また勝手に…」

「だがシャンクスさん、腹は減らねーか?料理の腕はヒロインちゃんよりもわしの方がまだ上だぞ」

「それでもおっさんの作ったつまみよりヒロインの作ったつまみが食いてぇんだ」

「わっはっは、そうかいそうかい、じゃあわしは帰るとするよ、ヒロインちゃん、後頼むな」

「はーい、お疲れ様でした」


店長は笑顔でお店を後にした。


これももういつものことになっていて。


しかも店長的には粋なはからいらしいんだけど、入り口にCLOSEDの札まで下げていってくれる。



そうして二人きりの時間が訪れる。


束の間の沈黙。


シャンクスは先程のグラスを手にして、口に運んだ。


…仕草が、色っぽいと思う。


少し伏し目がちになる目も。


お酒が流れて、静かに動く喉も。


グラスを持つ、骨ばった長い指も。


全部、男らしくて、素敵だと思う。



「どうした?おれに見惚れてたか」

「あ…、くすくす、うん、喋らなければ素敵なのに、って」


思わず見とれていると、目が合ったシャンクスは口角を吊り上げ笑った。


とくん、と人知れず高鳴る心臓。


「クク、ひでェな、だったらおれは今日はもうしゃべらねェ」

「あはは、じゃあもう帰った方がいいんじゃない?」


少しからかうように。距離を取るように。


言えば、シャンクスは眉を下げて笑っている。


「せっかく逢いに来てるっていうのに、釣れねェなァ」

「…、それよりシャンクス、何か食べる?店長を差し置いてご指名いただいてますし」

「あー…いや、いい、それより早く隣に座ってくれ」


――…こんなふうに言われると。


なぜだろう、最近少しだけ泣きたくなるようになった。


シャンクスは何が目的で、私にそんなことばかり言うの。



「今日もお疲れさん」

「あ、今もまだ残業中だよ?」

「クックック、まったく…本当にひでェ女に惚れちまったもんだ」


私もお酒をグラスに注いで隣に座り、互いのグラスを軽くぶつけて。


笑顔の視線が交わるけれど。



…ねぇ、シャンクス。


惚れちまった、なんて簡単に言っても。


あなたは海の男でしょう。


いつかいなくなるでしょう。


ここは僅かな期間の旅の拠点に過ぎなくて。


そしてあなたにとって私は、そんな土地で平穏に暮らし続けていた、ただの陸の女でしょう。



「――…ふふ、シャンクスは私のこと口説きたいの?」


手にしていたグラスをぼんやりと眺めながら、シャンクスの方は見ずに聞いた。


グラスの中の氷が、からんと音を立てた。


「ああ、 毎晩口説く気満々で来てるんだがなァ…、このお嬢さんにはおれの想いがなかなか伝わらんらしい」


その言葉に反応してシャンクスを見れば、シャンクスはカウンターに片肘を付き穏やかな笑みでじっと私を見つめていた。


余裕に見える。


だから尚更どこまでが本心か分からなくて。


私の方がどんどん夢中になってしまっているようで、こわいの。


だからこれ以上深入りはしたくないの。



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