( 1/1 )



船の手すりの上にあぐらをかいて座って、空を見上げる後ろ姿。


細いのに筋肉はしっかりついてて、力強くて。


安心する、ルフィの背中。




「――…ルフィ、」


空を見上げる瞳はきっと、夢に満ちててキラキラしてる。


そんなの、後ろ姿からでも伝わってきて、見なくても分かるから。


いつも思うの。


夢にまっすぐなあなたを応援したい、って。



「ヒロイン!どーした?」

「んーん、別に用はないんだけど、」


うん、やっぱり。


呼べば振り向いてくれた笑顔は眩しいほどに輝いてて。


きゅん、胸の奥がそう鳴ったのをはっきりと感じて。


私このひと好きだなぁってしみじみ思う。



「ルフィ空見てたの?」

「おう!空はいいぞ!でっかくて広くて、」

「ふふ、ルフィ、でっかいも広いもおんなじじゃない?」

「ししし、ほーか、そーだな」


座るルフィの隣で、手すりの上に両肘を置き一緒に空を眺めた。


ルフィの夢見る純粋な瞳が大好き。


だけど、その瞳と、恋愛は、結び付かなくて。


私の気持ちは今日も、宙を舞う。



「雲の流れが速いねー」

「そりゃあおめぇ船が動いてるからじゃねーか」

「え、あはは、そうじゃなくて、」

「なんだ、ちげぇのか」

「うーん、くすくす、不思議雲だよ」

「あれは不思議雲なのか!へー、ヒロインはすげぇな!」


楽しそうに笑うルフィ。


かわいい笑顔。


純粋で無邪気で。



あなたのその無防備に。


「ねールフィー」

「んー?」


触れたい。


「…すき、」

「あー…、おう!」


触れられない。


きっと掠りさえもしなくて。


今日も好きの二文字も宙に舞っていった。



「ぷ…、あはは、おう!って、超力強いね」

「だっておまえの好きは、おれの好きとは違うんだろ」


相変わらずお日さまみたいな笑顔で、空と私に交互に視線を向けて。


好きと言ったところで二人を包む空気は何も変わらない。


そのことにほっとするような、寂しくなるような。



「ごめんなーヒロイン、おれそういうのまったく分かんねーからよ」

「んーん、いんだよ、そんなルフィが好きなんだから」

「にっしっし、そーか、ありがとな」


たまにこんなふうに好きと伝えてみることがあって。


最初は「おれも好きだぞ!」って仲間として大切にしてくれてる想いが返ってきた。


それはそれで単純に嬉しい。


多分そう返ってくるだろうとも思ってた。


でも私のはそれだけじゃないから。


その時に、私もルフィと同じように想ってるけど、でもきっとルフィと違う種類の好きも持ってるよと告げたんだ。



「ヒロインの好きは、不思議好き、だもんなァ」

「あはは、そうそう、そしてルフィくんは女に興味がないんだもんねー」



食べること、冒険、夢。


キラキラ、キラキラ。


そんなルフィがやっぱり好きで。



「ああ、女になんか興味ねぇよ!」

「ふふ、うん、」


手すりの上ですくっと立ち上がって、トンと身軽に同じ地に降りてきたルフィ。


近い高さで目が合う。


お日さまの笑顔。



「女はよー、」

「ん?」


でもその時、ルフィが少し俯いて。


麦わら帽子のつばで、笑む口許しか見えなくなったけれど。


一瞬にして雰囲気が変わったことに気が付いた。


この雰囲気を纏うルフィは見たことがなくて…。


目が離せない。


それからルフィは、いつもよりワントーン低い声で言葉を紡ぎつつ。



「女は、飽きるほど抱いたんだ、村にいる頃に」


顔を上げて、口角を吊り上げ男らしく妖艶に笑っている。


信じられないそのセリフと、その表情に胸が激しく脈打ったのが分かった。


…飽きるほど抱いた?ルフィが?女の人を?



「え…?」

「なっはっは、だからもう女になんて興味ねぇんだよ!冒険の方がよっぽど楽しいだろ!」


そして私が戸惑っている間にルフィはあっという間にまたいつもの笑顔に戻ったけど。


「それによー、サンジがそういうのは好きな女とするもんだって言うし」

「…ん、そだね」

「だからやっぱおれよく分かんねーと思って」


でも、なに、さっきの艷っぽい笑みは…。


あれは完璧に女を惑わす術を知ってる顔で。



「でも、おれ、ヒロインに好きって言われんのスゲー嬉しいぞ!」

「!」

「ししし、ヒロイン顔赤ェ」


もしかしたらその無邪気さは、計算のされていない故意なのかと思い始めてしまえば。


だめ、そのギャップ。


そんなところにも魅力を感じてしまって。



「あー腹減ったなーサンジなんかくれっかなぁ、ヒロインも一緒に行こうぜ」

「あ…、うん!」



どうしよう。


ますます好きになってしまったみたい。



やっぱりルフィはいつだって、キラキラしてることに変わりはないの。





あどけない瞳の奥に。




知らないルフィを見つけた。



今はまだ空に呑まれる私の想いだけど。


いつか壊したい、その無垢を。


いつか触れてもらいたい、その純真で。





▼贈り物です。



<< 19 >>



topcontents