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おれは忙しい。


朝昼晩のメシとおやつの仕度。


そしてそれの片付け。


船長の胃袋が尋常じゃねーことも手伝い、おれの忙しさも半端じゃねぇと思う。


まぁ当然料理は嫌いじゃねぇから苦でもねぇが。



だが最近、一つだけ問題ができた。


それはおれにすげぇかわいい彼女ができたこと。


いや、もちろん彼女ができたことが問題なんかじゃねぇ。


あのキレイでかわいいヒロインちゅわんがおれの彼女なんてクソ幸せな事実だ。


いつの間にか互い惹かれ合っていて、ナミさんに言わせりゃ「やっとなるようになった」らしいおれ達なんだが。


ヒロインちゃんは内面も外見も本当に美しくて。


(まぁこのおれが本気で惚れちまうくれぇだし?)


そしてそれに似つかわしくすげぇキレイ好き。


だから掃除が趣味っつーか…。


時間のある時はいつも船内をキレイにしている。


この広い船内を一通りの掃除をして、それから自分で決めた一ヶ所を一日掛けて徹底的にキレイにするのが日課だ。


例えば「今日は図書室をピカピカにする」と言って張り切っていたが、明日にはまた違う場所を磨く。


そして広い船内、全ての場所をそんなふうにキレイにしても。


当然平和な日ばかりじゃねぇし、最後の場所が終わった頃には最初の場所を徹底的にキレイした日からはかなり経っちまう。


だからヒロインちゃんはまた最初の場所から始める。


穏やかに航海ができている時には、そんな掃除の仕方をローテーションさせているんだ。



ヒロインちゃんは、いつも「キレイになるとすがすがしいの」と言ってクソいい笑顔を見せてくれる。


おれ達だって船が常にキレイな状態なのは気持ちがいいし。


ヒロインちゃんがキレイ好きなことはみんなにとってプラスなんだろう。


けれど、おれにとっちゃここが問題になってくる。


おれも忙しい。


ヒロインちゃんも忙しい。


つーことは。


イチャイチャする時間がほとんどねぇ。


これまじで大問題だろ。



「さて、と…」

「サンジー!うまほーなにおいがすんなぁ!!」

「今日のおやつなんだ!?」

「ホットケーキだよ、そこにあるから先に食ってろ」

「ヨホ、それではいただきましょう」


今日のおやつのホットケーキを皿に盛り終えたと同時に、ルフィ達が来たから食うように促す。


それからナミさんとロビンちゃんの所へも運んで。


最後にヒロインちゃんを呼びに行く。



「ヒロインちゅわ〜ん」

「あ、サンジくん」

「おやつの時間ですよ、プリンセス」

「あ、もうそんな時間なんだ」

「クク、掃除してる時のヒロインちゃんってクソ夢中だもんな」

「ふふ、いつも呼びに来てくれてありがとう、サンジくん」

「いや、おれにとったらこの時間も貴重だからさ」


椅子の上に上り本の上のほこりを掃除してたらしいヒロインちゃんに近付き手を差し出す。


ヒロインちゃんもにっこりと微笑んで、おれの手のひらに手を重ねてくれた。


手を取り椅子から下ろして。


ヒロインちゃんの足も床に付き距離が近付いた瞬間に、頬に優しくキスを落とした。


「…あ、ふふふ」

「今日の掃除も順調かい」

「うん、おかげさまで」


頬にキスをすれば、ヒロインちゃんは嬉しそうにおれの腰に腕を回してきたから。


今度は顔を近付けて唇で唇にそっと触れようとした。



優しい優しい、キスをしたい。


その気配に気付いたヒロインちゃんもゆっくりと瞼を閉じてくれた。


唇が触れるまであと数センチ。



だが、その時。


「サンジー!!!おーかーわーりー!!」

「「!!」」


ルフィにでっっけぇ声で呼ばれて。


ムードも何もあったもんじゃねぇ。


「ルフィ!せっかくサンジくんとヒロインがゆっくり二人きりになれる時間なんだからちょっとほっといてあげなさいよ!」

「なんでだよーおれだって食い足りねぇんだからしょうがねーじ、!ああぁぁぁ顔を引っ張んなナミ」


その上すぐさまナミさんがルフィを叱る声も聞こえてくるし。


完璧にキスのタイミングを逃し、眉尻を下げて笑い人差し指で頬を掻いた。


「…ぷ、くすくす」

「あー…ま、うん、じゃあおやつ食いに行こっか、ヒロインちゃん」

「ふふ、うん」


そんなおれを幸せに満ちた笑顔で見上げるヒロインちゃんと、今一緒にいるっていうだけでも幸せには変わりねぇし。


…キス、したかったがな。


だが欲は言わねぇことにして、手を繋いでキッチンへ戻った。


おれの手の中の小せぇ手が愛しい。


すべすべで、ネイルだっていつもきちんとされていて。


指先までもレディとしての手入れが行き届いている、おれの好きな君の手。




「だからよールフィ、サンジとヒロインは互いに忙しくて一緒にいる時間があんまりねぇんだよ」

「アウ!だからおれ達にできることって言ったら、せめて二人の時は邪魔しねぇようにすることだろ」

「よく分かんねぇなぁ!そんなに一緒にいてぇんだったら忙しいとか言ってねーで一緒にいりゃあいいじゃねーか!」

「あのな、サンジが忙しいのは確実にてめぇのせいでもあるんだぞ、」

「そうだぞルフィ、それにこのスーパーなサニー号がいつもキレイなのはヒロインのおかげじゃねーか」

「ヨホホホ、ルフィさんにはまだ難しいようですね」


キッチンの扉を開けるとおれとヒロインちゃんが話題の中心にいた。


…日頃からこんなふうにクルー達が気を遣ってくれていることも知ってる。


だからやっぱり不満なんて漏らすべきではねぇと改めて思った。


それにヒロインちゃんも隣で「なんかみんな気を遣ってくれてありがとう」なんて言いながらにこにこしてるし。


ヒロインちゃんが現状に不満がねぇんならおれもそれでいいよ。



って、な。


すげぇ思ってるよ、思おうとしてる。


けれど現状に不満がなさそうなヒロインちゃんの態度に少し不安になる自分も確かにいて。


ルフィの言う通り一緒にいてぇんだったら一緒にいる時間を作りゃあいいんだよ。


でも変わらぬ日々は過ぎていくし。


もしかしてヒロインちゃんはおれのことあんまり好きじゃねぇんじゃねーかとかも思っちまって。


好きばかり募っていく中。


そんなことを考え出すと悶々としちまうんだ。



「…サンジくーん?」

「!あ、…ああ、すまねぇ、ヒロインちゃん」

「ううん、…でもサンジくんお疲れ?」


おれ達がおやつを食い始めたことで食い終わったクルー達は足早にキッチンを後にした。


そうして二人でおやつを食べ始めたんだが…。


あんまり一緒にいれねぇことについて、つい考え込んじまうと、心配そうな顔をしたヒロインちゃんがおれの顔を覗いていた。



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