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「ヒロインちゃん」

「ん、なぁに?サンジくん」

「ヒロインちゅわ〜ん」

「?、ふふふ、どしたの?サンジくん」

「いや、おれの彼女は今日もクソかわいいなと思って呼んだだけさ」


言えば返ってくる笑顔はやっぱりクソかわいくて。


このおれがこんなに一途になれるなんて
、正直自分でも驚きなんだが。



ヒロインちゃんが仲間になって九ヶ月。


ヒロインちゃんと気持ちが通じ合って半年。


おれは今最高に幸せだって言い切れる。


「サンジくんも今日もとってもかっこいいよ」

「でゅふふふふークソ幸せだなぁぁぁ」

「うん、私も!じゃあ行こう、サンジくん!」


そして指を絡め手を繋ぎ、二人で船を降りた。


今日は上陸した島でヒロインちゃんと久し振りのデートなんだ。


好きな女とのデートっつーのは何度回数重ねたとしても浮かれちまうよな。



「ヒロインちゃん、どっか行きてぇとこあるかい?」

「サンジくん、食材は?」

「まだ大丈夫だよ」

「そっか、じゃあとりあえず適当に歩こう」

「ん、そうだな」


目的もなくただぶらぶら歩くだけなんだが、それだけでもやっぱり幸せで。


彼女の存在ってでけぇなってしみじみ思えた。



「あ、いい香り」

「コーヒー?」

「うん、このお店かな」

「行ってみるかい」

「うん!」


特に何を買うわけでもなくしばらくウインドウショッピングを楽しんでいた。


が、雰囲気の良さそうな洒落た店の前でヒロインちゃんが立ち止まったから。


ヒロインちゃんの嬉しそうな笑顔を確認しつつ、店内へと手を引いて入った。


客の入りはいいがアンティーク調で落ち着きのある店だ。


そしてコーヒーの芳しい香りが漂う空間で、丸いテーブルに向き合って座って。


ここでも他愛もねぇ話をしながら注文したコーヒーと、ヒロインちゃんはチーズケーキも味わった。



「……フ、」

「ん?なぁに、サンジくん」

「いや、船に乗ったばっかのヒロインちゃんはコーヒー飲めなかったのにな、と思ってさ」

「あー…、ね、ふふ、サンジくんのおかげ」

「おかげなんて言われるようなことはしちゃいねーよ」


白いカップに口を付けながらゆったり笑って視線をおれに向けるヒロインちゃん。


本当におかげなんて言われるようなことはしてねぇんだが、その返答と今の笑顔にまた満たされる。


船に乗ったばかりのヒロインちゃんは幼い頃のイメージのままコーヒーを避けていたそうだ。


「飲めないっていうか、ただの苦手意識かも」と言っていて。


それを聞いたおれはすぐにコーヒーを入れて勧めてみたんだ。


そうして少しだけおそるおそるだがコーヒーを口に含んだヒロインちゃんは目を丸くして。


「あ、おいしい」と笑った。


まぁ一流のおれは豆の選び方も一流だし、味がいいのは当然のことなんだが。


それでもそれがすげー嬉しくて。


その時のヒロインちゃんもすげーかわいくて。


あれはヒロインちゃんとの距離が縮まった忘れられねぇ出来事の一つだ。



「あのヒロインちゃんが今じゃブラックも飲めちまうんだもんな」

「ん、くすくす、サンジくんのおかげで大人になったの」

「クク、そうだな」


こんなふうに二人にしか分からねぇ会話ができて、一緒に笑える。


こんな日々がずっと続くといいと改めて思っていた。



そんな時。


何気なく横に逸れたヒロインちゃんの視線が、不自然に止まって。


一瞬だが目が見開かれ、今度はあからさまに怪しく動いた。


「…ヒロインちゃん?」

「!」

「どうかしたかい?」

「う、ううん!何が?なんかおかしい?」


言いながらヒロインちゃんは左手を胸の前で否定の意を込めブンブンと横に振っているが…。


いやいや、明らかにおかしいだろ。


そんな異変をスルーできるような男じゃねーよ?



「いや、でもヒロインちゃ」

「ヒロイン!?ヒロインじゃねーか?」

「!、………チッ」


チッ!?


今、チッって!?


もしかして、ヒロインちゅわん、舌打ちした!?


だが、そんなことよりも…。


知らねぇ若い男がヒロインちゃんの名を呼び、そして満面の笑みでこちらに向かって歩いてきている。


ヒロインちゃんはというと、そいつの方は向かず少し俯いて、今までの笑顔とは程遠いオーラ。



「ヒロインーー無視すんなよー」

「…」

「あ、おにーさん、おれもここ座っていい?つーかもう座っちまうけど」


ヒロインちゃんは全く返事しねぇにも関わらず、その男は陽気に笑いながら丸テーブルを囲みおれとヒロインちゃんの間にあった椅子に座った。


物凄ェ腹立つんだが…。



「久し振りだなーヒロイン!」

「……」

「…おめぇ、誰だよ」

「あ、おれ?おれはこいつの元カレ、おにーさん今カレ?」


ヒロインちゃんは何も言わねぇがそいつに嫌悪を抱いた視線をキッと向けた。


だからっておれまでいきなりキレて突っ掛かるわけにもいかねぇし。


怒りは抑えつつ何者か聞いたんだ。


まぁ…雰囲気からだいたい察しは付いてたけどな。


でもハッキリ元カレだと言われそれだけでも関わりたくねぇのに。


なに食わぬ顔でヒロインちゃんを眺め笑ってやがるし。


この男の態度、なんつーか…余計に癪に障る。


「!、ちょっと余計なこと言わないでよ」

「お、ヒロイン、やっと喋ったな、おまえこんなとこで何やってんの」

「るさいなー、関係なくない?」

「ハ、冷てぇなー愛し合った仲だっつーのに、あ、ちなみにおれは一人旅な」

「聞いてないし、ていうかどっか行ってよ!」

「まぁいいじゃねーか、久し振りの再会だぜ?あ、店員さーん」


そうして男は図々しく自分もコーヒーを注文し始めて…。


まじでなんだよこの男。


それに愛し合った仲とか。


わざとおれを苛つかせる言葉を選んでるんじゃねぇかって思えてきちまうくれぇだ。


「あんたちょっと空気読みなよ!昔からそういうとこがいやだったんだよ」

「クク、おまえもちょっとしたことでカリカリすんの直ってねーな、ねーおにーさんこいつ冷てぇだろ」


相変わらずヘラヘラした男はヒロインちゃんからおれへと視線を向けた。


…なんでこんなヘラヘラしておれとヒロインちゃんの間に平然と割り込んでこれんだよ。


その神経が分からかねぇ。


あー…すっげぇイライラする。



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