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サンジくんって、どんな顔して眠るんだろう。



「ねぇ、ウソップー」

「なんだよ」

「サンジくんの寝顔って見たことある?」

「んなもん普通にあるぜ」


甲板のウソップ工場で、これの爆発の威力がーとかブツブツ言っているウソップの傍に腰掛けて。


今日も誰よりも早く起きたはずなのに朝からさわやかだったサンジくんの笑顔を思い返す。


すると無意識に胸がきゅっと甘い悲鳴をあげた。



「ねーねーウソップー、サンジくんって寝顔もやっぱりプリンスなの?」

「プリンスー?あのまんまのサンジが目ェ閉じてるだけだぞ」

「あはは、じゃあプリンスじゃん」


サンジくんと言えば、まぁくねくねしているときは例外だけれど、いつも紳士でかっこよくて。


女の子に隙なんて一切見せないってイメージだから。


「なんだよ、ヒロイン、サンジの寝顔なんか見てぇのかよ?」

「うん、ふふ、なんとなく、無防備な姿を見てみたいっていうか、」


そう言うと、今まで手元だけを眺め会話を続けていたウソップが、ゴーグルを上げながら顔も上げた。


くるっとした丸い目と、目が合う。


「んなもん一緒に寝りゃあ見れるじゃねーか」

「えーウソップ、それってやらしー意味で?」

「そりゃあおめーおれだって健康な男子だからな」


そしてウソップは何故か誇らしげに胸を張っている。


だからなんでそんなこと自慢すんのって突っ込みつつも、そのまま会話を続けた。


「くすくす、でもさー、サンジくんってもしそうなったとしても女の子よりも先に寝るようなことはしなさそうだし、」

「そうかァ?」

「むしろ寝てる間にいなくなってそう、深い関係にならないように」

「ははは、ひでぇ男だな、まぁ分からなくもねぇが」

「でしょ?きっと優しいフリして大切な部分には踏み込ませようとしないんだよー」


サンジくんの寝顔の話をしていたはずなのに、いつの間にかサンジくんって実は酷い男っていう妄想になっていて。


さすが健康男子、そんな話にウソップも結構乗ってくれて。



「…ヒロインちゃん、」

「!」

「それ誰の話?」


二人で盛り上がっていると、後ろから意中の彼の声がした。


会話の内容も内容だったし、びっくりし過ぎて肩が少しすくんでしまったと思う。


ゆっくりと首を回して振り向けば、おやつの乗ったトレイを持ってにっこりと笑うサンジくんと目が合った。



「ササササンジくん…!」

「ヘェ、おれの話なんだ、」

「え!ちが…いや、違くないけど…えっと…」


思わず焦ってしまうと、サンジくんは一瞬口角を吊り上げククと喉で笑った。


けれど、それも束の間で。


「ヒロインちゅわんみたいな美しいレディに噂話をしてもらえるなんて幸せだよほぉぉぉぉ」


目をハートにしてくねくねしながらおやつを手渡してくれた。



誰の話?なんて言うくらいだから、今の絶対聞いてたよね。


なのに否定も肯定もせず。


肯定されても切ないけど、それについて無反応なのもちょっと寂しいっていうか。



「サンジーおれのおやつは?」

「誰が野郎になんか持ってくるかよ!てめぇで取りに行け」

「…!いって!蹴るこたァねーだろ!!」

「うっせ!ヒロインちゃんにあることねぇこと言いやがって」


あ、ウソップにはこんなふうに怒るんだな。


のりのりだったとは言え、ウソップは私に付き合ってくれてただけなんだけど…。


サンジくんに蹴られたお尻を痛そうに擦りながらキッチンへと降りていくウソップに心の中で謝って。



サンジくんの渡してくれたお皿へと視線を落とす。


お皿の上にはワッフルに様々なフルーツと生クリームが添えてあり、今日のおやつも完璧においしそう。


「フ、ヒロインちゃん、食いな」

「うん、おいしそう、いただきます!…?サンジくん?」

「うん?」

「ここにいるの?」


ワッフルを口に運ぼうとすると、ウソップと交代でサンジくんが座ったから。


「もちろんさ!このおれがレディを一人にさせるわけないだろ」

「あー…ふふ、さすがプリンス」


やっぱり優しいんだ。


でもここにいたのが私じゃなくてナミでもロビンでも、サンジくんは同じようにしていたんだろうけれど。



…蹴られたいなんてさすがに思わないけどね。


口に入れるとふんわり広がるこのワッフルの甘みのように、サンジくんへの想いが日々広がっているのを感じるから。


“レディ”じゃなくて、何か私だけの特別が欲しくなってしまっていて。


どうしたらいいんだろう、この欲張り。



「サンジくんごちそうさま、おいしかった」

「ヒロインちゃんにそんなふうに言ってもらえて光栄だよほぉぉぉ」


そうしてサンジくんは私が食べ終わるまで他愛もない話をしながら隣にいてくれた。


そう言えば、タバコ。


一本も吸わなかったなぁ…。


きっと食べてる私に気を遣ってくれたんだ。


それから、ん、と当たり前に差し出される手のひらにお皿を乗せれば。


その時ほんの一瞬触れた指先があたたかくて、なんだか分からないけれど少しだけ泣きたくなった。



ね、どうしてそんなに優しいの?


どうすればみんなに優しいサンジくんの特別になれるのかな。


安心して眠る顔、やっぱり見てみたいな…。


サンジくんは「んじゃあヒロインちゃんまた後でな」と柔らかく目を細め笑ってくれて。


お皿片手にキッチンへと戻っていく背中を見ていれば、想いは更に強くなった。



だからと言って、いきなり特別になりたいのなんて言う勇気はまだ持ってないし…。


とりあえず今夜一緒に呑もうとか誘ってみようかと思った。


それで酔ってうとうとでもしてくれれば、それだけでも気を許してくれてるようで希望が持てそうだし。


だからお風呂上がりに、まだキッチンにいたサンジくんの所へ行き早速実行してみたんだ。



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