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「はぁっ、はぁ…シャンクスぅ、あ!イッちゃう」


…違う、こいつもヒロインじゃねぇ。


ヒロイン…。


やっぱりおれはおまえが好きだ。




ヒロインが何かを隠しているのは知っていた。


そしてその何かが何なのかも気付いていた。


―――ヒロインは他の男のもなんじゃねぇか…。


だが気付かねぇふりをして抱き続けた。


問い詰めることもしなかった。


失うのが怖かったから。


おれに抱かれて甘い声でおれの名を呼ぶヒロインがたまらなく愛しかった。


そんなヒロインと暮らし夜を共にしている男がいるかと思うと嫉妬で気が狂いそうになったが…。


裏切られているとしても失いたくねぇから、許すしか道はなかった。


できるのは出逢うのが遅すぎたことを憎むだけ。


それほどまでにおれはヒロインに溺れていた。



“海賊なんだから欲しいもんは無理矢理にでも奪っちまえばいい。”


ヒロインの話をベンにしたときにそう言われた。


が、おれはそれもできなかった。


きっとヒロインは優しい両親に愛情を注がれて育ったに違いねぇ。


育ちの良さもふとした仕草に現れていた。


それとなく両親のことを聞いたときに「父は今は仕事で違う島に行ってるんだけど、母は私の家の近くで一人暮らしをしているの」と言っていた。


おれを想い多くは口にしなかったが、ヒロインが家族やこの町を大切にしていることは伝わってきた。


どうしてやるのが最善なのかも分からずに、決断はヒロインに委ねた。


…そして、ヒロインはおれを選ばなかった。



裏切られ選ばれもしなかった。


けれど、おれはそれでもまだヒロインを欲していて…。


ベンの言う通り無理矢理にでも奪わなかったことを後悔した。


ヒロインが傍にいてくれるなら、一生責められても構わない。


今更何もかも遅いが…。



仲間に会わせることすらできなかった。


大切な仲間に大切なヒロインを会わせたかった。


けれどヒロインは船に来ることを拒否し続けていた。


誰にも知られず誰にも認められず、二人だけの空間でおれとヒロインは存在していた。


ふと、全てが幻だったんじゃないかという錯覚に陥るときがある。


おれだけが見ていた理想の幻。



「…シャンクス、何見てるの?…空に何かある?」

「月…、きれいだ」

「ふふ、四皇ともあろう人が月を眺めたりするのね」


事情後、隣で寝そべっている女がくすくすと笑っている。


ヒロインと別れてから何人かの女を抱いた。


ヒロインを求め、どことなくヒロインに似ている女ばかりを抱いた。


けれど気持ちは萎えるばかりで、ヒロインへの想いが増す一方だった。


あんなにいい女、他にいねぇ。


想えば想うほどに幻のような気がして…。


だが、違う。


月を見るとあの頃の二人が明確になる。


ヒロインを初めて抱いた夜も月がきれいに輝いていた。


もっとも月をきれいだと思えたのは、ヒロインを抱いて気持ちが満たされていたからなんだろうが。



そう、ヒロインは確かにおれに抱かれていたんだ。


そしておれを好きだと言っていた。



もう一度ヒロインに好きだと言われてぇな…。


ヒロインを失ったおれは満たされることを知らなかった。


そんなおれに月の光だけが安らぎをくれているのだ。


静かに輝く月を見ていたら、ヒロイン以外を抱いた自分が無性に汚らわしくも思えて…。


うとうとと眠りに就いた女を残し、一人船へと帰った。




今の島には停泊して三日になる。


仲間達と呑み屋に入り浸り、決して健全な過ごし方はしていなかった。


「お頭どこ行くんだよー?」

「ああ、今日はそこらを少し歩いてみる」


「なんだ今日は呑まねぇのか!?」

「毎日呑んでばかりもいられねぇだろう」


「ギャハハ!お頭毎日呑んでるじゃねぇか」

「まぁ、そうなんだが…」


だが今日は呑む気分にもなれず、一人町を歩くことにした。


ヒロインと一緒だったらどれだけ楽しかったことか。


一人で歩いても考えるのはヒロインのことばかり。


いつまで、おれは一生抱くことのできねぇ女の影に囚われるんだろうな…。



そんなことを考えていると一軒の花屋が目に止まった。


ここでもヒロインを思い出す。


ヒロインがかわいいと教えてくれた花があった。


花なんて柄じゃなねェけど、最後の日、それを買い花束片手に待っていた。


結局ヒロインは来ず、その花束は渡すことができなかったが。



無意識に花屋に近付いていた。


ヒロインがかわいいと言っていた花をもう一度見たくなった。


ここの花屋にもあるだろうか。


「すまん、ちょっと欲しい花があるんだが…」

「はい、いらっしゃいま…、…!」


店に入り声を掛けると、背を向け花の手入れをしていた店員が振り返った。



…そしておれの時間は止まる。


そこには愛しい顔愛しい声愛しいからだの持ち主がいたのだ。


紛れもなく本物のヒロインがいた。


どうしてここにいる…!!



「ヒロイン…?」

「うそ…シャンクス…!!」


その愛しい唇がおれの名を呼べば、もうヒロイン以外見えなくなる。


その瞬間腕を掴み引き寄せ抱き締めていた。


「ヒロイン!!」

「シャンクス…!」

「ヒロイン…会いたかった…!」


ヒロインに旦那がいることも、おれが選ばれなかったことも、全て忘れ去られて。


目の前のヒロインしか見えなかった。


見たくなかった。


ヒロインも恐る恐るおれの背中に腕を回し、それからぎゅっと抱き着いてくれた。


おれ達はまた同じことを繰り返すのか…?


いや、違う。


今度こそ奪っていく。


もう置いてなんていけねぇ。



「…ヒロインちゃん?」

「!!」


抱き合い無言で互いの体温を感じていると、声を掛けられヒロインのからだがおれから離れていった。


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