ヒロインが自ら選び初めて手にした紙の本は不倫を題材にしていた。


しかしヒロインはこの著者の文体を気に入ったらしく、次も同じ著者の本をタイトルで選び購入してきた。


そんな二冊目は、まだ同性婚が認められていなかった時代、恋人のいる同性愛者の男との婚姻生活を描いたものだった。


言葉で聞くとどちらもただの純愛ではなく、ヒロインの求めている恋とは程遠いような気がした。


だがヒロインはその中でも暖かなものを感じたと言い、「本物の恋にも色々な形あるんだろうなぁ…」と呟いた。


それに対し僕は「そうかもしれないね」と返し、ゆったりと髪を撫でた。


例えば、今目の前にある、ヒロインの恋もそうだ。


差し詰め、犯罪者とは露知らず手懐けられ溺れた女の物語、といったところだろう。


果たして、ヒロインが信じたこの恋は、どのような結末を迎えるのか。


それがどういったものでも、僕達次第の物語を綴り続けていきたい。


心行くまで共に―――。



ヒロインをベッドの上へそっと座らせる。


もう何度も共に過ごしているベッド。


だがヒロインはとてつもなく緊張をしている様子で、ヒロインの速まる鼓動が僕にまで伝わって来そうだった。


おまけに、紅く染めた頬を右手で包めば、僅かに顔まで背けて。


どんな時でも澄んだ瞳に僕を映しているヒロインが、こうして恥じる姿も新鮮だった。


この程度のことですら率直に愛らしいと感じるまでに、ヒロインの存在が僕の中で膨らんでいることを認識する。


とびきり甘い響きになるよう名を呼ぶ。


「ヒロイン、」

「ん…」


呼べば操られるように視線を寄越したヒロイン。


目が合い、頬に触れていた手を顎に添えると、ヒロインは従順に顔を上げた。


そうしておそらくヒロインは思わず僕に見惚れながら。


「しょうごくん…好き」


本当にうっとりとした面持ちで再び気持ちを口にした。


一度伝えたことで、堰を切ったように僕への想いが溢れているのだろう。


今夜ヒロインから初めてもらった言葉。


それは思っていた以上に心地好く鼓膜を揺らした。


故に、もう何度も聞いたよ、と、返す選択もあったが、選ぶ気にはなれなれずに。


「――…フ、」

「うん…?」

「いや……だが、廊下で言われるとは思っていなかったから」

「ぁ……ふふ、だって、我慢できなかったの」

「そのようだね」


何度だって。


この柔らかな唇に、偽りのない音で紡がせたかった。


「うん…聖護くん、だいすき」

「ああ」


僕を好きだと繰り返す唇に触れたい欲求が増し、顔を近付け唇を重ねた。


左手は腰に回しながら、ヒロインの上唇も下唇も愛でて。


軽く吸い、口内に舌を侵入させ、ヒロインの舌を捉え絡める。


手はニットの中へと忍ばせ地肌をゆっくりと撫で上げた。


小さく震えるヒロインの肩。


「緊張をしているのかな」

「ん…してる……」

「なら今夜もキスだけにしておこうか」

「…それは、やだ…」


ヒロインの答えを分かりきった上で、そもそも止めてやるつもりもない癖に、言わせたくて投げた問い。


案の定ヒロインは、消え入りそうな声で、だが、はっきりと続きを望んだ。


今までよりも激しく舌を絡めながら口内を犯しつつ、ブラのホックを外し、直に胸に触れた。


「あ…ッ…」


柔らかさを確かめるように揉み、頂きの回りを指でなぞる。


重なる唇から漏れるヒロインの吐息はどんどんと扇情的なものになっていった。


だが当然これだけの刺激ではもどかしくもなってくるんだろう。


ヒロインは焦れったそうに僕のシャツをきゅっと掴んだ。


そんなヒロインに自然と吊り上がる口角を感じつつ、一度唇を離し、ヒロインの顔を覗き込んだ。


潤んだ瞳で余裕なく僕を見つめるヒロインと視線が絡まる。


「…ヒロイン、」

「ん…?」

「今まで見た中で、一番いやらしい顔してる」


髪を撫でながら耳に掛けてやり、耳許で艶を含ませ囁き、耳朶を甘噛する。


「や、ぁ…!」

「だから…きっと、もっと僕の知らない顔もあるんだろうね」


そうすればヒロインの力は一段と抜けたから、その隙にトップスとブラを奪い去った。


ふっくらとした二つの乳房が露になり、その先端は桃色に色付いていて。


この女に対してのみ形を成す、雄の本能が存分に掻き立てられていく。


ヒロインは気恥ずかしそうにからだを手で覆おうとしたから。


手首を押さえ隠すことは阻止し、首筋から鎖骨に舌を這わせながら、ベッドへと押し倒した。



そう、何度だって、脳内で汚したように―――。



「……知らない君を知りたくて、」

「…ぇ…?」

「何度も抱いたよ」

「どういう、いみ…?」

「ヒロインの幻想を、抱いた」


言いながら自身のシャツも脱ぎ捨て、もう一度ヒロインの胸を掴み、頂きにも刺激を与える。


すぐに存在を主張したそれを指の先で摘まみ弾いた。


片方の胸は口にも含み軽く歯を立て、舌先でも攻めれば、ヒロインの喘ぎはますます甘さを増した。


「ンッ…、うそ………」

「嘘ではないよ、僕の手で何度も啼かせた」


言葉にし、ヒロインに伝えたことで自身もより鮮明に自覚をした。


もう随分と前から、僕はヒロインが欲しくて仕方なかったんだ、と。


しかしヒロインは、僕がこんな風に欲していたなんて本気では思っていなかった様子で。


小さな呆れが混入した笑みが零れる。


だがそれは同時に、犯罪以外のことを思案する余地のできた自分に対してものように思えた。


「いっそ本当に抱いてしまおうか…と、無防備に眠る君の隣で何度も考えたよ」

「聖護くん…」

「でもやはり何よりも尊重したいのは君の意志だから」


胸を弄んでいた右手をからだのラインをなぞりつつ下らせ、スカートの裾から忍ばせ太股を撫でた。


「お陰で今夜まで随分と待たされた」


そのままショーツの上から秘部に触れると、布越しでも分かる程に濡れていて。


「ん…!」

「あーあ…こんなに濡らして………自ら先伸ばしにしていた癖に、」


蕾を中心にゆったりと指を動かせば、更に蜜が伝っていくことが分かった。


「からだも、こんなにいやらしいんだね」


低く耳打ちをすると、ヒロインは火照りとは違う紅潮を見せ。


大きな瞳を恥じらいの色で目一杯染め、控え目に首を横に振った。


「聖護くん…意地悪言わないで…」


ヒロインに触れているだけで熱を帯び始めていた欲望が、更に膨れ上がり。


ヒロインの反応や声の一つ一つに驚くほど煽られていることが分かる。


「……やはり君は思い通りにはいかないな…」


本当は今夜は、揶揄を続け。


焦らされた分、泣かせる程焦らしてやりたかった。


だがヒロインのせいで、この先を見たい気持ちも逸って。


焦らしながら抱くことが、今夜である意義を見出だすことすら不可能な気がして。


「僕の気持ちをこんなにも乱すことができるのは君だけだ」

「聖護くん……、…ぁ」


今は本能のまま、スカートとショーツも剥ぎ取り、ヒロインを一糸纏わぬ姿にした。


全てが視界に収まるよう少し距離を取り眺める。


めりはりのある滑らかな白い肌も、しなやかに伸びた四肢も美しく。


「―――ヒロイン、綺麗だよ」


自然と口を衝いて出た言葉だった。


裸体を目にし、こんな感情を抱いたことも初めてだった。


得も知れぬ故に、その美しさが僕には毒で。


全てを委ね、僕を待ち侘びるからだは、まるで劇薬のように思えた。


侵される為に、僕はこの女を冒すのだろう。



「…聖護くん、でもあんまり見られると恥ずかしい…」

「そう…じゃあ…またヒロインを堪能させてもらうとするよ」

「っ…!」


再び胸には舌を、秘部には指を這わせ、愛撫を再開させる。


水音が溢れ、蕾に触れる度にヒロインのからだは大きな反応を示した。


「ふ……あ、…あッ、」

「それにしても……実物を前にすると、想うだけの行為は、どれだけ愚かか思い知らされる」

「ん……なぁ、に……聖護くん……、っ!ゃあっ…!!」


触発され。


中指を泉に貫き、擦り付けるように内壁も刺激した。


「君は僕が思っていたよりも、ずっといい顔と声で啼くから、」


人指し指、薬指と増やしていき、掻き混ぜる。


「んっ…、はぁ……、あ…!」

「……だからこそ、楽しくもあるんだろうけどね」


どれだけ想像力に富んでいようと、思い描くだけで満足するような人生など、やはり退屈なだけだ。


こんなにも心揺さぶるものに出逢う可能性を棄てるなど、僕にはできない。


快楽に堕ちたヒロインは、僕の言葉をきちんと理解することも困難なようだった。


だが今はそれで構わなかった。


僕の与える快楽によがるヒロインに、僕の心も悦びを捕らえることができるのだから。


淫らな水音が部屋中に響く中、やがてヒロインの声が一際上擦る箇所を見付けた。


「ああ……ここだね」

「ッ…ダメ……だめ、聖護くんだめ…!」

「フフ、駄目?とても気持ち良さそうに見えるけど」

「でも、だめなの…!やぁっ…」


重点的に攻めると、あまりの快楽からか、ヒロインの腰は逃げ出したそうに引けた。


だがしっかりと押さえ付けて。


膝の内側にはそっと唇を落とし、ヒロインを一度目の絶頂へと導いていく。


「ア…!やだぁ…も…!」


追い討ちを掛けるように、太股の内側を舌で辿り、脚の付け根まで到達し舐め上げた。


膣への動きも緩めることはなく、蕾に吸い付き舌で刺激をした。


強弱を付け、全てを慈しむように。


「…や…!もう、っ…イッちゃう…!!」

「いいよ、ヒロイン」

「聖護くん……イク…!……ッ!!」


ヒロインはからだを震わせ絶頂を迎えた。


呼吸を荒らげとろんとした目で僕を見つめるヒロイン。


見つめ返すと、触れたいとでも言いたげに腕を伸ばしたから。


達したことで波打ち、留まることなく蜜を溢れさせる泉から一度指を引き抜いた。


指を絡め手のひらを重ね、手の甲にキスをしてから、きつく抱き締めた。


「はぁ……は…、聖護くん…好き…」


抱き締めれば自然と唇は重なり、触れるだけの優しいキスを何度も繰り返した。


僕の腕の中で余韻に浸るヒロインは一段と愛おしく思えて。


気付けば、自身の欲も限界までそそり勃ち、ヒロインを欲していた。


「ね…、聖護くん…」

「…なにかな、ヒロイン、」


しかし、このままヒロインと一つになりたい、そう思った時。


少し不安げにヒロインが言葉を発したから、流れに身を任せることはやめ、耳を傾けた。


「いまも、まだ……恋は錯覚だと、おもう…?」


それはヒロインに踏み込んだ晩に僕が伝えたことだった。


あの台詞が今もヒロインの中で、少なからずわだかまりを残しているということだろう。


だがヒロインと過ごすうちに、あの頃には持ち合わせていなかった感情が今の僕には芽生えている。


故にヒロインがこのような寂寥感に覆われる必要はないように感じ。


欲には一度蓋をして、キスをしながら言葉を続けた。


「そうだね…その思考自体はあまり変わっていないかな」

「…そうなんだ……」


実際未だ他人の恋という感情には全く興味がなければ、信用できる要素も皆無だった。


今日処分をしてきた男のヒロインへの想いも所詮錯覚だった。


ヒロインの想いに至っても、今後どのように転がっていくのかは知る由もない。


「だが…、あの晩のようにただ真っ向から否定するつもりもないよ」


それでも今の僕には、ヒロインの不安を払拭してやれるだけの想いはあった。


「君という人間を、錯覚にはしたくないんだ」


恋心の否定をしたら、僕を好きだと言うヒロインの存在まで丸々消し去ってしまうようで。


そんな人生が僕を満たすことは、もうないだろう。


「これから先も君の変化を一番近くで見守っていきたいと思っているよ」


失いたくない。


僕の傍で生きて。


「だから、ヒロイン、」

「はい…」

「これからも僕に恋をしていて」


至極穏やかに告げれば。


僕の意思を汲み取ったヒロインは、感極まった様子で僕の首に腕を回した。


「うん…!聖護くん…大好きだよ…!」


ヒロインの動作が引き金になったかのように、口付けももう一度深いものへと移行していった。


それから充分すぎる程に潤った泉の入り口に自身を擦り付ければ。


「…ヒロイン、挿れるよ」

「ぅん…聖護くん…」


ヒロインは僕にしがみつくように腕に力を入れた。


熱いそこへ誘われるままにゆっくりと、最奥まで沈めていった。


腕の中のヒロインは柔らかで最高の抱き心地で。


中も本当にとろけてしまいそうな感触だというのに、その反面大きな快楽を連れ締め付けてきて。


味わったことのない高揚感に思わず息を呑む。


「――…はっ……あぁ…!」

「…ッ…、ヒロイン、」


全てを収めたところで、ヒロインをまず見下ろす。


快楽に顔を歪ませるヒロインに、心はみるみると満たされていった。


このままこうしているだけでも構わない気さえしてくる。


「聖護くん………はぁ…きもちー…」

「…僕も気持ち良いよ、ヒロイン」


だがからだは、このまま大人しくしているなんて、到底無理だったようで。


抑え切れない衝動に従い腰の動きを速めていった。


「あ…!聖護くん…!激しい…っ、」

「……ねぇ、ヒロイン、」

「んっ…、ぁ、ン、…ンッ!」

「僕は、きっと…」


加減なく突き上げ、いつもは麗らかに向けられる表情を跡形もなく壊した。


僕は、ヒロインの微笑みにキスをすることも、泣き顔に触れることも、好きだ。


しかし今、あまりの快楽に呼吸すら追い付かず苦しげに喘ぐヒロインに、怖ろしい程に欲情していて。


「…君が想うような、優しい人間ではないよ…、ッ…」

「…そんなこと……っ、」

「いや…、現に今も、苦しげな君を前にしても、加減してやれない」


求める気持ちが止まず、またヒロインの返答欲しさに言葉を成した。


僕はこの女に、どこまで求めれば気が済むのか―――。


「それでも……わたしは、聖護くんが…すきだよ…!」

「…ああ、」

「好き…、しょ…ごく……大好き…!…ぁ、あ…」


吐息混じりに望み通りの答えを口にしたヒロイン。


喘ぐだけでも精一杯なはずだというのに。


一度ならず、うわ言のように何度も。


心地好い。


だからこそ聞いていたかった。


だが今度は、何故だか徐々に胸が締め付けられる感覚を覚えて。


こんなに近くにいても。


これ以上近付きようのない存在が、恋しくてたまらなくなった。


「好き、聖護くん…、すき………んぅ」


だからヒロインの唇を僕の唇で塞いで、言葉を遮るように貪った。


だが胸の締め付けは和らぐことはなく。


どれだけ激しく犯そうと、収まることを知らぬ熱。


しかし不快ではなかった為、取り払うことに努めもせず、ただひたすらに攻め立てた。


何をしても無駄で、だがこんなにも有意義な無駄は他にない。


「んっ…、ンッ」


ヒロインの甘い悲鳴が脳内で籠り、僕の吐精感も如実に増していく。


「ンっ!…いく、しょうごく……またイッちゃう…!」

「ん…、ヒロインのイクところ、傍で見せて」


だが先に耐えきれなくなったのはヒロインだったようで。


下げた眉を寄せ、存分に快楽に浸りながら、もう一度果てた。


「ッ!あぁ…!!!」

「いいね…ヒロイン、いい顔してる」


間近で見たヒロインの表情は、更に僕の全身を疼かせ。


収縮を繰り返し吸い付くそこを突き上げるペースを緩めることはできなかった。


「ぁ…!…しょうごく……まだ、だめ…!」

「…ハ……、まずいな…」


ヒロインの制止も聞かず、肩の上にヒロイン脚を乗せ、より深く繋がる。


「君のせいで、止めてやれない」

「ふ、あぁっ…、なん、で…?」

「煽っている自覚はないようだね」

「そんなの…!っ、ンッ、ん…!」

「でも、本当に辛かったら言うんだよ、傷付けたいわけじゃない」


それでもヒロイン相手に、独りよがりなセックスをしたいわけではないから、そう告げると。


淫らに啼きながらもヒロインは、すぐさま瞳に優しい色を差した。


「ん…はぁ……だい、じょぶ、だから…、もっと、して…?」

「………それが無自覚というのだから、怖ろしいよ」


とことん僕を受け入れようとするヒロインの姿勢はぶれることを知らず。


それがまた僕の昂りに拍車をかけた。


「だって、好き…」

「ッ…」


この期に及んで有り余る感情も全て、ヒロインに注いでしまえばいい気がして。


「あぁ…も……聖護く…、わたし…また…!」

「ああ……ヒロイン、一緒にイこう」

「んッ…す、き…!」


僕を好きだと言うヒロインに酔いしれつつ、今度は共に果てた。


だが一度吐き出しても、足りずに未だ高鳴って。


赴くまま求め、ヒロインのからだを酷使した。


三度目の吐精を迎えると、いよいよヒロインは限界だったようで、そのまま意識を手放した。


疲れ果て横たわるヒロインをまた抱き締め、額に口付けを一つ。


「…ヒロイン……」


産まれる愛おしさはどうしても殺しきれなかった。


たかがセックスで身も心も満たされるなど、思いがけぬ出来事でしかない。


ヒロインを抱き、咲き初める幸福。


明日からも、ずっと。


厭きるまで、この女と生きることを楽しみたい。



「―――おやすみ、ヒロイン…また明日」



そうして数十年生きた記憶が残る中で初めて。


人肌に触れたまま、眠りに堕ちた。




apple of my eye


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