躾に一番効くのは※ |
お目覚め一発目にコンクリの天井が見えるのなんか日常茶飯事だ。あとミカサのドアップとアルミンのドアップなら経験があるが、人類最強と謳われるリヴァイ兵長様のドアップは、生きてきてこの方初めてだった。 死んだ魚のような目がこちらを覗きこんでいて、エレンは反射的に目をかっ開く。 「…!? リ、リヴァイ兵長! えっなんで…あ、いえっ、おはようございま――」 「…ぴったりだな。似合ってるぞ」 寝起きにしては上出来なくらいの声の張りだった。けれども挨拶への返しもなしに、リヴァイが脈絡のない言葉とともにこちらを指さす。首のあたりだ。 え? と自分の首に手をやる。すると指先に、何か固い感触があった。いや、固いというのはちょっと違う。なんだろうこれ。鉄じゃない、もっとこう、知ってる。――あ、ベルトの感触と同じ? ベルトの感触という言葉が、イコール拘束具という結論を導き出す。 「え、…え!? ちょ、何の冗談ですかこれ!」 飛び起きようとすると、ギツリと首が後ろに引っ張られ、締まる。振り返れば首輪から伸びた鎖はベッド付近の柱に括りつけられており、それを目にしたエレンはよけい混乱した。一体これはどういうことなのか。 見ればリヴァイは満足そうかつ不敵な笑みをうっすらと浮かべこちらを舐めるようにして見下ろしていた。その表情に、ぞくりとする。 「も、もっかい訊きますけど…これ、なんですか?」 「中型犬用の首輪だが」 「さらっと言ってのけますね…いや、じゃなくて! 何のためにこんなことしてるんですかって、そういう意味ですよ!」 なにも見なくたって首輪なことくらいわかる。その目的を尋ねているのだ。そう食ってかかると、まぁ落ち着けと諭されるが、この状態で落ち着けるわけがあるまい。 「ギャーギャーうるせぇ犬だな」 「犬って何ですか!」 「ネコ目イヌ科イヌ属の哺乳類だが」 「それは知ってますよ!」 エレンが喚き立てれば立てるほど、リヴァイの眉間は険しくなった。けれどそんなもの見慣れてしまっていたエレンが次の言葉を口にしようとしたその瞬間――エレンの背中はベッドへと叩きつけられる。 なにをするつもりだ――なんて、そんな質問はリヴァイの鋭い視線に絡め取られて消えた。 コンクリで固められた冷たい室内の、その隅にあるシングルサイズのベッド。その上で、エレンの足下の方で、衣擦れの音がする。 上着を放って、スカーフを引き抜いて――白いシャツが床に。 露わになったリヴァイの肌は、所々に古傷がある。うっすらと残るものもあれば痛々しいものもあり、エレンはそれを目を背けることもなく凝視した。 上半身の次は下半身。細いベルトを器用に引き抜きながら、カチャカチャと金属の音と共に装備が外れていく。 え、それ以上脱ぐんですか、とツッコミを入れようとしたけれど、リヴァイは最後の一枚をも上着を脱ぐのと同じくらい簡単にやってのけた。 今、エレンの目に全裸のリヴァイが映り込む。 なにも纏っていない。それから、どう見たって男の体であった。小柄だから華奢なのかといえば、とんでもない。どこもかしこも筋と筋肉で構成されていて、彼から比べればエレンの体なんて貧相極まりなかった。 「お前、案外こういうの嫌いじゃないだろ?」 不敵な笑みを浮かべ、リヴァイがそんなことを言い放つ。 首を振って否定する前に、強烈な視覚情報でエレンの主張など吹き飛んだ。 (…え? え、ええ? なにして…) ……一言でいえば自慰。片仮名で言うならばマスターベーションもしくはオナニー? いや、この際呼び名など心底どうでも良い。 エレンが居るということを、忘れているというわけではないだろう。むしろその逆だ。見せつけている――のか? いや、正直わからない。彼の意図がさっぱり。 リヴァイの右手が、彼の足の間にあるものを持ち上げて緩く擦る。最初は何の反応もなく首をもたげていたそこは、刺激を蓄積する度に張りつめて、困惑と混乱と劣情を浮かべたエレンを酷く煽った。 「へ、兵長…」 「黙ってろよ。気が削がれる」 「いや…えっと、お、俺もその、放置されるのはちょっと…」 触れさせるわけでもなく、目の前で呼吸を乱すリヴァイにそう訴えた。手伝えばいいのだろうか。そう思って手を伸ばすと、首輪の後ろのチェーンを引っ張られ引き離される。ガツン、と、首が一瞬締まって瞼の裏に火花が散り、エレンは咳込みながら目を瞬いた。 「余計なことするんじゃねぇよ」 「よ、余計ってなんですか」 「オカズが喋ってどうする」 テメェのエロ本は喋るのか? なんていう言葉が続いて、エレンはその意味を掴みかねしばし逡巡した。けれど間もなく、理解する。 理解はしても納得なんてできなかった。 俺を見て――俺のこんな姿を見て、この人興奮してるのか? ありえない。あり得ないと思うのに、目の前で繰り広げられている光景がその考えを肯定してやまない。 目を上げれば、長い指で形作った筒の中を、リヴァイのそれが行き来しているのがよく見える。隠す気などさらさらないのだろう。 れっきとした男の体だ。それを具体的に表しているものがこの目の前にあるのに、どうしてか酷く興奮する。――男だから? …それとも。 「……っ、へ、いちょ……」 手を伸ばす。けれどもあと少しというところで首が締まって叶わない。 仰げばリヴァイの扇情的なまでに美しい体が差し込む月明かりに照らされて、腰がまた一層重くなった。 リヴァイの手が、その筋張っているけれども若干小さいその手が、リヴァイ自身を慰めている。右手だけを動かして、リズミカルに。 その唇からは熱い吐息。静まり返った室内に、濡れた息が断続的に響く。 たまらない。触りたい。そこを俺の手で、俺の指で、全部全部ぐちゃぐちゃにいじり倒したい。 触らせてください、と呟いた。けれど拒まれて、悔しくなる。 「ダメだ。まだ一回も出してねぇだろ」 「っ、だから…、俺にさせてくださいよ。…気持ちよくしますから」 「……。そうじゃねぇよ」 言って、リヴァイがエレンの体に乗り上げる。触れることが出来る距離に、エレンは手を伸ばした。けれども酷く不快そうな顔をしたリヴァイに「手はベッドに張り付けろ」と命令されて、反射的に言う通りにしてしまう。 悲しい部下のさだめである。 エレンの上に乗ったリヴァイの動向を見守っていると、唐突に彼はエレンの下衣に手をかけた。驚き身じろぎしようとすると、また強い口調で「動くな」という命令が降ってきて、あらがえずそのままされるままになる。 ベルトが引き抜かれ、ホックを弾かれて。顔をじっくり観察されながらジッパーを下げられるのは、なかなかに羞恥を煽られた。 一体なにをしようとしているのか。いや、見当がつかないわけではないが、まさかそんな。 そう思うのだが、そのまさかで。 リヴァイは見つめていたその視線を逸らし、下へと落とすと、躊躇いなくエレンの下着をずり下げた。焦って制そうと手を伸ばせば、彼の手に払われそのまま足で踏みつけられてしまう。おかげさまでリヴァイの体勢が酷く卑猥なことになっているのだが、彼は特に気に留めていないように見えた。 どころか、意識の先はエレンの足の間だ。 「テメェこれ、洗ってあるんだろうな?」 これ、と指さす先にはエレンのそれがある。何されたわけでもないのに既にそそり立っているのは、たぶん若いという理由だけではない。ツン、と先を指先でつつきながらのそんな失礼な質問に、エレンは下唇を噛みしめながら首を縦に振った。 「さっき…風呂に入ってきたばかりですが」 「……そうか」 ならいい、と呟きながら、リヴァイの手がそこを包み込む。 思わず息をのんだ。その手は、先ほどまでリヴァイ自身に触れていた手。若干のぬめりと手のひらの冷たさに、酷く興奮した。そのまま遠慮もなく上下に擦られれば、感じないわけがない。 腰が突き出そうになるのを堪えながら瞼を閉じていると、自分のそこになにか熱いものが触れた。 なんだろうこれ、と思い目を落とすと、リヴァイの手の中に彼のそれがある。片手では自分のとエレンのを同時にすることは難しいのだろう。両手を使って、圧迫して、丁度良い速度で擦る。 切なげに眉を寄せるのが、酷く愛くるしいと思った。 薄く開かれた唇は暗闇でもわかるほどに赤く染まりあがっていて、無機質な窓からこぼれる月明かりを受け止め鈍く輝く。 その吐息を封じ込めたい。口付けて、ねじ込んで――俺の唇で。 「…キ、スは?」 低く唸るエレンに、リヴァイが顔を上げた。 「……あ?」 「キスも、ダメですか…?」 「ダメに決まってんだろ」 「……どうしても?」 「ああ」 「……そんな顔、してるのに?」 そんな顔ってどんな顔だよ、と、不機嫌な声とともに握る手が強くなる。呻き声をあげると、それに気をよくしたのか口元にうっすらと弧を描いたリヴァイが、手を速める。 伏せられた睫毛が、意外と長い。微かに震えている。それが情欲からくる行動なのかどうかは定かではないが、瞼ひとつでエレンを煽るには十分であった。そっと目を開いて、こちらの様子を窺うその上目遣いに、落ちない奴などいない。 「…したい。したいです兵長…ねぇ、お願いです。キス…させてください」 耐えられず言い放つ。すると先ほどまで息を荒くしていたリヴァイが、こくり、と喉を鳴らした後ぼそりと呟く。 「……もうちょっと待てねぇのかよ」 「もうちょっとってどれくらいですか? 俺…もう限界ですよ。唇が嫌なら、他のところでもいいから――触らせてください、あなたに」 お願いというよりは、懇願に近いそれに、リヴァイは案の定困った顔をした。 それでも引けない。だって触りたい。もう腰だってなんだって全部限界なのだ。焦しプレイにしたってタチが悪すぎるだろう。 目を逸らしてなにか考えている様子のリヴァイを、じっと見つめ続ける。その視線に折れたのか、彼は大きくため息をつくと、次いでエレンの顎を掴んだ。 「……キスってのは、どのキスだ?」 「え?」 「バードか? ディープか? どっちもか?」 思わぬ展開に、喉が鳴る。 目を瞬いて、刺すようなその目に、答えなくては――と、口を開きかけたところでそこを塞がれてしまった。 俺はまだなにも言っていないというのに。 重なった唇が、湿っている。口付ける直前に、リヴァイが舌なめずりしたからだ。そんなことを考えている合間に、角度を変えたキスがまた襲ってくる。リヴァイの手が顎から頬へ、もう片方の手も反対側の頬へと移動して、それからエレンの髪をくしゃりと掻き上げた。 まるで何か慈しみでも込めるようなその所作に、命令なんて忘れてリヴァイの体を撫でる。そもそも体勢が変わったせいでとうに手の拘束は外れていて、むしろ今までどうして触れなかったのか、と。 腰のあたりに手をやると、リヴァイはもちろんそれを払いのけようとした。けれどもその手に捕まる直前に、エレンは自らの舌でリヴァイの口腔をなぞる。上顎をひと舐め。それだけでリヴァイを陥落させるのに足りた。痺れたように宙に浮いた彼の手を捕まえ、エレンは自分の頬に触れさせる。 唾液が口の脇から伝って、息をするために口を離せば舌先が透明な糸を引いた。その酷く淫猥な光景とリヴァイの挑戦的な目が、もう、本当に、どうしたらいいのかわからないくらいそそる。 「…っ、兵長……、キス、しながら…しませんか」 息が乾いた室内の空気を濡らす。 「キスしながらいきたい、です。…それで…できれば、ですけど…兵長と一緒に」 言いながら、そろり、と手を伸ばす。怒られるのは承知だったけれど、意外にも罵声も暴力も降ってはこなかった。呆気に取られるくらい簡単に、リヴァイの手を取り払い、性器に触れる。 手の中のそれはエレンのよりも一回りくらい小さく、おかげさまで扱いに困ることはなかった。なんて、きっとそんなことを口にしたら鳩尾に一発拳が入るかもしれないので言いはしないけれども。 エレンはさりげなく自分のものとリヴァイのものをひとまとめに手の中に納めると、そのまま手を上下に動かした。 するすると指が滑る。親指から中指までの三本で輪を作るようにして、ゆるゆると擦れば、リヴァイが肩口で震える息を吐いた。 一旦体を引いて、それからリヴァイの唇めがけて顔を寄せる。 緩いキスと、深いキス。舌を出して、絡めて、水音を鳴らして。 上からも下からも濡れた音がする。いやらしい。俺、兵長とこんなにいやらしいことしてる。相手は、あのリヴァイ兵長だっていうのに。 感極まって、下半身の疼きに首を振った。 手の速度を速めると、リヴァイもまたつられて苦しげな息を吐く。 「っおい…、クソガキ。なにひとりで盛り上がってんだよ」 「…とか言って兵長だって……ッ、あ、ちょ、ちょっと…!」 悪態をつこうとしたら、手を取っ払われてリヴァイがそこをひっ掴んだ。自分でする分には動きがわかっているからいいけれど、他人にやられるのは予測がつかないから困る。 あっという間に追い上げられて、エレンは胸を大きく仰がせながら俯き歯を食いしばっていた。そうでもしていないと変な声が出てしまいそうだ。そんなの絶対みっともない。 ずきずきと根元のあたりに熱が溜まるのがわかる。もっと強く擦って、解放したい。その筋張った小さな手のひらに、かけたい、汚したい。けれど勿体ない。 「……エレン」 名を呼ばれて、弾かれたように顔を上げた。見ればそこにはかすかに劣情を浮かべたような表情のリヴァイがいて。 「そろそろいけよ。もう限界だろ」 「…ま、待ってください…。もうちょっと…もうちょっとだけ…」 「わがままなガキだな。…ああ、キスが必要か?」 待てといわれて待ってくれるような人ではない。そんなのわかりきっていたけれど、この快感を出来ればこのまま感じていたかった。 やだ、と首を振ろうとしたところで、キスが降ってくる。 頭の芯が熱を持つ。今そんなことをしたら、確実に達してしまう。だから嫌だと言いたいのに。 リヴァイの手が攻めてくる。くびれを引っかけるようにしてぬるぬると、ぬるぬると。それに合わせて唇で唇を開かされ、忍び込んできた舌の暴挙と巧みな指先の動きで、エレンは呆気なく達した。 内腿がぶるぶると痙攣し、熱くて粘性の強い飛沫が腹の辺りに散る。 追って、リヴァイの背中が大きく一回波を打った。見下ろせば彼の手の中で果てた自分のものと彼のそれから白い液体が滴っていて、エレンは朦朧とする意識の中、そこにそっと手を伸ばした。 「ッ、な…にしやがる。さわんな」 言葉を無視して粘液を手に絡ませる。手を広げれば指と指の間で糸を引いたそれが、にちゃ、と音を立てた。 次いでそこを舐めようと、屈んだところで後ろに引っ張られて目を瞬く。原因は首輪だ。忘れていた。 距離的にも届かないだろう。けれどどうしても酷く淫猥な状態になっているそこをどうにかしたくて、エレンは指についたそれをべろりと舐めた。もはや混ざり合ってしまっていてどちらのものかわからないそれは、何か濃厚な味がした。 「きたねぇな。そんなもん舐めてんじゃねーよ吐け」 「やですよ、もったいないじゃないですか」 「……心底気持ち悪りぃな、お前…変態が」 「人のこと言えないでしょう」 こんなモノつけさせておいて、と、首輪を指でひっかけて見せつける。するとそんなエレンの手首を取り、リヴァイはその汗が滴る黒髪を掻き上げながら笑う。 「せいぜい犬みてーに涎ダラダラ垂らしてろってこった」 ――夜明けはまだ遠い。 |
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