緑間君の口が悪い※





 足先を――小指の方から、親指の方へと一本一本、ぬらりとした感触が這う。
 薄暗い部屋に響くのは、舌先が肌を伝う濡れた音と、微かに漏れる吐息。
 つう、と舌の感触がくるぶしの辺りまで上がってきたところで、緑間はその右足を思い切り左へ振った。
 鈍い音が高尾の頭を直撃して、先程まで興奮に歪んでいた口元が一瞬、ひくりと硬直する。

「…なぁに、真ちゃん。感じすぎじゃないの? 足くらいで」
「お前、自分のテクニックを買い被り過ぎじゃないのか? くだらん前戯などやめてさっさと入れろ」
「これだから淫乱はやだねぇ。せっかちで情緒もないっていうか」
「情緒たっぷりにセックスしても早漏が発揮されるだけだろう。さっさと脱げ」
 口の端を持ち上げてそう嫌味を言い放つと、緑間は上体を起こし高尾の下衣に手をかけた。それを力任せにぐいと引き起こすと、既に立ちあがりきったそれが暗闇の中に姿を現す。
 ハァ、と熱のこもった息を吐き、緑間は高尾の足の間に手を伸ばす。
 するとあともう少しというところで手首を掴まれ制されてしまった。
 不機嫌に眉を寄せ高尾の顔を仰ぎ見ようとすると、あろうことか高尾はその掴んだ手を緑間の足の間に触れさせ、ニヤリと意地悪く笑う。

「…なんのつもりだ」
「うん? いやあのさ、オナニー見してよ、いつもやってるみたいな、めっちゃエロイやつ」
「――テクなし野郎はせいぜいそこで指でも咥えて見てればいいのだよ」
 目を眇めてそう言うと、高尾の口元がにんまりと大きく弧を描いた。
「いつにも増してノリ気じゃん? んじゃほら、足開いてよ」
 両手で足を割られ、体の真ん中が露わになる。緑間は特にそれに恥じもせずに左手で己の性器を引っ掴むと、親指で先の方に触れくるりと円を描くように回して小さく息を詰めた。
 どこからか溢れだす液体を、手のひらと性器の間に馴染ませて擦って音を立てる。粘性のある泡がぐしゅりと潰れるような、酷く卑猥な音がする。
 見せつけるように、誘うように。こちらをじっと見つめてくる高尾にちらと視線を投げてから、緑間は小さく舌舐めずりをした。
 閃かせた舌先に、たっぷりと唾液を絡めて口の左から右へと。

「そろそろ辛いんじゃないのか、高尾。チェリーボーイを卒業して間もない早漏短小ポークビッツちゃんなのだから、無理をするのはよくないのだよ」
「…ハッ。お気使いありがとよ。そんならビッチな尻穴にぶち込まれただけでイっちゃうところてんがお得意な真ちゃんも、ここらで一回出しといた方がいいんじゃないの?」
 フッ、とお互い、暗闇の中で笑う。ずれたメガネの奥から汗で張り付いた黒髪を覗くと、その瞬間高尾は緑間の左手を取って持ち上げ、その手のひらをべろりとひと舐めした。
 次いで親指、人差し指。じっくりとねぶられ水音を立てられ、手がべっとりと濡れる。
「ほーら、高尾ちゃん自家製ローション。媚薬効果抜群だからさぁ、真ちゃんきっと早漏の和成くんよりも早くイっちゃうよ?」
 そのままその手で性器を擦らされる。高尾の手に握り込まれたままでは自分の思うようには出来ず、予測不可能な動きに思わず腰が揺らめいた。

「あっはは、真ちゃん、どしたの? もうイきそーなの? 和成くんのやらしい手コキでイかされちゃう? やだねー真ちゃん淫乱過ぎてテクなし野郎の貧弱テクでもイけるようになっちゃったんだ?」
「……っ、あ……! …だまれ、射精させるだけならソープ嬢でもできるのだよ」
「お褒めに預かりまして光栄です、っと」
「…ん、っく、……あっ、あ!」
 腰がぶるりと震え、全身に電気のような快感が走り抜ける。それと同時に声にならないような甲高い音が口から洩れて、緑間はきつく目を瞑った。
 じんわりと腹の上を濡らす生温かさを感じながら息を整えていると、追って足にも同じくらいの温度のものが断続的にかかって瞼を持ち上げる。
「…やっぱり早いな。どこかいい医者を紹介してやるのだよ」
「…あ、はっ。お気遣いあんがとさん。んじゃついでに真ちゃん去勢にでも行く? もう突っ込む機能いらないっしょ?」
「お前がいけ。万年発情期め」
「クソビッチに言われたかねーなぁ。どーせ今日もぶちこんでぐちゃぐちゃにして気絶するまで満足しねーんだろ?」
「……フン、わかっているならとっとと――」
 言いきらずに、緑間は高尾の唇へと噛みつく。まるで口腔を犯すように巧みに、舌を絡めて吸って混ぜて。

 月明かりの差し込む薄暗い空間で、重なった体がもつれるようにベッドへと沈んだ。





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