01








「…ばかやろおおお!!!」


ボスッ


後ろのベッドの上に畳んである毛布に思いきり携帯を投げつければ、
向かい側に座っていた辰也が珍しく驚いたような表情をした。
いくらポーカーフェイスとうたわれている辰也も、突然メールを読んでいた目の前の彼女がこんな行動に出たのは予想外過ぎたんだろう。

「名前…どうしたの?」
「…」

無言で毛布の中に埋まった携帯を拾い、辰也に手渡す。

そう、私の怒りは今しがたクラスメイトの子から来たこの一通のメールのせいだ。

今は春休み。
せっかく久しぶりに辰也の部屋にお邪魔してお喋りして、気分は最高だったのに。
それなのに…それなのに!

久しぶりー元気だった?
そんな始まりのメールは、そこから長々とこれから彼女が迎える新しい春について書かれていた。
この前から自動車学校に行き始めたんだ!
髪も染めちゃった。それから大学の入学式の為にスーツを買ったの。
大学といえばサークルは何に入ろう?
バイトもしなくちゃっ。楽しみだなあ!…云々。

そしてそれは、私の気持ちをどん底に突き落とすのには十分な内容だった。
なぜなら私は今年大学受験に失敗して、浪人の道を選んだから。



「成る程ね」

しばらくすると、メールを読み終えた辰也から携帯が返ってくる。

「そういえばこの子、何かにつけて自分と名前を比べる節があったね」
「そう…メールなんて今までほとんどした事ないんだよ!?」
「うん」
「当て付けとしか思えない!」
「そうだね」
「本当は私だって…っ、」

ああ、ダメだ。
不合格通知を見たあの日から、ちゃんと気持ちは切り替えたはずなのに。

「名前…おいで」

ぎゅっと唇を噛んで下を向いていると、おもむろにそう言う辰也。
その言葉に頷いて座っている辰也の近くに寄れば、ふわりと後ろから抱き締められた。
今日みたいに私が落ち込んでいると、辰也は時折こうしてくれる。
辰也のさらさらした髪が微かに頬に当たってくすぐったい。


「名前…オレは、名前は偉いと思うよ」
「辰也…」
「皆よりも難しい大学を目指して、失敗して…それでも夢を捨てずにまた戦おうとしてるんだろ?」
「…」


確かにそうだ。

メールをくれたこの子が私大に通うのに対し、私が狙っているのは難関の国公立。
センター試験ではこの子の入った大学なんてA判定で合格出来る点数だった。
でも…

「でも…私が現役の時にもっと頑張れば、行けてたかもしれないのに」

本当は私だって、現役で行きたかった。
受験期に相当勉強は頑張ったし、周囲の皆もあの大学は一浪や二浪当たり前だよ!なんて言ってくれるけど…実際は現役であそこに受かる人もいるわけで。
単純に落ちた事に対する悔しさに加え、何故あの時もっと頑張れなかったんだという不甲斐ない自分に対する怒り。
両方がぐちゃぐちゃになって、どうにかなってしまいそうになる。


「うん、やっぱり名前はいいこだね」

だけど背後で聞こえた優しい声に、張り詰めていた気持ちがほんの少しだけ軽くなる。

「え…?」
「人を羨むばかりじゃなくて、ちゃんと自分を見つめてる」

辰也の大きな手が、ぽんぽんとあやすように私の頭を撫でる。
子供扱いしないで、なんて紡ごうとした言葉は
そのあまりにもの心地よさと安堵感でまたたくまに消えてしまった。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -