戦士との出会い2/2
「ここは……」
「あ、目が覚めた?」
まず見慣れない天井が視界に入り、そして声のした方に顔を向けた。
誰だか分からないが、銀髪の優しそうな青年がいる。
「あれ、私……」
どうしてこんなところに。
そんなユランの心境を読み取ったのか、青年――キルハは今までのことを話してくれた。
「君は、二日間意識が無い状態だったんだよ」
「は、二日も?!」
「そう。それに……信じられないんだけど、君は空から降ってきてね」
キルハは空――実際は天井――を指差した。空から降ってきたということを聞き、ユランはやっと箱舟でのことを思い出した。
あの時、自分は動くことも声を出すことも出来なくて。
ただ師の一太刀をその身に受け止めることしか――。
「……ししょー」
「え、ししょーって……?」
首を傾げて尋ねたキルハだったが、ユランが次に発した言葉は不穏かつ物騒なものだった。
「……あのハゲ、ふざけんなよ」
「……え?」
「いっつもいっつも、自分一人で抱え込んで思い込んで暴走して……巻き込まれるこっちの身にもなれっつーの!!」
「あのー……もしもし?」
終いには黒いオーラでも立ち上るんじゃないか、というほどにユランの愚痴はヒートアップしていた。今のキルハの気持ちを代弁するなら、“どうしちゃったのこの子”である。
「何も言わずに私をぶった切ることないじゃん、あのハゲ……し、ししょーのバカァァーー!!」
感情が高ぶったのか、関を切ったようにユランは泣き出した。慌てたのはキルハである。
「えぇっ?! ちょっ待っ……」
「ハゲーー!!」
「それさっきも言ってたよね?!」
やたらとハゲを強調するユランに、キルハは観念したかのようにユランの頭に手を置いた。優しく撫でながら、尚も何か言う(しかし泣きながらなので何を言っているかわからない)ユランに相槌を打った。
半刻も立つと、なんとか落ち着いたユランはやっと大人しくなった。
「えー……お見苦しいところを見せて悪かったわ」
「いや、いいよ。何か複雑な事情があるんだよね。あ、俺はキルハっていうんだけど、君は……?」
そういえば自己紹介がまだだった。名前も知らない人の前で泣き出してしまったという……。
迷惑をかけてしまった。そう思い、しゅんと小さくなってしまったユランであったが、そのことについて相手はあんまり気にしていないらしい。優しい人だ。
「私は……ユラン。危ないところをお助けいただきありがとうございます」
「いやいや、俺は傷の手当くらいしかしてないから。看病だって、ほとんどティルが……」
そう言いかけたまま、キルハはなぜか止まってしまった。
「え、ちょっと……キルハさん?」
どうしたのだろうかとキルハを覗き込んだ時……相手は突如バッターンと盛大な音を立てて倒れてしまった。
「ええぇぇーーっ!? キルハさん? キルハさーん!!」
「キルハ兄さん、そろそろ交代……って、兄さん?!」
ユランが絶叫すると共に、男の子が部屋に入って来た。もしかしたら、キルハの言っていた“ティル”という人かもしれないと思ったが、果たしてユランの予想は当たっていた。
そんな少年はユランの姿を見て、「あ、起きたんだね!」と一瞬顔を輝かせたが、そんな場合ではないと思い直したのか、急いでキルハに駆け寄った。
「兄さん、大丈夫?!」
「ごめんごめん、大丈夫だよ。ちょっとフラッとしただけだから……」
弱々しい笑みを青白くなった顔に浮かべたキルハは、かなり儚げに見えた。
「……私なんかよりキルハさんがベッドで寝てた方がいいんじゃないの……?」
「大丈夫だよ、こんなの日常茶飯事だから」
怪訝な顔をしたユランに答えたのは、キルハではなくティルだった。
「キルハ兄さんはもともと体が弱くて、倒れることがしょっちゅうあるんだ」
「弱いんじゃないよ。ただ人よりちょっと頭痛腹痛咳熱くしゃみが多いだけだ」
「いや、世間ではそれを体が弱いって言うから」
しかし、それを完全に否定するキルハ。そんなキルハをじーっと見ていたユランはおもむろに、
「キルハさん、よく見れば良い男じゃない」
「はい?」
二人とも、相手への第一印象は“変わった人だなぁ”であったという。互いに似たような感想を持っていたとは思いもしなかったに違いない。
春風舞う季節と共に
〜戦士との出会い〜
空から来訪者。
―――――
戦士のくせに病弱・キルハでした。
そしてティルを見失いました← あの子、どんな口調だったっけ……。