春風舞う季節と共に | ナノ


疑惑のバレンタインチョコは奇跡の味?

「タークトーー」


浮かれた感じにタクトを呼んだのは、お馴染み我らがリーダー・ユランである。 手には何か持っているようだが……なぜか、タクトはいきなりそれを投げつけられた。


「受け取れ!!」


「なんで普通に渡せないんだお前は!?」



「全く……長い付き合いだって言うのに分かってないね、タクトは」


呆れたような大仰な溜め息をつき、ユランはどーん、と宣言した。


「こうする方が面白いからに決まってるでしょ!!」


「果てしなく無意味かつ不本意なんだが」


ユランが面白くても、タクトは全く面白くない。


「で、これは何なんだ?」


「バレンタインチョコ」


……なに?
聞き間違いだろうか。いや、そんなことはないはずだ。しかし、ユランの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。


「皆にももう配ったから、タクトで最後だよ」


「…………」


……まぁ、そうだろうな。そんなことだろうとは思っていたさ!
タクトが半ばやけになって渡されたもの――小さな包みを開けると確かにチョコレートが入っていた。


「……これは何だ?」


「いや、だからバレンタインのチョコ」


「それはさっき聞いた。俺が聞きたいのはそのチョコレートのことだ。ものすごく見覚えのある形をしているんだが」


そう、今タクト達のいるセントシュタインの周辺でも見かけられる。というか、全国各地に分布している、お馴染みモンスター。


「あぁ、それね、スライム」


やはりスライムか、スライムなのか。否定して欲しかったのに、ユランは何でもないような顔でさらっと答えてくれた。


「スライム型のチョコ作るとか……物好きもいたものだな。なかなか思いつくもんじゃないぞ」


「いやぁ、それほどでも……」


「作ったのお前かよ!!」


まぁ、予感はしていたのだけれど。


「まぁまぁ、お一つどうぞ。あ、ちなみに当たりにはホイミスライムチョコ、大当たりは何とキングスライムチョコが入ってます!」


「何でそう、凝った仕様になってるんだよ……」


スライムの形にしているだけでも凝っているのに。というか、ホイミスライム型のチョコとかどうやって作ったのか地味に気になる。さすが旅芸人。ただ、そのスバ抜けた器用さをそんなところに発揮してくれるのが何とも残念である。


「なんか、職人魂的なモノに火がついてね。まぁ、当たりって言っても特に何かあるわけじゃないんだけど。強いて言うなら、運の無駄使いをするくらいかな!」


「いやがらせか?!」


……もう何も言うまい。
そう思っていたのだが、どうもコトはそれだけでは収まらなそうであった。
というのも、現れたキルハとフィリアの言葉にどうにも突っかかりを覚えたからだ。


「あ、ユランさん。先程はありがとうございます。とてもおいしかったですよ!」


「あんなチョコレートを食べたのは生まれて初めてだったよ。まぁ、何が入ってるか聞いた時は耳を疑ったけど」


二人はユランのチョコレートを絶賛していた、が。何だか、キルハが聞き捨てならないことを言っている。


「待て、ユラン。お前、チョコレートに何を入れた?」


「え? だから、さっき言ったじゃん」


ユランが先程口にした言葉と言えば……。背中に冷や汗が流れるのを感じた。


「お前……まさか、」


「あ、でも大丈夫。私ちゃんと味見したから味の保証はするよ」


そういう問題ではない。


「何をどう考えたらスライム入れようなんて思うんだ?!」


「いやいや、まんまスライム入れたわけじゃないよ。ちゃんとスライムが落としていったスライムゼリーを使っただけだから」


「どっちも対して変わらんだろ!!」


ツッコミどころのありまくるチョコレートにタクトが頭を抱えそうになった時、キルハがにこやかにあまり意味のないフォローをしてくれた。


「大丈夫だよタクト。食べても何ともなかったから。……まぁ、聞いた時は軽く卒倒しかけたけど」


「当たり前だ!!」


「珍味とでも思えば、案外いけますよ」


「お前は案外失礼なこと言ってるけどなフィリア!!」


「ちなみに、スライムゼリーはウォルロ村周辺原産の取れたてほやほやを使用してます!」


「そんな情報いらん!!」


頭が痛くなったタクトであった。
チョコレートを作ってくれたこと自体はありがたいことだ。しかし、そのチョコレートの原材料を聞いた時点でタクトは食べる勇気を失っていた。これをどうしろと。
しかし、その後もユラン作スライムチョコレートを絶賛する人が続出。ルイーダもロクサーヌもレナも誉めていた。語尾には「何が入ってるか聞いた時はビックリしたけれど」が付いてたのだが。


「そうだ、これ宿屋で売り出してみても良いんじゃないかしら」


「あぁ、それは良いですねルイーダさん!」


「そこまで?!」


売れないと思う。


「さぁ、タクトも食べてみなさい!」


「やめろ、口に押し込むな!!」





……と、半ば絶叫したところでハッと目が覚めた。


「……なんだ、夢か」


リッカの宿屋で本を読んでいるうちに寝てしまったらしい。そういえば今日はバレンタインデーだったか。道理であんな夢を見たわけだ。
……ということで、先程のスライムチョコ事件はありがちな夢オチだったという。いや、夢で助かった。スライムのチョコ食べさせられるとかなんて悪夢……


「タークトーーっ」


浮かれたユランの声が聞こえたのは、その直後のことだった。

終われ。










疑惑のバレンタインチョコは奇跡の味?!
(正夢になったか、ならなかったかは……タクトのみぞ知る)


―――――
チョコレートはこう、スライムゼリーにチョコがコーティングされているイメージで。味さえ何とかすればおいしい……かもしれない←

一応、天恵ともどもフリーですよ!


prev / next
[ 29 ]


[ back ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -