解放された騎士1/2
「く、くちおしや……。また、レオコーンと私だけの世界がよみがえるはず……だったのに……」
イシュダルは消えた。紫色の霧、無念と怨恨の言葉を残して。
そして黒騎士は自分が生きた世とは違う、隔絶されたこの世界に取り残された。
「時の流れと共に王国は滅び、私の帰りを待っていたはずのメリア姫ももういない……」
遥か昔、レオコーンはイシュダルの呪いの前に倒れた。
そしてメリアという姫は……セントシュタインに嫁いだ、ルディアノ最後の王女。
メリアが城を去った後、ルディアノは滅びた。原因は不明。現在、廃墟の周りに毒の沼が広がっているところを見ると、土地的な問題であったことが推測される。
以上が、タクトが今まで必死に調べて分かったルディアノ滅亡に関する全てである。
「どーしようタクト! このままじゃレオコーンがそこら辺を徘徊した挙げ句に結局はセントシュタインの王様に討伐されて打ち首になって、いつかアッチに行ってメリア姫と対面出来た時には新たな特技“首チョンパ”を習得して披露したメリア姫がドン引き……」
「偏った想像をするんじゃない!」
というか、“アッチ”ってなんだ“アッチ”って!
全く、この少女――ユランの想像力の豊かさには脱帽する。
「ルディアノの手掛かりがもう少しでもあれば良かったんだが……」
そしたら、解決の糸口を見出だせたかもしれない。
この状況を甘んじて受け入れなければならないのだろうか?
「こんなのレオコーンがかわいそ過ぎるでしょ! 何でレオコーンがそんな目に合わないといけないの?!」
「ユラン……」
「姫に披露する特技が“首チョンパ”しかないとか悲しすぎる……!!」
「そっちか!!」
イマイチ緊張感に欠けるユランに、タクトは頭を抱えたくなった。どう育てたら、こんな性格のヤツが出来るのだろうか。全く親の顔を見てみたい。
ユランには親はいないが、ほとんど親代わりのようであった師匠がくしゃみをするのはその直後のことであった。
「……私は帰ってくるのが遅すぎた……」
黒騎士レオコーンの慟哭は続く。
「黒騎士……」
何も出来ることがないことが、腹立たしい。
「遅くなど、ありません……」
場違いみたいに可憐な声が聞こえてきたのは、その時のこと。
薄暗い空間の中、入口に佇む純白のドレスを着たルディアノの姫を見つける。
「その首飾りは……!」
胸元に光る、大きな紅玉のネックレス。
それは、代々ルディアノ王家に伝わる秘宝だ。
「メリア姫……?! そんな……あなたはもう……」
「約束したではありませんか。ずっとずっと、あなたのことを待っている、と。さぁ黒バラの騎士よ、私の手を取り踊って下さいますね? かつて果たせなかった婚礼の踊りを……」
差し出された手を信じられないように見つめるレオコーン。
タクトもまた、信じられないように突如現れた姫を凝視していた。
(そんなこと、あるのか? 大昔に滅びた国の姫が目の前にいるなんて……)
対してユランはそこまで驚いていないようで、冷静に事の成り行きを見守るばかり。
このように、変なところは冷静沈着なので、タクトはますますユランのことが分からなくなる。
「メリア姫……この私を許して下さるのですか……?」
ようやく口を開いたレオコーンに、メリアは笑うだけだった。
そして、かつての婚礼の踊りを踊り始めたのだ――。