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奇遇な話

「さぁ、ショートケーキの出来上がりっすよー!!」
ある日の午後。リッカの宿屋の厨房から甘いケーキの香りが漂ってきた。
リッカの宿屋といっても、ここはリディアの知るリッカがいる宿屋ではない。

「あたしがどれだけ待ってたと思ってんだ、早く早く。さっさと切って食べさせろよ」
アリスに言われるがままに、ログはデコレーションが終わったばかりのショートケーキを人数分に切っていった。
女神の果実を求めて旅をするリディアら四人にアリスも加え、さらに今回は四人のホスト達もいるのだ。

ここの宿屋はリディアの知るセントシュタインのリッカの宿屋ではない。
もっと言えば、ここはリディアの住む世界ではないのだ。


「やっふー!!ケーキ、ケーキ!!」
ログが人数分に切ってくれたケーキをリディアとアリスはテーブル席へと運んでいく。いったいどう切れば九等分にケーキが切れるのかリディアには不明ではあるが、手先の器用なログだから、このくらいどうってことないのだろう。

「あ、私も運ぶの手伝うよ」
リディアとアリスが早く食べたい一心で九人分の皿を運んでいると、小柄で可愛らしい少女が声をかけてきた。

「ん、じゃあまだ運びきれてないのあるからさっさと運んじまえ」
「わ、わかった!」
少女ーーーリタは小走りで残りの皿を取りに行く。


「紅茶の準備はできましてよ」
テーブルへケーキを運ぶとカレンがみんなの分の紅茶をカップに注いでくれていた。
程よく甘い紅茶の香りが鼻を刺激し、早くケーキが食べたくなる。

「あー!あたし林檎は好きだけどアップルティーは飲まないんだよ」
アリス曰く、林檎は食べてなんぼのものらしい。アリスは周りを見渡してアップルティーでない紅茶を持ってる人間を探し始める。あいにくリディアの席に置かれた紅茶もアップルティーだったので交換してあげることが出来ない。

「ありがとう」
アリスは向かい側の席に座るアルティナからミルクティーを強奪し、アップルティーと交換した。
アルティナは一言も交換するとは言っていないが、アリスは御構い無しだった。

「おい」
「なんだ、あいにくだけど、今はお礼できるもん持ってないから。お前の気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「いやいやありがたく受け取っておくよじゃないでしょこの人何もアリスにありがたいことしようと思ってないからね」
リディアがアリスにすかさずツッコミとも言えない何かを言う。

「ごめんね、まぁアリスはこういう子だから」
「はぁ……」
ここまでくるとむしろ清々しいくらいのアリスの行動に呆れるアルティナ。
そんなアルティナに声をかけたのは彼の隣の席に座るリタだった。

「ミルクティーがいいなら私のと交換する?」
リディアの頭の中でなんとも言えないセンサーがビビビッと反応した。
おや、もしやこの二人は。

「いや、別に。紅茶なんてどれも変わらないだろ」
「なっ、あなた、紅茶がどれも変わらないだなんて、風流のない男ですこと」
「俺に風流なんてあると思うか」
「いいえ、全く思いませんわ!」
アルティナとカレンの会話にリディアはつい、「思ってないんかーい」とツッコミを入れてしまった。こうしてリディアが何かとツッコミを入れるようになったのも、ひとえに無駄にボケるインテのせいである。

そんなリディアのツッコミスキル上昇に三役くらいかっているインテは何やらあまり機嫌が良くないようであった。

「えー?!じゃあルルーさんも首席で卒業なさったんですか?!」
「やだ、あまり大袈裟に言わないでくださいな。私そんなたいしたものじゃないんです。レッセ君のほうが凄いじゃないですか」
「そんな、僕だってたいしたことないです。だってルルーさんは色んな種類の魔法が使えるんでしょ?」
インテの隣に座るルルーがさらにその隣に座るレッセ少年と所謂地元話に花を咲かせていた。それも現在進行形で。
だから、それがインテには面白くないのだろう。

レッセ少年は相当な人見知りで中々リディアらに顔を見せようとしなかったが、レッセほどではないにしろ、ルルーも似たようなものだから親近感を持ってレッセの気持ちに共感するところがあったのだろう、ルルーがレッセに話を持ちかけてから、特にルルーが同じエルシオン学院を卒業した者だと知ると、レッセも物影に隠れることをやめ、皆の輪に入ってくれたのだ。
他の人に対しては相変わらず人見知りを発揮するレッセであったが、ルルーとは相性が良かったのか、それなりに打ち解けられているように思えたし、そのことが余計にインテにとってはつまらないことなのだろう。

「よし、まぁ無駄話もなんだ、ケーキ食うか」
皆それぞれ一思いに会話を繰り広げていたおかげでいつケーキを食べるのかタイミングが掴めずにいたが、とにかく早くケーキを食べたいアリスが一声かける。

「それもそうですわね。できたてほやほやのケーキですから、出来立てのうちに食べましょう」
ケーキの前で合掌し、リディアはさっそくケーキを口に含んだ。

「うわぁ、美味しい!!」
スポンジはフワフワで生クリームも程よい甘さで美味しい。流石ログである。
「材料まだあるから、気に入ってくれたならまた作るからよ!!遠慮なく言ってくれ!!」
ログも喜んでもらえて嬉しいようだった。

「あの、ログ……さん、」
「お、なんだレッセ少年!!」
「いえ、その……」
やはりまだ緊張が取れていないのだろう。レッセの顔が赤い。

「レッセ君、頑張って!!」
ルルーが小声でレッセを応援するのが聞こえた。
「ケーキ、とっても……美味しいです。ありがとうございます」
「いいっていいって!俺も気に入ってくれて嬉しいぜ!!」
ログが満面の笑みを浮かべる。

「本当にケーキ美味しいです。私、苺好きなんですよ。だからショートケーキ、すっごく好きです」
「あ、ルルーちゃん苺好きなんだ!私苺食べたの初めてだけど、とっても美味しいね」
ルルーとリタの言葉にインテとアルティナが反応する。彼らはまだ苺に手を付けていなかった。
リディアはケーキに乗っているものは一番最初に食べる派を貫いているため、リディアの皿に乗ったケーキの苺はいただきますの合図と共になくなってしまったのだが。

「ルルー、フォーク貸してくれないか」
「フォークですか?」
ルルーはいまいち状況を理解出来ていないものの、素直にインテへフォークを手渡した。
インテはルルーから借りたフォークでまだ手を付けていなかった苺を刺し、ルルーの皿へと移した。

「苺は嫌いではないが、苺も苺が好きな人に食べてもらったほうが嬉しいだろう。だからルルーが食べてくれ」
「え、本当にいいんです?!ありがとうございます」
リディアはインテとルルーのケーキ並みに甘い光景に思わず口をポカンと開けたまま静止してしまった。
見ればカレンもリディアと同じリアクションを取っている。心なしかカレンの体が震えている気がする。

「ん、」
今度はアルティナが自分のフォークを使って苺をリタの皿に移した。
「ツンってしてるねー」
インテのように何か言うわけでもなく、「ん」の一文字だけですましている。なんてぶっきらぼうな。

「苺、気に入ったんだろ?嬉しそうに食べる顔見るのは飽きないならな」
「デレっとしてるねー」
思わず心の声が漏れてしまうリディアである。
「あ、ありがとう……」
というかこの二人、今の苺のやり取りは関節キスにもなりかねないけれど、気にしないのだろうか。否、気にしない仲なのだろうか。

アルティナとリタの関係が気になる。気になりすぎて脳からあれやこれやとホルモンが分泌されている気がする。
ホルモンだか何だかの影響か体が震えていることにリディアは自分では気がつかなかった。

「あたし的にはやっぱり苺より林檎だな。おい、林檎でショートケーキ作ってくれよ」
「林檎と生クリームって、何だか食べ合わせの悪そうな組み合わせね……」
ショートケーキは苺だからこそ美味しいのではないだろうか。林檎ならアップルパイにでもしたほうが美味しい気がするのだが、アリスはそうは思わなかったようだ。

「ものは試しだろ、ってことで、あたしはまだ食べ足りないから林檎のショートケーキ作ってくれよ」
「ケーキの材料はあるんだけどなぁ、肝心の林檎がないっすね」
「買ってくりゃいいだろ」
この言い方からすると、アリスは食べたいけれど自分で買いに行くのは嫌なのだろう。

「あ、私そろそろ新しいお洋服買おうかなって思ってたし、ついでに林檎もその辺の市場で買ってくるよ?」
「さすがリディア!!分かってるなー」
「あら、服屋さんに行くのでしたら、わたくしもご一緒してよろしいかしら?」
カレンも服が欲しいのだろうか。服は一人で買いに行くのもいいが、誰かと一緒に行くのも楽しい。それにカレンはお嬢様だったらしく、オシャレに気を使う女性だろう、そういった女性と共に買い物するのはよりよい女の子になるためにはよいことだとリディアは思っていた。

それに、リディアはカレン辺りに聞きたいことがあるのだ。
それはひょっとすると、向こうも同じかもしれないとリディアは思った。









「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
若い女性向けの服を売るアパレル店へ入り、店内を回る。
「あら、奇遇。私もカレンさんに聞きたいことがあったんだ」
この服はデザインがいいし、あっちの服は動きやすそうだ。
「それは奇遇ですわ。もっとも、わたくしの聞きたいことはリディアさん自身のことではなく、リディアさんのお仲間のことですけど」
デザインだけで服を決められたらよいのだが、魔物との戦いに身を委ねる日々だから、動きにくい服なんて着ていられない。
「あらー!!もっと奇遇だね!!私もカレンにあなたのお仲間さんのことで聞きたいことがあるの!!」
服を手にし、鏡の前でポーズを取りながら、リディアとカレンは互いに気になっていたことを尋ねることにした。

「アルティナ君とリタちゃんって付き合ってるの??」
「インテさんとルルーさんはお付き合いなさっているのでしょうか??」
リディアとカレンは互いに顔を見合わせて数秒間静止し、そして笑い声を上げた。
何だろう、考えてることがビックリするくらい同じで感動すら覚えた。

「あら、このパターンですとわたくしのしつもんに対するリディアさんのお返事も、何となく予想できちゃいますわね」
「えへへ、奇遇だね。私もなんかここまでくると、カレンさんがどんな解答をしてくれるのか、予想できちゃうな」
「せーの、で言いましょうか?」
「そうだね。せーの」

「「いいえ、あの二人は付き合ってません」」
一言一句違わない答えに、リディアとカレンは再び笑いあうのであった。



リディアは天使である。天使は決められた服を着ることを定められているが、守護天使をしているイザヤールの元で修行に励んだリディアは人間の多種多様な服に憧れていた。
そんなリディアだから、服屋へ行くのは楽しいと思うし色んな服を着てみたいとも思っている。
カレンもまた服を見るのが好きらしく、二人であれやこれやと服を見ていたらそれだけで相当な時間が経過していた。勿論、服だけのせいではない。

「リディアさんはこの後お時間ありますでしょうか?」
「うーん、これといって予定ないし、大丈夫だよ」
「でしたら、店を歩き回って喉も乾きましたし、カフェで何か飲んで帰りませんこと?」

リディアはカレンの提案に二つ返事で承諾した。

「いいね!それに私、カレンさんとは二人でお話したいって思ってたから」
「奇遇ですわね。わたくしもリディアさんにはじっくりお話を伺いたいと思っておりましたの」
二人は戦利品の入った袋を抱え、手頃なカフェを探した。

セントシュタインは若者向けの店が多い土地であるから、カフェも多く、探せばすぐに店は見つかった。

カフェに入り、リディアはさっそくアップルジュースを注文する。

「わたくし、インテさんがレッセのことを……何ていうかちょっと羨ましげというか睨むような目で見ておりましたから、てっきり恋人をレッセにとられて嫉妬なさっているのかと思いましたわ」
「私はアリスから紅茶取られたアル君にリタちゃんが交換しようかって声をかけた時にもしやって思ったんだけどなぁ……。違うんだね」
「そうなのです!!あの二人はどこからどう見たって付き合っているようにしか見えないのですわ!!けれど、アルティナはともかくリタのほうはビックリするくらい鈍感でして」
「あー!!!うちも!!!うちのとこもそうなの!!!」
カレンの話に共感できすぎて色々興奮してしまい、リディアはテーブルをバンバン叩いた。

「うちのところもね、インテはルルーのこと好きだって自覚してるけど、ルルーはインテのことをいい人くらいにしか思ってないから、いつまでたっても進展しないのよね……。全く見守るこっちの身にもなって欲しいよ」
「全くその通りですわ!!この上なく焦れったい二人を見届けるわたくしの立場になってもらいたいと常々思っていましたわ!!」
これだけ共感してもらえるとテンションが上がってどんどんベラベラと口が動いてマシンガントークしそうな勢いになる。

「グビアナを旅した時、ルルーが砂漠で倒れちゃって、ルルーを背負ったのはインテだったし、グビアナに着いてからもインテは果実そっちのけでルルーの看病してたのに!これといった進展があるのかないのか分からない!私はとってももどかしい!」
「わたくしたちがエルシオン学院を旅した時は暗闇の中でちゃっかりアルティナとリタが手を繋いでいましたけど、その上学院の生徒達に二人が付き合っているという噂も流れていましたけど、それでもめぼしい進展もなくわたくしは歯がゆい思いをしております」
「うわー!!それはもうなんで付き合ってないのか逆に気になるレベル!!」
リディアはやや興奮気味に声をあげた。
あんなもどかしい距離の男女なんてインテとルルーくらいなものだろうと思っていたが、他にもいるようだ。

「うちのとこはまだ手とか繋いでないんだよねー」
「そう言えば苺をあげる云々の時に随分と謙虚な言い方をインテさんはなさってましたよね?」
「そうそう、インテってばルルー相手だとああなの。チキンハート丸出しなの」
「アルティナに負けず顔もよろしいのですから、自信を持っていいとわたくしは思うのですが……」
「ああ、それはね、一応理由があるんだよね」
リディアはその一応の理由を語る。
「今日は一緒に来てないんだけど、私たちは今、ルルーのお父さんとも一緒に旅してるから」
「あら、そうなのですか。流石にお父さまの前では娘さんにスキンシップなんてとれたものじゃありませんわね……」
カレンは何か難しい顔をして言った。
カレンと父親の間に何かあったのだろうか。
「まぁ、でもルルーのお父さんって意外とシスコンでさ」
「シ、シスコンですか……」
シスコンとも縁があるのだろうか、心なしかカレンの表情が曇っている。

「わたくしのところは何といいましょうか、やはりリタが鈍感すぎることが二人の恋の障害でしょうか」
「先は長そうだね……」
「お互い気苦労が絶えませんわね……」
「それでも見守りたいって思えちゃうから、全くにくいんだよなー」
「その通りですわ」
この先、あのもどかしい二人がいい関係になるまでかなり長い道のりであろう。それでも、どれだけ長くても、リディアは二人を応援したいと思っている。それはカレンも同じだろう。

「飲み物なくなったし、そろそろ出ようか。アリスに林檎買ってこいって言われてるし」
「そうですわね。リディアさんとお話できて楽しかったですわ」
「奇遇だね、私もとっても楽しかったよ」

次にカレンと語り合う時には、お互いにいい進行状況を報告できればいいとリディアは思いながら、カフェを後にするのであった。


―――――
乳酸菌飲料真巳衣様より頂きました! すみませんが、ナノさんの小説の機能における都合上、2ページのものを1ページにまとめさせていただきましたm(__)m
この度、企画に参加をさせていただきまして、カレン嬢とリディアちゃんが意気投合する話をお願いしましたところ、こんなにも素敵なお話を書いていただけました!
カレン嬢だけでなく天恵パーティ全員を書いていただけるなんて……! しかも、真巳衣さん宅の子達とのそれぞれの絡みがとっても賑やかで、読んでいる自分まで楽しい気持ちになっちゃいます(*´∀`) 女子二人のガールズトークも思う存分楽しませていただきましたとも! 仲間の恋を応援し隊がここに発足しましたね(笑) そこに私も混ぜてはくれませんか……!!←
素敵なお話をありがとうございました(*^-^*) そして44444hitおめでとうございます!

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