用心棒、キッカケを知る
何だかんだ言って、アルティナが用心棒を引き受けてから数ヶ月が経った。その数ヶ月の間にもいろいろあったわけだが、それにしてもあっという間だった気がする。
ほぼ無理矢理に生徒会に入れられ、ついでにややこしい陰謀にまで巻き込まれ、しかもそれは現在進行形で続いていたりするが、その解決を必死に模索しドタバタと動き回りの騒がしすぎる日常は定着しつつある。
つい先程も、生徒会に殴り込んできた登山部を追い払ってきたところだった。「バナナはおやつに入るか」なんか知らん。遠足気分か。ビタリ山にでもダダマルダ山にでも好きなところへ行けば良い。おやつのラインナップで揉めて他所にまで迷惑かけるな、と思う。
若干イライラしながら生徒会室に戻ると、真ん中の机に座る少女が首を傾げる。この少女こそ学校の生徒会長、名前はリタ。
「外が騒がしかったけど、何かあったの?」
「気にするな。それより校則にバナナはおやつと見なさないって付け加えろ」
それで丸く……とはいかないかもしれないが、とりあえず廊下の騒ぎは収まる。
「……あぁ、登山部だったんだ」
リタはどこか遠くを見るような目付きになった。
以前にも同じようなことがあったのだろうか。聞いてみると、リタは今度は明後日の方向を見始めた。
「あー、えーっと……あまりにもしつこいから、『デザートじゃダメなんですか?!』って……」
「…………」
どうやら某仕分けの如く突っぱねたらしかった。その言い方はハッキリ言って逆効果だと思う。
「だって〜、バナナをおやつにしちゃうと他の果物もおやつになっちゃうでしょ? イチゴとか……はっ、待って! イチゴってそもそも果物?! 果物って木になる実のことだよね? てことはイチゴは野菜ってことに……! あ、スイカも……」
「とりあえずそこまでにして仕事やれ」
どうでも良いが永遠に解けないであろうテーマにぶつかったところで、強制的に生徒会長としての仕事を促す。「はぁい」とアッサリ仕事に戻った辺り、素直というか、聞き分けが良いというか……。
「それにしても、アルも生徒会にすっかり馴染んだよねー。入ってから結構経ったもんね」
「……さてはお前、仕事する気ないな?」
仕事を再開して1分も経たないうちに、再び喋りだしたリタだった。どうやら集中力が完全に切れたらしい。
「これ、かれこれ数時間はやってたんだよ? そろそろ疲れたんだよー」
リタはそう言って軽く伸びをした。確かに座りっぱなしでの長時間の書類仕事は窮屈で疲れるだろうから、アルティナはそれ以上何も言わなかった。
「えへへー、いつもありがとね、アル」
「何だいきなり」
「用心棒引き受けてくれたから。やっぱり、アルにぴったりだと思ってたんだよね。用心棒ならこの人がいいなって真っ先に思いついたんだよー」
生徒会への妨害行為(と言っても、先程のようにどうでも良い議論をぶつけてくる部や委員会が大半であったが)を問答無用で叩き伏せることが用心棒としての仕事である。それに関してはつつがなくこなされているところだが、リタが用心棒に求めることは他にもある。例えば、冒頭でも触れた例のややこしい陰謀関連など。
そのこともあって、転入して早々是非とも生徒会の用心棒として雇われてくれ、と頼まれた。そう、いきなり転校初日から生徒会室に呼び出されたのだが……。
何かが小さく引っかかった。用心棒を雇いたかったのは分かる。陰謀のことも聞いた。
そして、つい先程のリタの言葉は……
「……前から知ってるような口ぶりだな」
まるで転入してくる以前からアルティナを知っているように話すリタだったが、果たしてそれは間違ってなかったようで。
「え、だって私、昔アルを見たことあるから。というか、怖いお兄さん方から助けてもらったんだよね」
「昔?」
「確か、中等部に入りたての頃だったかな。……うーん、覚えてないか」
アルティナの顔から身に覚えがなさそうだと察したらしい。まぁ仕方ないよね、と苦笑した。
リタが中等部の頃と言ったら、その”怖いお兄さん方“とは顔を合わせることが多かったので、さすがに一つ一つ細かくは覚えていなかった。
人を助けた覚えはなくもない。少女を助けたような記憶がおぼろげとあったりはする。だが、あの時助けた少女はある意味見たら忘れられない出で立ちをしていた。リタではない、はず。
「私、その時牛乳のビン底みたいな眼鏡で髪もおさげにしてたんだけどね、」
「あの時のヤツやっぱりお前かっ!!」
時代錯誤したような格好をしたヤツがいたものだと思ったものだ。眼鏡におさげ、しかも中等部制服のセーラー服を着ようものなら、古き良き三点セットで昭和の女子学生スタイルの完成である。一昔前は良かっただろうが、現代では普通にイモい。
何の因果か、こうしてまた会長と転入生として出会うことになるとは。意外と世間は狭かった。
「なんかね、お兄さん方も昭和のかおりを嗅ぎ付けたらしくて」
「嗅ぎ付けたっつーか目をつけられたんだろ」
理由は単純。目立つから。
「危うくお金巻き上げられそうになったところをアルに助けてもらったんだよね」
「…………」
完全に思い出した。確か、路地裏のような場所で不良に女子学生が金をせびられてるところに出くわして、道が塞がれていたのとさすがに学生が可哀想になって仕方なく不良を軽く追い払ったのだった。
「つーか、何であんな格好だったんだ……」
「あれが当時の基本スタイルだったから」
「あれが普段着……?」
よく堂々と街を歩けたなと呆れを通り越して感心しそうになる。
「それまで私の人生はビン底でした」
「ドン底みたいに言うな」
ある意味ドン底ではあっただろうが。主に容姿的に。
「でも、そのおかげでアルに会えたんだし、結果的には良かったんじゃないかな!」
からりと笑うリタは、昭和の女子学生スタイルという格好で街を歩いていたことに、少しの躊躇いもなかったらしい。
「……お前って本当に前向きだな」
「えへへ、それほどでも」
あまり褒めたつもりはない。
この学園の生徒会長は、変な方向に大物だった。
「それでね、アルが転入してきた時、この顔にピンときたから呼び出しかけたというわけです!」
「110番みたいに言うな」
指名手配お馴染みのフレーズのようなことを言った後、最早お馴染みになりつつあるアルティナの鋭いツッコミが飛んだ。ちなみに、ツッコミが用心棒の仕事に含まれているわけではない。
「つーか、今は昭和スタイル止めたんだな」
現在は起死回生のイメチェンを遂げた……というか、それまで呪われたイメチェンを装備していたようなものだったが。
「うん、だってアルが…………あー、やっぱり何でもないや」
「俺が何だよ」
「内緒ー」
途中で話を止められると逆に気になる。だが、リタは話す気はないらしい。
真相は、会長のみが知る。
―――――
思いっきり前回から話をすっ飛ばしました。すみません、好き勝手書いてます←
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