天恵物語
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第三章 16-2

「リタ……ホントにセントシュタイン寄らなくていいワケ?」


リタの周りをふわふわと飛ぶサンディは、ばつの悪そうな顔をした。


「確かに……アタシ、ダッシュで戻ろうとは言ったケドさ。でも、別にリッカの宿屋に行くくらいで文句言うほどアタシも心狭くないってゆーか……」


「ううん、これでいいの」


リタは首を振って、セントシュタインを通り過ぎ、森へと向かった。
目指しているのは、森の中にある天の箱舟だ。


「またお別れなんてして、前みたいに宿屋に戻りたくはないし……」


それに、寂しいから。
お別れなど何回もやりたいものではないから。


「それで、ウチらのお見送りは無愛想戦士だけってコト?」


「悪いか」


アルティナを指差すサンディはものすごく不満そうだった。


「だってサー……いや、やっぱし何でもない」


「あれ……ねぇ、誰かこっちに来てない?」


リタの指差す方向には、藍色のフードを被った女の人がいた。こちらへ足を進めながらもキョロキョロと辺りを見回しているあたり、道に迷ったのか誰かを捜しているのか……。


「ううっ、何この暗そーな女。ちょ、ちょっとリタ、見た感じユーレイみたいだし相手してやれば?」


「えぇっ?!」


まごつくリタをぐいぐいと女の人に押しやるサンディ。傍観を決め込むアルティナ。しかし女の人は、そんな三人には目もくれずにため息をついた。


「……いない」


「はぁっ?」


「……あの人はここにもいない」


首を振って去る女の人を呆然と見送った。女の人が見えなくなると、段々腹の立ってきたサンディが悪態をつく。


「ちょっとー、何あれ!? シカトかましてくれちゃって、むっかつくー!!」


「……不思議な人だったね」


どうやら人を捜していたらしい。一体、誰を捜しているのだろうか。


「ふん……まぁいいや。今はそんなことより、さっさと天の箱舟に乗り込もっ!」


箱舟の近くにたどり着いた三人は、まず箱舟の存在を確認した。
アルティナに向けて、サンディが得意そうに箱舟を紹介する。


「どう、これが箱舟ヨ! ……って、アンタは元々アタシや幽霊見えるんだし別に珍しくも何ともないか」


「……確かに、何回か見たことあるな」


「あ、あるんだ……」


「やっぱりネ〜」とつまらなそうに言うと、サンディはリタを箱舟内部へと引きずり込んだ。


「ほーれ、さっさと乗る! あんたが乗ってくれなきゃ始まらないんだから」


「わゎっ……分かってるよ〜」


リタが箱舟に乗り込んだ瞬間、箱舟がガタンと揺れた。
そして、列車の内が明るく点灯する。


「おおっ。箱舟ちゃんのこの反応! ……リタが天使だって、よーやく認めたカンジ? ……行ける。今度こそ行けるわ! あとはあの操作パネルをチョチョイといじってやれば、天の箱舟は飛び上がるはずだヨ!」


サンディが運転席へ急ぐのと同時に、リタは箱舟の窓を開けた。ちょうど、アルティナのいる方向に目星をつけて。
ガタン、と音をたてて開いた窓から身を乗り出し、アルティナに声をかけた。


「箱舟、動いたよ!」


「……そうか」


その時、リタの後ろから威勢の良い声が聞こえてきた。


「よ、よーし! じゃあ行っちゃうからね!! それじゃ、いっくよー。す、す、す、スイッチ・オンヌッ!!」


なにそれっ?!
つっこむ前に箱舟が浮いた。


「ええーっと……確かここをこんな感じでいじってたっけ……? おおっ!? やるじゃんアタシ! ……っと、あ、いや。こ、このくらい運転士なら当たり前だっつーの!」


なぜかサンディは一人ツッコミをしていた。
箱舟は、順調に出発の準備が整いつつあった。


「アル、今までありがとね!」


窓の桟に体を預け笑顔で言うのと、サンディが何かのボタンを押すのが同時だった。


「それじゃ、天使界目指して出発しんこーーーーっ!!」


箱舟は一路、天使界へと動き出す。


「リターーっ、そろそろ窓しめてヨ!」


リタは窓を閉めようと、窓の縁に手を伸ばした。


「はーい! アル、じゃあね!!」


「じゃあな……しっかりやれよ、リタ」


「……へ」


呆気に取られるリタに、してやったりというようなアルティナの笑顔。

アルティナが今までリタ名前で呼ぶことは一度もなかった。つまり、初めてのことで。
なんだか不思議な感覚に襲われる。
今までに感じたことのない妙な感覚に、内心首を傾げた。


(あ、れ……?)


その間にも箱舟は上昇し、天へと向かう。


「ちょっとリターーっ!! 窓ちゃんと閉めなさいって! 危ないでしょーがっ!!」


「え、うわわっ……」


慌てて窓を閉めきった。
窓にピッタリくっついて離れないでいるリタに、サンディは訝しみ、声をかけた。


「ちょっと、あんた大丈夫?」


びくりとリタの肩が揺れる。


「だっ……大丈夫! べ別にっ、何でもないからっ!!」


そう言ってパタパタと二車両目へ駆けて行ってしまったリタを見て、サンディは呟く。


「あのコ……ホントに大丈夫なワケ?」


首を傾げ、「ま、いっか」と箱舟の運転を再開した。
天使界まで、あともうすぐ。




リタの地上での大冒険は、こうしてひとまず区切りを入れたのだった。















(物語は、まだまだ続く)
16(終)
第三章完結




―――――
とりあえずリタさん、天使界へ帰れました。良かったです。
天恵物語はまだまだ続きますが、ひとまず一区切り入れます。
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします!


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