天恵物語
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第八章 05-1

「……そういやさ、アンタ達も聞いたわよネ?」


何を?とリタが聞くと、サンディは少し声を潜めるように三人に寄った。別にそんなことしなくても、サンディの声は三人を除けば誰にも聞こえないのに。


「何って、ここの女王サマのことに決まってんデショ!」


いつ決まったのだろう。しかし、サンディが自分本意で喋るのはいつものことなので、いちいちつっこんでもいられない。


「えぇと、ユリシス様だっけ?」


この国・グビアナの女王。バザールを回っていれば、嫌でも評判が聞こえてきた。……主に、悪い方向に。


「あぁ……最近代変わりしたワガママな女王様のことですわね」


カレンがふっと思い出したように呟く。
噂によると、贅沢三昧の水使い放題で国民から反感恨みつらみその他を買いまくっているということらしいユリシス女王。国民も商人も皆同じようなことを噂していた。あの女王がいる限り、この国はもうダメだと。


「先代の偉業もその女王様のせいで台無しですわ。何を考えていらっしゃるのかしら、この国の人々が怒るのも無理ありませんことよ」


偉業と言うのは、治水工事のことであり、それによってグビアナはますます豊かになったらしい。しかし、その後女王が君臨すると、沐浴場なるものが作られ、女王が水をふんだんに使いまくるせいで、国に水が回らなくなっているのだとか。お金の方も、女王が贅沢ばかりするせいで同じようなことになってしまっていると聞いた。


「……明日、その女王様のお城に行くんだよね」


少し怖い気がする。いや、必ずしも王女に会うことになるとは思わないけれど。もし女王が商人から果実を買っていたら、交渉をしないといけなくなる。……その場合、果たして果実を譲ってもらえるのだろうか。


「女神の果実、無事に見つかれば良いのですけれど」


女王のことも心配だが、カレンの父が情報を手に入れてから随分経つのも気がかりである。果実は未だ商人の手元にあるのだろうか。すでに売ってしまっていたら……あれは人間の手に負えるものではないのだ。出来る限り早く回収しなければ。
そうこう話しているうちに、宿屋に到着した。周りと似たような白っぽい土壁の窓が小さな建物。この造りが砂漠では一番快適なのだろう。


「……そういえばアル、どこの部屋って言ってたっけ?」


すでに部屋は取ってあった。なので宿に入ればさっさと休めるのだが。隣にいるはずのアルティナから返事がかえってこない。


「…………アル、どうかしたの?」


すると、アルティナがぽつりと一言。


「…………寒い」


「は?!」


アルティナが洩らした単語に三人が異口同音で反応した。当たり前だ、砂漠とはほぼ無縁と思われる言葉を口にしたのだから。


「頭おかしくなった?! ここはクソ暑い砂漠なんですケド?!」


「とうとうイカれたんじゃありませんのアルティナ!!」


あまりにもあんまりな言葉を吐くサンディとカレンだったが、アルティナは「うるさい」と言うだけで後は何も言わなかった。言い返してる余裕もないらしい。額に手を当ててみると、不自然に熱かった。顔色も悪い。


「熱い……もしかして、ずっと我慢してたの?」


「えっ、マジで?」


「ちょっと、熱があるならもっと早く言ってくださる?!」


さすがに慌てたらしいサンディとカレン。


「と、とにかく部屋で安静にしてなきゃ! えぇとお薬……っ、とりあえず薬草でも良いかな?!」


「お医者様はどこにいらっしゃるかしら?! バザールしか回っていませんのに分かりませんわどうしましょう……って、そういえば私僧侶でしたわーーっ!!」


慌てふためくリタとカレンを眺めていたサンディが半ば呆れ一言。


「あのサ……とりあえず二人とも落ち着いたら?」


ごもっともな意見に二人顔を見合わせて黙り込む。混乱しすぎて肝心のアルティナをほったらかしていた。


「そうですわね……。失礼、お見苦しいところを見せましたわ」


「ご、ごめん……とりあえず部屋行こうか。アル、もう少しだけ歩ける?」


あれこれ考えるよりも、病人を安静に寝かせることが先だった。


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