第六章 04
桜の木の下の洞窟を覗く。
見た覚えのある光景。それらは全て色を失っているけれど。
それでも今にも動き出しそうに見えるのは、彫刻家の技量だろうか。
「リター」
「サンディ、どうかした?」
今は仲間逹と別行動でエラフィタ村(のような石彫刻)を散策しているところだ。無人の洞窟を眺めていると、辺りをふらふらしていたサンディが飛んできた。――心なしか顔が少しニヤニヤしてるように思える。
「何かあったのはアンタでしょ〜。ホラ、隠さずサンディちゃんに全て話してしまいなさい!」
「えぇ?」
「アルティナと何かあったデショ」
「んなっ……」
火が付く勢いで熱くなる顔。というか、どうしてなぜアルティナと何かあったか知っているのか。
「いや、その、それはさぁ……アレよアレ! 女のカンってヤツヨ!!」
「…………」
何だか怪しい。
「そんなことよりっ、いい加減白状なさい! アンタ、カラコタ橋出てからこっち、何かおかしい……って、アルティナもカレンも思ってるわヨ」
「え゛」
皆とっくにリタの挙動不審ぶりを見抜いていたという事実に思わず後ずさる。自分ってどれだけ分かりやすいんだろう、と。そういえば、天使界にいた頃は嘘とかついてもすぐバレていた。動揺がもろに顔に出るのかもしれないが、顔に出ないように努力しても今度は不審な動きをし始めるという悪循環。自分は一生嘘がつけないのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないけれど。
さて、それはそうと、アルティナのことである。リタの頭をちらつくのは、言わずもがなあの夜のことであって。しかしそれを言うのは恥ずかしがる以前に言いにくい話題があったりするわけで。他人の過去をベラベラ喋るほどリタも非常識じゃない。
「アルティナのことは……別に何でもない、けど……」
「けど?」
何だろう、上手く言い表せられない。
自分にとって、アルティナは恩人でもあるし、一緒に旅してくれて助かってるし、だからカラコタ橋でアルティナの過去を知った時は驚いたけれど、でも過去を引きずるアルティナを見れば何も言えなかった。どうにか力になることは出来ないのかと思って、それで……。
難しい顔で考え込んだリタの頭をサンディがポンポンと撫でた。一体何事かと見上げようとした時。
「そーやってムズカシく考えんじゃないの! アンタね、もーちょっとシンプルに考えらんないの?」
「シンプル……?」
「ちゃんと自分に向き合ってみなさいヨ。アルティナはアンタにとってどーいう存在なのか」
アルティナは、旅を共にする仲間だ。
(仲間だったら、仲間の力になりたいって思うよね)
そうだ、仲間というのは互いに助け合うモノだろうし、苦楽を共にするモノ。きっと、あの夜だって。
「そうだよね、仲間だったら抱き合うくらいの一つや二つ!!」
「は?」
「ありがとうサンディ、おかげで解決した!」
「あ、ちょっとリタ……!」
サンディの制止も聞かず、先とは違う清々しさを以てリタは走り出した。もやもやとした霧のようなモノが晴れた、そんな心地がした。
「サンディ、ほら早く!」
先程までは悩んでいた顔が一変、輝かしい笑顔を浮かべている。リタの中で何かが解決したのは分かったが……。
「アレ……アタシ、何かまずいこと言っちゃった?」
何かを間違えてしまった気がしてならない。というか、確実に何かを間違えた。
とは言っても、こんなに分かりやすいことなのに、何を言っても何をしても、恋に結びつけようとしないのか、あの少女は。どれだけ鈍感なんだ。
若干の違和感を覚えつつも、今はこの町の問題の方が先だとサンディはこれ以上追及せずに話を終わらせた。
ふと見上げると、空は雲一つ無い、澄みきった青空。色のない町とは対照的な雰囲気が、何ともちぐはぐな光景だった。
(まだ、気付くことは無い)―――――
そう簡単にはいかない、それが天恵←
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