間奏U 01-2
「……アル?」
名前を呼ばれたことで、ハッと我に返った。気付くと船旅は終わっていたようで、漁船は船着き場に停留している。
「どうしたの? アル、何かあった?」
そう心配そうに話しかけてきたのは、旅を共にすることを決めた少女であり元天使。元天使というと語弊があるかもしれないが、要は翼と光輪を失くしてしまった天使のことである。
なぜ失ってしてしまったかは不明。きっかけは天使界という空高い場所からウォルロ村へ真っ逆さまに落ちてしまったせいらしいが、なぜ落ちたかなどを話し始めるとキリが無いので、ここでは割愛する。
「別に、何でもない」
「……そう? なら良いんだけど……そろそろ出発するから準備してね」
それ以上、少女――リタが何も言うことはなかった。そのまま甲板を後にしたのだが、納得していない様子は明らかに見て取れる。リタの後ろ姿を見送りながら、そんなに思い詰めているように見えるのだろうか、と内心首を傾げた。
(だが、まぁ……確かに来たいと思えるところではないな、ここは)
むしろ、来たくなかった。旅する以上、避けては通れないかもしれないと思ったが、案の定である。
海から吹く風が、自分を煽る。
そしてそのまま通り過ぎ、それは陸に向かって流れて行った。自分達がこれから向かうであろう方向へと、真っすぐに。
「こんなに早く、帰ってくるつもりはなかったんだが……」
ぼそりと呟くと、遠くから自分の名前を呼ぶ声がした。
今度の呼びかけは先程の少女ではなく、別の人物によるものだ。
「アルティナーーっ、そんなところでボケッとしているなら、置いて行きますわよーーっ!!」
喋り方に育ちの良さを窺わせるお嬢様なのに僧侶になった、カレンだ。どうして僧侶になったのか不明だが、天使を信じていなかったというカミングアウトにより、ますます分からなくなった。どうしてこのお嬢様は僧侶になったのだろうか。
「本当に置いて行きますわよ、あと十秒ーーっ」
子供か。
そこでやっと寄り掛かっていた船のへりから離れる気になり、樽の上に置いておいた荷物を持ち、へりに足をかけた。
「あ、あなた、まさか……」
カレンが引き攣ったような声を上げた。そのまさかである。
ひょいと地面を蹴り、足場の狭い船着き場に軽々と着地する。船と船着き場との間にはそれなりの距離があった。常人であれば、それなりの勇気が必要になる距離であったのだが。
「アルってこーいうの、なかなか器用だよね」
「器用・不器用以前に非常識ですわ。あそこに板がかかっているのが見えませんこと?!」
リタが感心するのを他所に、カレンは渡り板を指差し文句を言った。
「……やっぱりお嬢様か、」
元天使とお嬢様では言うことが違う。まぁ当たり前か、と思った。そんなもの、人それぞれであるのだから。
「え? ……何か言いまして?」
「別に、何でも。それよりもう行くんだろ」
話を別の方向に持っていく。それが喧嘩を手っ取り早く避けられる方法であった。何もアルティナだって好きで喧嘩しているわけではない。
ただ……結果的にあの橋へと行くのを早めてしまったと気づき、少し後悔したのだけれど。
(過去に顔を背けてばかりではいられない)01(終)
―――――
ついに来ました! アルティナの過去がついに明かされます!!
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