第五章 13
黒い影が、頭上から迫る。間一髪でそれを避けたリタであったが、巨体なだけあって当たったら最後、再起不能になるのではないかというくらいの破壊力があった。
「うわっ、地面がめり込んでる……」
今のがもろに直撃していたらと思うと……ぞっとする。
しかも、ぬしさまが動く度に地面が揺れ、身動きが取りづらい。が、しかし、それ以上に厄介な障害物がそこにいた。
「お邪魔ですわよ村長っ!!」
とっとと逃げろと再三言っているのだが、完全に腰を抜かしている。ぎこちなく手足を動かすのみで、うまく逃げられないらしかった。
仕方なくぬしさまの攻撃が村長に及ばないように戦っているが、そこら辺のモンスターと戦っているわけでも無し、存外に厳しい戦局となっている。
しかし、勝算が無いわけではないのだ。
ぬしさまの攻撃は当たったらタダで済まないほどの威力を誇るが、動きは緩慢で、スキが多い。
(だからそこを突けば、勝機は見えてくるはず!)
扇を持ちかえながら、その機会を探る。
「二人とも! 気付いてるかもしれないけど、ぬしさまは尾ビレを薙ぎ払った後に一瞬のスキが生まれる。だから……」
「そのスキを狙うんだな」
「了解ですわ!」
リタの言わんとするところを瞬時に理解した二人は、すぐに攻撃の態勢へと移る。
必要以上の言葉は一切いらないのだと、そう感じさせるやり取りの後にぬしさまの尾が大きくしなった。
「……来る!」
そしてリタ達に向かって薙ぎ払われる。
その一瞬の、スキを突く。
「今だ!!」
左右から、アルティナとカレンがぬしさまの懐に入り、その巨体を大きく切り付けた。
そして真っ正面から身体を軸に回転した、リタの扇がうなりを上げる。
「波紋演舞っ!!」
水系のモンスターに大ダメージを与える、扇の技。
激しい水の飛沫が上がり、ぬしさまが苦悶の雄叫びを上げた。
(扇の本領発揮!)13(終)
―――――
ここで扇使いとしてのリタの実力を発揮してもらいました。
にしても村長ってば、ロクなことをしない。
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