「何ここ。」

「僕の職場。」

「神社?お寺?…高校教師って言ってなかった?」


電車に揺られて数時間。
目の前には神社や寺院のような立派な建物と門構え。

結局ああだこうだと言いくるめられ、此処までついて来てしまった。


「東京都立呪術高等専門学校。日本に2校しかない呪術教育機関だよ。まぁ、表向きは宗教系の学校だけど。呪術師の任務の斡旋とかサポートもここでしてる。」


呪いの大本となる力は『呪力』

呪いの力を使って呪いを祓うのが『呪術師』

その呪術師が使うのが『呪術』

呪力を構築式である『術式』に流す事により『呪術』が発動する


さっき電車に乗っていた時に説明された事を思い出す。五条悟は、『呪術師』をしているらしい。



「それで?私を此処に連れてきてどうするつもりなの?」

「ん?ちょっと身体測定。」

「………はい?」



立派な門をくぐった五条悟がスタスタと歩き出す。


身体測定って、あの身体測定?

身長体重視力聴力採血心電図?


「名前ー?早くしないと置いてくよー?ここ結構広いから迷子になっても知らないからねー。」


私が呆けて立ち尽くしている間に、五条悟は無駄に長いコンパスのせいで離れた所まで行ってしまっている。


「…行けば良いんでしょ行けば。」


こんな所まで連れてきたんだ。
少し離れてしまったけど…きっと置いて行ったりはしないだろう。

ため息をついてから、転ばないようにゆっくりと歩き出した。










「家入硝子。ヨロシク。」

「苗字名前です。宜しくお願いします。」


連れてこられたのは医務室。

五条悟に家入硝子さんを紹介された。
とっても美人なのに目の下の隈が酷い彼女は、五条悟の高校時代の同期らしい。


「ったく、可愛い子連れてきたと思えばいきなり身体調べろって。何なんだよ変態かよ。」

「変態じゃないよグッドルッキングガイ五条さんダヨー。
ちょっと気になる事があってね。彼女の血を調べて欲しいんだ。」

「え、本当に身体測定するの?」

「うん。って言っても、採血だけね。大丈夫ちょっとチクッとするだけだから。
あ、怖いなら僕が手握っててあげようか?」


ニマニマとだらしなく笑う五条悟に結構ですと断って、家入さんの方へ腕を差し出す。

家入さんは棚の中からゴムチューブと注射器、デスクに置いてある瓶の中から白い脱脂綿を取り出した。



「あ、待って硝子。その前に少し話がある。」

「ハァ?何だよ此処で言えよ。」

「ん〜…まだ確信じゃないからなぁ。」


チラリと五条悟が私を見た。
どうやら私と、この採血に関係がある話らしい。でも私にはまだ聞かれたく無い、と。…それなら仕方ない。


「私、外出て待ってます。話が終わったら呼んでください。」

「悪いな。」


なんで五条悟じゃなくて家入さんが謝るんだ。謝るべきは五条悟だろう。
今日何度目かわからない苛立ちを抱えながら保健室を出た。



「………それで?話ってなんだ?」

「ああ。まだ確定じゃないから確かめて欲しいんだ。名前の血は…」















「名前ー!入ってきて良いよー!」


五条悟の声が聞こえて来て、私はまた消毒液の匂いのする部屋に足を踏み入れた。

椅子に座ると素早くゴムチューブを巻かれて消毒をされる。今度こそ採血をするらしい。
担架に座る五条悟が、僕が手を握ってあげようか?ともう一度聞いて来たが無視をした。


「手、グーにして握ってて。ちょっと痛むよ。」

「はい。大丈夫です。」


チクリと、腕に針が刺さった。繋がっている管に、赤黒い血が流れて行く。


「今度は手をゆっくり開いてリラックスして。…お前も大変だな。あんなのに捕まって。」

「初対面なのに此処まで拉致られました。」


私がそう言えば、家入さんは吹き出した。


「五条、お前一般人を拉致って来たのか。警察に捕まっちまえ。」

「え!?酷くない!?
ちゃんとエスコートして此処まで連れて来たに決まってるじゃん。」

「拉致られました。」


間髪いれずにもう一度言えば、ぶくくっと肩を震わせて家入さんが笑う。そんなに面白かったのだろうか。

家入さんは笑いを堪えながら、はい終わりと注射器を抜いた。


「あんた面白いね。気に入った。今度飲みに行こうよ。」

「是非!」

「名前って呼んで良い?敬語もいらないから。」

「うん!私も硝子ちゃんって呼んで良い?」

「勿論。」


女の子の友達なら大歓迎だ。
私が腕を抑えながら嬉しそうに答えれば、硝子ちゃんも緩く笑ってくれた。笑った顔も凄く美人だ。



「これ、私の番号とIDだから。」

「ありがとう!今スマホでメッセージ送、」


硝子ちゃんの番号とIDが書かれたメモを受け取る。
それをすぐに登録しようと思い、バッグからスマホを取り出そうとして気が付いた。私のスマホ、さっきの呪霊に壊されちゃったんだ…。


「硝子ちゃんごめん…私、今日スマホ壊れちゃって…。後でも良い?」

「いつでも良いよ。だからそんな絶望した顔すんな。」


ポンポンと私の頭を撫でながら硝子ちゃんは言った。
明日新しいスマホを買ったら、1番最初に硝子ちゃんに連絡しよう。



「硝子だけズルくない?」

「ぅわぁっ!」


突然肩に感じた重み。目線を動かせばすぐ近くに五条悟の顔がある。


「今日1日ずーっと僕と居たのに、なんで僕より硝子が仲良くなってるわけ?ゴジョーさんは納得行きませーん。」


体重をかけられて前後に揺らされる。お…重い!!!


「硝子ちゃん助けて…!!!」

「嫌だ面倒臭い。」


心底面倒な目で硝子ちゃんが私と五条悟を見る。
あ、これ、絶対助けてくれないやつだ。


「僕の名前だってさ、まだ1度も呼んでくれて無いじゃん。もしかして照れてる?」

「そんなわけ無いでしょ。」

「じゃあ呼んでよ。特別にゴーちゃんとか、さとるんって呼んでも良いよ。」

「絶対に嫌。」

「えー。じゃあ一生離してあげない。」


ぐーっと、更に体重を掛けられる。


「重い重い重いっ!!!離してくれないと殴りますよ!?」

「殴れないよ僕最強だから。」

「硝子ちゃん!ちょっとこの人殴って!」

「マジで殴れないから無理。」

「……………………。」

「諦めろ。コイツはそう言う男だ。」


今日は厄日か何かだ。きっとそうだ。
この男にあってから、ロクな事がない。


「ああもうわかった!呼ぶ!呼ぶから退いてよ五条さん!」

「えー?五条さんなの?悟って呼んでくれないの?」

「呼ばない!!!」

「仕方ないなぁ。じゃあそれで我慢してあげる。でも、さん付けは禁止ね。勿論敬語も。まぁこれは大丈夫か。」


やっと私の上から離れた五条は、また担架に腰掛けた。
長い脚を組みながら何処かに電話をかけ始める。


採血終わったし…もう帰って良いんだよね?

明日は仕事だし、今日は疲れたから早く帰りたい。


「硝子ちゃん、結果って後で聞きに来なきゃダメなのかな?もう帰っても良い?明日も仕事なの。」


「あー…それは…、」


何だか歯切れの悪い返事だ。
まだ何か検査することあるのかな?


「まだ検査があるの?」

「そう。結果次第ではまだ検査があるから、名前はもうちょっと待っててよ。」


答えたのは硝子ちゃんじゃなくて、電話から耳を話した五条だった。

それなら硝子ちゃんとお話したいけど、きっと結果を確認するのに色々作業があるよね。


「外、散歩してきても良いよ。僕が迎えに行くから。」

「ここ、広いんじゃないの?」

「大丈夫。僕、眼が良いんだ。何処にいても必ず迎えに行けるよ。」


目が良い事と、必ず迎えに来れる事がイコールになるのだろうか?
冗談なのか本気なのかわからないけど、このまま1人でじっとしているのも暇だし…ちょっと歩いて来よう。

硝子ちゃんが来客用のカードを貰って来てくれて、私の首に掛けてくれた。

いってきますと硝子ちゃんに伝えて、バッグを持って外へ出た。













「見た感じは…呪力も流れてないような普通の女の子だけど。」

「今は…ね。その内わかるさ。」



そんな会話を硝子ちゃんと五条がしているなんて、部屋を出た私が気付くはずなかった。

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