白を基調にした可愛らしいカフェ。
レトロな照明の柔らかな光と、天井から吊るされた天蓋で個室のようになっている。椅子とテーブルも勿論オシャレ。
そんなオシャレな空間にいる私の目の前に、この場に釣り合わない真っ黒な服を着た男が座っている。
「ねえねえ名前は何にする?オススメはベリーミルクスペシャルパンケーキと、ティラミスパンケーキらしいよ。あ、アイスも選べるって。」
「……………………。」
「んー、やっぱりここはベリーミルクスペシャルパンケーキかな。一番人気みたいだし。ホイップ増し増しにして貰おっと。名前は?」
「…ティラミスパンケーキ。」
「ティラミスね。僕も迷ったんだよなー。飲み物は?」
「…アイスカフェラテ。」
「ん。決まりね。すいませーん、オーダーお願いしまーす。」
五条悟は店員を呼ぶと、パンケーキ2つとコーヒーとカフェラテを頼んだ。
注文をし終わると、五条悟は頬杖をつきながらこちらを見ている。
会話も無くて、ひたすら見つめられる。落ち着かない。恥ずかしい。
「………なんで見てるのよ。」
「ん?可愛いなと思って。」
「は!?」
「似合ってる。ワンピース。」
可愛い可愛いと言いながら、私の髪を指に巻き付けて遊んでいる。
可愛いなんて言われ慣れてなくて、どうしたら良いのかわからない。
「ふはっ、真っ赤じゃん。」
顔が赤いこと位、自分だってわかってるよ!!!
「……触んないで。」
そう言ってから身体を後ろに引いて、長い指から逃れるのがやっとだった。
「今更じゃない?手だって繋いでたし。
それに、そーんな真っ赤な顔で凄まれても全然怖くないよ。」
「…私、貴方の事まだ疑ってるから。」
「じゃあ改めて自己紹介。僕は五条悟。28歳のしがない高校教師デース。」
イエーイと、片手でピースを作る。
「…しがない高校教師があんなバケモノ退治出来るわけないじゃない。」
「まぁそれについては後から話すよ。はい次、名前の番。」
「苗字名前。26歳。普通の会社員。」
「それだけぇ?好きな男性のタイプとか、スリーサイズとか教えてくれないの?」
「それを貴方に教えてどうするのよ!私が話したいのはこんな事じゃ…!」
「お待たせしました。こちら、パンケーキとドリンクになります。」
「………………。」
「とりあえず、食べよっか。」
声をあげたタイミングで、店員さんの声が割って入った。
テーブルに置かれたお皿の上には、ふわふわのパンケーキ。色とりどりのフルーツに、真っ白なホイップ。
「…美味しそう。」
「だね。いただきまーす。」
「…いただきます。」
美味しそうなパンケーキを見て、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
話の途中だったけど…甘い物の魅力には勝てなかった。
綺麗に磨かれたフォークとナイフを使ってふわふわのパンケーキを口に運ぶ。
「〜〜〜っ…!」
幸せな甘さに思わず顔が綻んだ。マスカルポーネのクリームと、上にかかったココアパウダーの苦味も最高にバランスが良い。
「美味しい?」
「美味しい!」
連れてきた甲斐があったよ、五条悟はそう言いながらパンケーキを口に運ぶ。一口がとても大きい。
あっちのパンケーキも美味しそうだな…
イチゴとラズベリー、それからブルーベリーが沢山乗ったパンケーキを見つめていると、視線に気がついた五条悟が私の前にフォークを差し出す。
ふわりと香るイチゴの匂いに、思わず口をあければ甘酸っぱい刺激。
「んー!こっちもすっごく美味しい!!……じゃなくて!!!話!!!話の途中だった!!!」
何普通に食べてるのよ私!!!!!
五条悟がケラケラと笑い出す。
「怒ったり幸せそうな顔したり、名前は忙しいね。良いよ。僕も名前に聞きたいことあるし、話の続きしようか。」
外から入る風が、ふわりと天蓋を揺らした。
この時はまだ、ここから私の運命が変わっていくなんて思ってもいなかった。