「ダメだ…今日も眠れない…。」

ベッドサイドの小さな照明をつけて、のそりと身体を起こす。そのまま膝を抱えて、ふーっと、肺の底から深く溜め息をついた。


実はここ数日、1度も熟睡出来ていなかった。

まとまった眠りが取れていたのは確か…悠仁くんと七海さんが初めて会った日まで。

あの日以降、ベッドに横になっても眠りに入れなかったり、浅い眠りを繰り返して夜中に何度も目を覚ます。それがここ最近毎日続いていた。

半身浴や寝る前の白湯、ヒーリングミュージックなどなど…自分なりに色々調べて実践もしたのに、結局眠れずに朝を迎えてしまう。

身体の調子が悪いのかな?
そう思って硝子ちゃんに検査をお願いしても、結果は異常無し。

硝子ちゃんは心理的原因の不眠じゃないか、って診断してくれたけど…人間関係とか、仕事にストレスを感じてる訳でもない。
人間関係に関しては、昔と比べたら何千倍も幸せを感じてるレベル。

うぅ…考えてたら余計に目が冴えて来た気がする。


「このまま起きてよっかな。」


明日は休みだし、朝まで悠仁くんオススメのDVDでも見よう。

そう思ってベッドから降りようとした瞬間、カチャッと音を立ててドアが開いた。


「あれ…名前、まだ起きてたの?」


ドアを開けたのは、海外出張中の五条だった。

出張って今日までの予定じゃなかったっけ?


「五条?帰って来るのは明日じゃ…。」

「最終の飛行機にギリギリ間に合ったんだよね。」

「そうなんだ。良かったね。」


「おかえり。」と声をかけると、五条はうしろ手にドアを閉じながら「ただいま。」と答えた。

帰って来てシャワーを浴びたのか、部屋に入ってきた五条からフワリと良い香りがする。


「はぁー…マジで疲れた。って、目の下どうしたの。硝子みたいじゃん。」


ギシッとスプリングの音を鳴らしながらベッドに腰掛けた五条は、私の頬に手をあて、親指で目の下をなぞった。


「やっぱり目立つ?」


眉を寄せて苦笑いをすると、「ちょー目立つ。」と五条が言った。

仕事の時はコンシーラーで隠せてたけど、帰ってきてメイク落としちゃったし…目立つのも当たり前か。
寝る前にアイクリームを塗って、ホットアイマスクもしたのに…あんまり意味無かったか…。


「眠れないの?」

「困ったことにね。ここ最近ずっとで嫌になっちゃう。」

「硝子には?」

「診て貰ったよ。健康状態は問題無し。心理的なものかもって言ってた。」

「心理的、ねぇ…。」

「目も冴えちゃってるし、DVDでも見ようかなって思ってたトコなの。
五条疲れてるでしょ?たまには1人でベッド使って。私は朝までソファーでだらだらしてるから。」


今度こそベッドから降りようと手を付くと、五条が上から手を重ねて来る。
サングラスをベッドサイドに置いた五条は、そのままぐっと距離を詰めた。


「夜更かしはお肌に悪いよ?」

「…私の話聞いてた?お肌に悪いも何も、眠れないんだって。」

「いーからいーから」

「え、なに、…きゃっ!!」


コロンとベッドに転がされ、あっという間に後ろから抱き込まれた。


「あー。名前は温かくて抱きごこちが良いなー。」

「ぎゃー!!!
どこ触ってんのよ変態っ!!!」

「ん?この体勢じゃ嫌なの?しょうがないなぁ。」

「わっ、」


くるんと反転して、今度は正面から抱き締められる。咄嗟に身体を離そうとすれば、五条は私を抱き締める腕の力を強めた。………これ、抜け出せないやつ。


「…いつも思うけど、腕痛くないの。」

「ぜーんぜん痛くない。」


はぁ…どうせ何言っても聞いてくれないだろうし、五条が寝たら離れよう…。


諦めた私は身体の力を抜いて、五条の手がやわらかく髪を撫でるのを感じていた。


「眠れないのって、いつから?」

「七海さんと悠仁くんがペア組み出した辺りから。」

「そこそこ前じゃんソレ。……悠仁の様子は?」

「まだちょっと元気が無い感じ。七海さんから詳細は聞いてるでしょ?」

「まぁ色々と。名前から悠仁に何か言ったりした?」

「何も。それは私じゃなくて五条の役目だと思ったから。」

「名前のそういう所、僕は凄く助かるよ。」

「悠仁くんのこと、宜しくね。」

「GTGに任せなさい。」


顔をあげると、ニッと歯を見せ自信ありげに笑う五条と目が合う。「誰がGTなのよ」と呆れながら笑みを返した。


「…ねぇ五条。やっぱり私、眠れないから、」

「大丈夫。今日は絶対眠れるよ。」

「絶対って、何処からそんな自信が来るのよ…。」

「だって僕、名前が眠れなくなった原因知ってるもん。」

「えっ、ウソっ!?」

「本当。」


意地悪く笑う五条を見て、ハッとした。

まさか五条、私に何か術式を…!!!


「言っとくけど、術式使って名前に何かしたとかじゃ無いからね。」


私が考えていた事は五条に筒抜けだったらしい。五条がジト目で私を見ていた。


「じゃあその原因って何なのよ…」

「朝までぐっすり眠れたら教えてあげる。」

「だからそれが無理だって言って、」

「じゃあ僕に1分だけちょうだい?1分あれば絶対に名前は眠れるから。」


その余裕綽々な態度に若干の胡散臭さを感じたけど、睡眠不足から解消されるなら…と、私はそれを了承した。


「…変なことしないでよね。」

「しないしない。」


クスクスと笑った後、腰に回っていた手が上へ移動して、トン…トン…と、優しく背中を叩く。

そのリズムに不思議と安心感を感じて、細く息を吐き出した後、こてんと寄り掛かってみた。

大きな身体にすっぽりと包まれているから、じわじわと五条の体温が伝わってくる。
シャワーを浴びたせいか、いつもよりぽかぽかの五条。


あったかくて、ほわほわして、気持ちいい。


耳元に聞こえる心音が、子守歌のように眠気を誘う。しばらく振りの睡魔に手を差し伸べながら、小さく深呼吸。



…瞼、重い………眠、い……。







「おやすみ名前。また明日ね。」


重くなった瞼を閉じる直前、五条の甘ったるい声が頭上で聞こえた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -