「………ぃ、………おーい!名前?」

「っ……五条?ごめん、私また考え事してて…。あれ?七海さんと悠仁くんは?」

「2人ともたった今出てったよ。七海と悠仁が名前に声掛けても反応無かったし…今日2回目じゃん。平気?」


五条に名前を呼ばれて我に返った。
いけない。自分の世界に入ってて、七海さんと悠仁くんが出ていった事に気付かなかった。


「うん。全然平気。…五条は?行かないの?」

「僕もすぐ行くよ。でも、この部屋に忘れ物があったのを思い出してね。」

「ここに?見た感じは何にも無けど…………って、急に何!?忘れ物は!?」


五条は私の身体に両手を回し、力を込めて抱きしめて来た。抵抗しようと五条の胸を押せば、逃がさないとでも言うように更に強く抱き締められる。


「んー?だからコレ、僕の忘れ物。あー…この香り落ち着く。」

「は!?五条が何言ってるのか全然わかんないんだけど!?」

「だって僕、海外出張で暫く帰ってこれないし。名前とこんなに離れるの初めてじゃん。だから充電。」

「充電って…。」

「スマホだって充電しとかなきゃ動かないデショ。それと同じ。僕もちゃーんと充電しとかないと、名前不足で動かなくなるかも。」


五条はそう言って、私の腰に回していた右手を上に持って行き、ゆっくりと髪を梳き始めた。

何が動かなくなるかもよ。そんなこと絶対無いくせに…!


「伊地知さん達が待ってるんでしょ!?馬鹿な事言ってないで早く行きなよ!はーなーしーてーっ!」

「嫌だ。名前が硝子の所に行った日からろくに顔合わせて無いし。」

「それはっ、」

「お願い。あと10秒だけ。」

「……っ………!」


私の耳元で囁くように言った後、今度は甘えるように身を寄せて来た。

心の中できっかり10秒数えて、もう一度五条の胸を押す。今度はあっさりと身体が離れた。


「うん。充電完了。じゃ、いってくる。
戸締まりはちゃんとしてね。何かあったらすぐに連絡してね。何も無くても連、」

「わかったから早く行けーーっ!!」


私が力いっぱいに叫ぶと、五条は笑いながら部屋を出て行った。


五条が出ていったのを確認した私は、自分の身体を両腕で抱き締めるようにしてその場に座り込む。


「はー…どうしちゃったの私。」



この前も、今も。

…嫌じゃないから困る。



「…あーあーあー。仕事しよ仕事。仕事仕事仕事。」


ペチペチと軽く頬を叩きながら、自分に言い聞かせるように仕事仕事と連呼する。

早く戻ろ。やることは色々ある。


「ん?」


何度か深呼吸をして立ち上がった瞬間、右ポケットに入れてあったスマホが短く震える。
取り出してメッセージアプリを開くと、悠仁くんからの新着メッセージ。


"いってくんね!"


「ふふふっ。悠仁くんのこう言うところが可愛いんだよなぁ。
えーと…いってらっしゃい、気をつけてね、ヨシ。これで送信っと。」


そう言えば、七海さんにも、…五条にも。いってらっしゃいって言えてない。


「挨拶大事。悠仁くん見習って、私もメッセージ送っとこ。」


人差し指でトーク画面をタッチしながら、私は薄暗い地下室を後にした。

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