誰かこの状況を説明してください。
「じゃ、僕あっちで待ってるから。着替え終わったら教えて。」
五条悟はそう言うと、長い指でカーテンを閉めた。閉め終わると同時にカーテンに映っていた影が離れて行く。
唖然とする私の腕の中には1着のワンピース。
腕を引かれ、普段の私なら入れないような高そうなお店に連れて来られた。
五条悟は店内をくるりと見回してから近くにいた店員さんに一言二言声をかけると、人好きする笑みを浮かべた店員さんが「こちらへどうぞ」とフィッティングルームへ私達を案内する。
私達の後から来た別の店員さんに服を渡され、あれよあれよと言う間にフィッティングルームへ押し込まれてしまったのだ。
どうしたものかと私が悩んでいると、無駄に背が高い影が近づく。
「着替え終わった?開けて良い?」
「まっ…まだに決まってるでしょ!!!」
「えーまだ終わんないの?遅くない?」
「こ、こんなの…意味わかんないし!」
「だって名前の服、汚れちゃったじゃん。それ着て歩くつもり?」
自分が着ていたワンピースに視線を落とす。
全体的に土汚れているし、煤でも被ったような黒い汚れも所々ついている。
…初アポ用に気合いを入れて買ったワンピースだったのに。
「…………でも、」
「良いから早く着替えて。1人で着替えられないなら僕が手伝うよ?」
閉めきったカーテンの隙間から細い指が覗いて、慌ててカーテンを掴んだ。
「着替える!着替えるからあっち行ってて!!」
「手伝うって言ってるのにつまんないなぁ」
「早くあっち行って!」
「わかったわかった。じゃあ、早くね。」
影がまた離れて行く。なんだか嵌められた気がしてならないが、汚れた服で歩くのも恥ずかしい。
ここは素直に着替えよう…。
手に持たされていたワンピースを広げる。
パステルブルーのAラインのワンピース。
膝丈で、品良くレースとフリルがあしらわれている。うぅ…凄く可愛い。
「き…着ました、けど…」
ワンピースに着替えてからカーテンを開ければ、五条悟が近付いてきて私を上から下までゆっくりと見た。
目隠しをしてるから、本当に見えているのかわからないけど。
「うん。僕、センスまで最強。
これ、このまま着てくので値札取ってください。あとあっちのミュールも。」
店員さんにカードを渡しながらあれこれ注文をする五条悟の腕を今度は私が掴んだ。
「待って!お金、自分で…」
「僕が出したいから良いの。あ、ヘアメイクとか出来ます?あんまり時間かからないので良いので。」
「ちょっ…ちょっと!」
再度抗議しようと口を開く前に、店員さんに半ば引きずられるようにしてメイクルームへ移動した。
お直し程度の軽いメイクを施され、髪は緩く巻かれ、あっと言う間にヘアメイクが終わった。
………自分じゃないみたい。
「うん。良いね。凄く良い。じゃあ次行こうか。」
また問答無用で手を引かれ、店を後にする。
五条悟の肩には、大きなショッパーが掛かっていた。きっと私の荷物だ。
「ねえそれ、私の荷物でしょ?自分の荷物くらい自分で持ちます!」
「軽いから良いよ。」
「そう言う問題じゃなくて!」
ショッパーの紐をぐいぐい引くと、五条悟は立ち止まった。
「だって荷物渡したらまた逃げるでしょ?」
目隠し越しに見つめられて、なんとなく気まずくなって目を逸らす。
正直、逃げられるなら逃げたい。でも…
「………さっき助けてくれたし、あのバケモノの事も気になるし、洋服だって買って貰っちゃったし……もう逃げません。」
深い溜め息をつきながら言えば、五条悟の口許が嬉しそうに弧を描く。
「うん。でも、荷物は僕が持つから気にしないで。」
「え、待ってこの流れは荷物渡してくれるやつじゃないの!?気にするから言ってるんです!」
「僕が持つって言ってるから良いの。そんなことより、名前は甘いもの好き?」
「だから良くないって言って…!」
「意固地だなぁ。今は荷物の話じゃなくて、甘いものが好きか嫌いかの話してるの。ねえ、好きか嫌いかどっち?」
「……………甘いものは大好き。」
「それは良かった。美味しいって評判のパンケーキ屋があるんだ。」
ずっと行ってみたかったんだよね、五条悟の声が弾む。
その言葉に、五条悟がさっき電話で言っていた事を思い出した。
「本当にパンケーキ食べに行くつもり!?」
「僕、その為に今日ここに来てたし。」
お腹空いたから早く〜と、五条悟は足を早めた。