「………名前さん?」
左肩に感じた重み。
テレビに向けていた視線を左に持っていくと、俺の肩に寄りかかった名前さんが寝息を立てていた。
おお。睫毛なっが。
パッチリとした大きな瞳は伏せられていて、長い睫毛が頬に影を作っている。
そのまま見ていたら、今度はふにゃっと微笑むから、思わずこっちまで笑ってしまった。
…つーかこれ、更に気ぃ抜けなくなったな。
頼むからお前も起きんなよ。と、手元のキモカワイイ呪骸へ呪力を込めた。
『サーム!!サァーム!!どこだ…サァーム!!』
「悠仁。」
!?
「五条先生!?用事は!?って、ヤッベ!今名前さん寝てんだった…!」
映画に集中してた俺に、突然五条先生が声を掛けて来たからめっちゃビビった。
名前さんが寝てるのも忘れて、大声出しちゃったから焦ったんだけど…名前さんは相変わらずスヤスヤと寝息を立てている。
「大丈夫。名前は1回寝たら朝まで起きないから。」
俺の前まで来た五条先生は、肩に寄りかかって寝ていた名前さんの頭をそっと離して反対へ向けた。
「?」
五条先生が何でそんな事知って…。
「出かけるよ悠仁。」
「えぇ!?」
「課外授業。呪術戦の頂点。「領域展開」について、教えてあげる。」
唐突にそう言った五条先生は、ソファーから立ち上がった俺のフードを掴む。
気付いた時には…
「ごめんごめん。待った?」
「どこ!?ねぇここどこ!?」
「見学の虎杖悠仁君です。」
「富士山!!頭富士山!!」
全く知らない場所。そして、頭が富士山になってる呪い。
五条先生はその呪いを弱いと言った。
でも、その呪いは今までのどんな呪いよりも遥かに強い呪いで…。
五条先生と俺はソイツの領域展開に引き込まれたけど、五条先生も領域を展開して…あっさりソイツに勝ってた。
───呪術師最強。
見せつけられた、生き物としての格の違い。
その後はまぁ…俺が足引っ張って、富士山にも、花咲かせるヤツにも逃げられた。
今後の修行の予定とか、京都校との交流会のこととか、五条先生に一通り説明して貰ってから高専に戻ってきた。
「…よく寝てる。」
俺と五条先生が此処を出た時からそこそこ時間が経ってたけど、名前さんはまだ眠りこけてた。
1回寝たら起きないってホントなんだな。
ソファーの肘掛けに座った五条先生が名前さんの頬に触れると、彼女はふわりと笑ってその手にすり寄った。五条先生が満足そうに口許を緩める。
「僕が用事済ませたら迎えに来るから、それまでは寝かせといて。」
「ウッス。」
五条先生に返事をして、ソファーの端に追いやっていた呪骸を掴んで座る。
フワリと甘い香りが鼻腔を掠めたと思ったら、左肩に感じた、少し前と同じ重み。
先程のように左へ視線を向けると、あまりにも安らかな寝顔が近くにあった。
さっきも思ってたけど…
「名前さん、寝顔可愛い。」
「知ってる。」
半ば被せ気味に五条先生が言う。
「寝顔も可愛いんだけどさ、寝起きのぽわんとした顔も超可愛いんだよね。」
いや、だから何で五条先生がそんなこと知ってんだよ。
さっきからめっちゃ気になってんだよな。五条先生に聞いてみるべき?
んー…どうすっかなぁ。
俺がそうこう悩んでいる内に、「さて、」と言って五条先生が立ち上がる。
「流石に時間がヤバそうだから僕は行くけど…、悠仁。」
「ん?」
「名前が可愛いからって、襲ったりしないでよ?」
「しねーよっ!」
「…ん…、」
もしかして起こした!?
すぐ近くから聞こえる名前さんの声にドキリと心臓が跳ねる。でも、呪力は一定、呪力は一定…。
………良かった。どっちもまだ寝てる。
名前さんも、呪骸も。どちらも起きる気配が無いことに胸を撫で下ろした。
「っくく。じゃあ引き続き頑張って〜。」
そんな俺を見た五条先生は可笑しそうに笑って、手をヒラヒラさせながら地下室を出て行った。
…結局聞けなかった。ま、そのうち伏黒にでも聞いてみっか。
暫く会えないクラスメイトを思い浮かべながら、なるべく身体を動かさないようにリモコンへ手を伸ばした。