硝子ちゃんとのお昼を終えて、事務室まで続く廊下を歩く。事務室まであと少しという距離で、前から大きめの茶封筒を抱えた伊地知さんが歩いて来た。


「伊地知さん。」

「苗字さん。戻られたんですね。」

「はい!…あれ?お昼、これからですか?」

「ええ。急ぎの書類があって、少し遅くなってしまいました。」

「…急ぎの書類なんてありましたっけ?」


私がお昼に出る前には、そんな書類はなかったはず。見落としたのかな?って思ったけど…そんな書類があれば絶対に気にするはず。


「苗字さんが昼休憩に出たすぐ後に上から降りて来たんです。
緊急の任務に関する書類のようで、こちらで全て終わらせました。」

「そうだったんですね…すみません。」

「いえ、大丈夫ですよ。では、昼食ついでに届けて来ますね。」

「わかりました。いってらっしゃい、伊地知さん。」


この時…もっと気にしておけば良かったと、後になって後悔することになる。








「あっ!名前さん!」

「悠仁くん!恵くんに野薔薇ちゃんも!皆揃ってどうしたの?」


伊地知さんの手伝いで月次決算書を作っていた為、細かな数字の羅列を見すぎて頭が疲れてしまった。

甘いココアでも飲もうと自販機に向かっていた途中、悠仁くんに声を掛けられた。後ろには、恵くんと野薔薇ちゃんもいる。


「これから任務!伊地知さんの車待ち!」


伊地知さん、今日はこないだ話してた緊急の任務へ同行って言ってたけど…1年生組と一緒だったのか。


「そっか。皆、気を付けて行ってきてね。」

「おう!」

「ッス。」

「はいはい。」


緊急って、どんな任務なんだろう。

その書類に全く目を通してない私には、この子達がどんな任務につくのか、これっぽっちも情報がなかった。

危険な任務じゃないと良いけど…。


「あ、そうだ。名前さん。」

「なぁに?」

「こないだ貰ったスコーン、すげー美味かった!ありがと!」

「どういたしまして!」


「また作って!」と、悠仁くんが笑う。
この前、五条の朝食用のホットケーキミックスの余りに、板チョコを入れてスコーンを作った。それを悠仁くんにもお裾分けしたのだ。


「スコーン?何ソレ。私食べてないんだけど!」

「そう言えば虎杖が菓子パンと一緒にそんなの食ってたな…。アレ、名前さんが作ったやつだったのか。」

「ごめんね。余ったホットケーキミックスで作ったから、そんなに量は作れなかったの。」


本当はあと3つあったんだけど、気付いたら五条が食べてたんだよね。


「虎杖だけズルくない!?私も食べたい!」

「俺も食いたいっス。」

「ふふふっ。わかった!簡単だし、皆に作ってくるよ。約束ね。」


小指を立てて約束ポーズを取れば、3人は満足そうに笑った。


チョコの他にも何種類か作ろう。ホワイトチョコと抹茶とか、ナッツ類を入れても良いかも。生クリームも買って、クロテッドクリームも作っちゃう?
甘さ控えめにしたら硝子ちゃんも食べてくれるかな。五条の分は…昨日から出張でいないし、別にいっか。


そんな事を考えながら、任務へ向かう3人を見送った。







記録───2018年7月

西東京市 英集少年院 運動場上空

特級仮想怨霊(名称未定)
その受胎を非術師数名の目視で確認
緊急事態のため高専1年生3名が派遣され



内1名 死亡

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