今日の任務中、足がやたらと多い呪霊を見た虎杖が「お好み焼きかもんじゃ食いたい。海鮮の。」と言い出した。

あの呪霊を見てイカだのタコだのが食べたいなんて…どんな神経してんのよ。

でも結局、虎杖に伏黒が乗っかって、最終的に私も乗った。だって月島行ってみたかったし。

弱いくせにやたらとすばしっこいその呪霊のせいで無駄に汗をかいたのに、そのまま食事に向かうと言う馬鹿2人。

只でさえ汗くさいのに…お好み焼きともんじゃの匂いまでミックスされるなんて最悪だ。

虎杖と伏黒を無理矢理黙らせて、着替えをする為に一度高専へ戻ってきた。


「おせーよ釘崎!俺腹へった〜。」

「うるっさいわね虎杖!レディーは仕度に時間かかんのよ!」

「ごちゃごちゃ言ってねーで早く行くぞ。」


着替えを終えて、2人が待つ場所へ戻る。
伏黒はスマホを弄っていて、虎杖はしゃがんでヤンキー座り。
心の狭い奴等め。少し待った位でピーピー言ってんなっつーの。








某サイトの評価がそこそこ高い店に入った私達。
1枚目の海鮮お好み焼きを食べ終えて、次は2枚目のもちチーズ明太。

虎杖が今日2枚目のお好み焼きを引っくり返しているのを見ながら、先程の事を思い出す。


「そう言えば…さっき会ったわよ。」

「「誰に?」」

「アンタ達が話してた名前さん。」

「マジ?どうだった!?」


ホカホカとした温かい雰囲気に、甘くて、どこか儚さも含んだ人。例えるなら…


「シチューに溶かしたチョコレートぶっかけたみたいな人ね。」

「わかる。」

「いや、全然わかんねぇよ。」

「だって名前さんって、あったかくて優しい感じするじゃん?それに笑うと顔面溶けるし。」

「オイ、言い方。」


わかってんじゃん。虎杖のくせに。

私へ向けられた、チョコレートみたいに甘くて、とろけるような笑顔。
あんな笑顔向けられたら、男じゃなくても照れるわ。

それに…名前を誉められて、自分に会うのを心待にしていたかのように言われれば、こっちだって悪い気はしない。


「名前さん、良い人過ぎてたまに心配にならねー?変な壺とか売りつけられそう。」

「わかる。警戒心とか全く無さそうだわ。」


友達になって欲しいと差し出された、白くて綺麗な手。
小さな顔いっぱいに愛嬌を振り撒きながら、誰にでもそうしているのかと思うと、何だか気が気でない。


「お前ら、名前さんを何だと思ってんだ…。怒ると結構コエーぞあの人。」

「マジ?」

「マジだ。前に任務で無茶した時にスゲー怒られた。
それに、警戒心だってちゃんとあんぞ。五条先生と初めてあった時の名前さん、逆毛立てた野良猫みたいだったって聞いた。」

「そりゃ目隠しで全身真っ黒で、いかにも例の組織にいそうな長身の男が突然目の前に現れたら、名前さんじゃなくても警戒するに決まってんだろーが。」

「ぶははははは!確かに!!五条先生、パッと見めちゃくちゃ怪しいもんな!!」


私の言葉に虎杖が腹を抱えて笑う。

オイ、笑ってないでちゃんと鉄板見ろ。私チョイスのもちチーズ明太、焦がしたら承知しねーぞ。


「ヤベェ。五条先生のあの姿、見慣れすぎてて普通の感覚がわかんねぇ。」


ウーロン茶を片手に、ガックリと伏黒が項垂れる。

…コイツ、たまに天然っぽいとこあるわよね。


「ねえ、今日話してて気になったんだけど、名前さんって彼氏いるの?」

「あ、それ俺も気になってた。指輪してるよな。右手の薬指。」


可愛らしい雰囲気の彼女とは妙にミスマッチだったが、シンプル過ぎる指輪は彼女の薬指の上でとても目立っていた。


「あの指輪が名前さんの呪力抑えてんだよ。」

「呪力を抑えるぅ?何でそんな事する必要あるのよ。」

「それは名前さんが稀血って特殊な体質だからで…って、釘崎お前、この話五条先生から聞いてないのか?」

「ハァ?聞いてないわよそんな事。虎杖は知ってんの?」

「俺?知ってるよ。高専来た初日に聞いたもん。…おーし。焼けた焼けた。食おうぜ!」


鼻唄を歌いながら、虎杖がお好み焼きをヘラで3つに切っていく。…虎杖が知ってて私が知らないとか、なんかムカつくんだけど。

虎杖を睨みつけていたら、「何?青のり使う?」と言われた。違ぇよ!!!


「続けるぞ。その稀血って体質のせいで、名前さんは呪霊にとってのご馳走なんだよ。
だからあの指輪が無いと、名前さんの呪力が溢れて呪霊が襲ってくる。」

「名前さんからする甘い匂いもその稀血のせいなんだろ?俺、香水かなんかつけてるのかと思った。」

「確かに甘い香りしてたわ。」

「らしいぞ。とにかく、あの指輪は制御装置みてーな役割してんだよ。」


ちょっと訳ありでと、困ったように笑っていた名前さん。なるほど。そういう理由ね。

だからって名前さんが怖いとか、可哀想とか、そんな風には思わない。
だって、名前さんは名前さんでしょ?


「なーんだ。右手の薬指の指輪って、彼氏いますのサインかと思った。」

「いねーよ。マッチングアプリで婚活してるような人だぞ?」

「名前さん、出会い系してんの?」

「だから言い方。」

「マッチングアプリなめんじゃないわよ。今じゃ3組に1組はアプリ婚らしいわよ。」

「釘崎はなんでそんなの知ってんだよ。あ、すいませーん。デラックスもんじゃ1つお願いしまーす。」

「あ、ウーロン茶も3つ追加で。」


…この前ネットニュースで見掛けたのよ。
利用者も急増してて、今じゃ婚活も恋活もアプリが普通だって。


「五条先生が名前さんと初めて会った時も、そのアプリの相手と待ち合わせしてたらしい。
そこで呪霊に襲われて、たまたま近くにいた五条先生が助けて、稀血だったから高専で保護したって五条先生から聞いてる。」

「じゃあ、あの指輪は高専からの支給品ってこと?」

「いや、指輪は五条先生が用意した。」


モグモグと、伏黒がもちチーズ明太のお好み焼きを咀嚼しながら言う。


「マジ!?それを名前さんの右手の薬指につけたって事!?
うっわ。なんかやらしー。名前は僕の将来の嫁!とか思ってそうで引くわー。」

「いや…五条先生も流石にそこまでは考えて…」

「無いって、言い切れんの?」

「五条センセ、名前さんに良く引っ付いてんの見るし、名前さんの事めちゃくちゃ好きだよなー。ガチで将来の予約だったりして。
後は単純に男避け?名前さん、隙多そうだし。」

「…………あり得るな。」

「あり得る。」

「あり得るよなー。」


何も焼かれていない鉄板を見つめながら3人が思い浮かべるのは…全身真っ黒の目隠し男と、とろけるように笑う彼女のことだった。













「「っくしょん!」」

「……………。」

「……………。」

「…2人で全く同じタイミングでくしゃみするとか、普通ある?」

「誰かが僕と名前の噂を同時にしてるとか。」

「まさか。そんな訳ないでしょ。」



実はその、「まさか」だったりする。

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