どうしてこの五条悟と言う男は、私の怒りをこんこんと沸き上がらせるのが得意なのでしょうか?
「五条。」
「ん?」
「それ、いつまでやるつもり?」
「名前が僕の腕の中に飛び込んで来てくれるまで。」
私の目の前には、昨日と同じ体勢でポンポンとベッドを叩く五条がいる。
サングラスをちょっとだけずらして、上目遣いでこっちを見て来る。
…そんな事したって全然可愛くないんだから。
無視を決め込んでベッドに横になろうとした時、ズキリと腕が傷んだ。
「……った…、」
私が小さく声を漏らしたのを、すぐ隣にいる五条が気付かない訳がなかった。身体を起こされて、問答無用でスウェットの袖をたくし上げられる。
「ねぇ名前、この腕の痣どうしたの?どこの馬の骨にヤられた?」
くっきりと握られた痕が残っている腕。
昨日は赤くなっていただけなのに、今日は紫色。
さっきシャワーを浴びた時にはあんまり気にならなかったけど、まじまじと見るとちょっとグロテスクかも…。
「どうしたのって…五条がつけたんじゃん。」
「僕?…………あー。つけた。つけたわ。
名前の腕思いっきり握った時だよねコレ。」
「…あの時すっごい痛かったんだけど。」
「メンゴ。」
今の今まで忘れていたらしい。痛かったし、本気で折られるかと思ったんだからね。
「まだ痛い?」
「…ちょっと痛い。」
「こっち、昨日名前が下にして寝てた方じゃん。何で言わないの。」
「昨日は色々あったから…痛みどころじゃなかったし…。」
責められているようで居心地が悪い。
悪いのは五条なのに…これじゃ私が悪いみたい。
五条の視線に耐えきれず、逃げるように目を反らした。
「じゃあ僕が治してあげる。」
紫色の痣を、五条の指がなぞる。
くすぐったくて顔をあげれば、サングラスを外した五条がこちらを見ていた。
綺麗な目で見つめられて、心臓がドキリと跳ねる。
「…何でサングラス取ったの。」
「治すのに邪魔だから。」
「…本当に治せるの?」
「治せるよ。」
「見てて」、五条が痣へ唇を寄せた。
軽いリップ音を立てながら、私の腕へ何度もキスを落として行く五条。
驚いて声も出ない。私の口はパクパクと水面の金魚のように酸素を求めた。
静かな部屋にリップ音だけが響いている。羞恥心で今にも倒れてしまいそう。
「んっ…、…こんなもんかな。」
最後にちゅうと吸い付いて、五条は私の腕から唇を離した。
「…なっ…ななな…、な…何して、」
「ほら、キレイになったでしょ?」
確かに痣は綺麗に治ってる。治ってるけど……!!!
「…ききき、…キス、した…私の、う…腕…!」
「したけどそれが?治す場所に触れなきゃいけないから、僕は治療のつもりだったけど…名前は違うコト考えちゃったの?」
「……あ…あれが治療…?」
「そう。反転術式って言って、硝子も使えるやつ。…まさか上手く行くとは思ってなかったけど。」
「?さ、最後ちょっと聞こえなかった…」
「こっちの話だから名前は気にしなくていーの。…それで?名前はナニを考えてたのかな?」
「〜〜〜〜っ!!五条の変態!!私もう寝るっ!!!おやすみ!!!」
そのままグッと距離を詰められて、返事に困った私は頭から布団を被って籠城した。
さっきから…いや、会った時からずっと五条に振り回されっぱなし。遊ばれっぱなし。
でも、
「……腕、もう痛く無い。治してくれてありがとう。」
一瞬だけ布団から顔を出して、言うだけ言ってまた顔を引っ込めた。五条が声をあげて笑ってるけど、無視だ無視。
「ねぇ名前、今日こそこっち向いて、」
「寝ないっ!!!」
御礼くらいは、ちゃんと言ってあげる。