五条に部屋の中の簡単な説明をして貰って、夕食はデリバリーを頼んだ。お腹もいっぱいになったので、今はひと息ついてソファーに座っている。
五条はシャワーを浴びに行くと言って少し前にリビングを出ていった。


「濃い1日だったなぁ…。」


バッグの中に入っていた手鏡を取り出す。
落としてしまったせいで左下から右上にかけて亀裂が入ってしまったけど…黒漆塗りの上に咲く山茶花は、割れる前と変わらず鮮やかだ。

呪術師も、呪霊も、自分に流れる血の事も。
何も知らずに平和に生きてきたのに。
この手鏡を落としてしまった瞬間、全てが始まった。

…お婆ちゃんがくれた手鏡、割ってしまってごめんなさい。

手に持った鏡を胸に当てて、心の中で謝った。








「あ、メッセージ来てる。」

手鏡をバッグに戻して、テーブルの上でチカチカ光るスマホを手に取った。
食事の前に突然「これ持ってて」と五条から渡された物だ。

自分で買うから良いと言えば、もう契約しちゃったからと言われて困ってしまった。
このスマホ代は必ず私が払うからと強く言って、渋々受け取ったのだ。

入れたばかりのアプリを開くと、硝子ちゃんからの新着メッセージ。


「連絡、硝子から?」

「そう。硝子ちゃんか、ら…」


五条の声が聞こえて、後ろを振り向く。


「………誰?」

「グッドルッキングガイ五条悟ダヨ〜。」

「目隠し無い…。」

「そりゃ風呂入ったし。」


上がっていた髪は目隠しが無いせいで降りているし、ずっと隠れていた目元もしっかり見えている。


「綺麗…。」


吸い込まれてしまいそうな、透明感のある目。キラキラして、宝石みたい。
海のような、空のような、淡くて優しい色。






「そんなに見つめて、キスでもして欲しい?」

「…ちっ、…違う!!!五条の目が綺麗で…、」



ハッと気付いた時には、五条の顔がすぐ近くにあった。たぶん…と言うか間違いなく見惚れてしまっていた。あの五条に。

シャワーを浴びたせいか、ほんのりと色気を醸し出す五条。変にドキマギしてしまって慌てて顔を逸らした。



「あげよっか?」

「…え?」

「僕の目。名前にならあげる。」


私が逸らした顔を覗き込んで、にこりと微笑む。


「いっ…いらない!そんな綺麗な目、私には似合わない!」


私がその目を貰っても、その美しさに間違いなく負けてしまう。整った顔の五条だから、その宝石みたいな目が似合うんだ。

五条は上を向いて、けたけたと笑った。

「さっきから綺麗綺麗って、名前にそんなに褒められたらゴジョーさん照れちゃう!」

「照れてるようには全然見えないけど。」

「確かに僕よりは名前の方が照れてる感じするよね。」

「照れてないっ!!
てか髪!さっきから水滴垂れてるから!ちゃんと拭いて!!」


肩に掛かっているタオルを強引に引き抜いて、五条の髪をわしゃわしゃと拭く。

「名前は照れ隠しがド下手だね」なんて五条が言うから、おもいっきり強く力を入れて髪を拭いた。









「名前もシャワー浴びてきなよ。」

大方乾いた所で、五条が私に言う。

「うん。お借りします。」

「タオルと着替え、置いてあるの使って。」

「いや、さっき運んで貰ったクローゼットの中にあるから大丈夫だよ。」


替えの下着も取ってこなきゃ行けないし。


「良いからいいから!もう用意してるし!」

「でも、」

「ほら早く!名前今日色々あって疲れてるでしょ?湯船も貯めたから、ちゃっちゃと行ってゆっくりしておいでよ。」

「…わかった。行ってくる。」


急かすように背中を押されてリビングを出る。
ちょっと引っ掛かるけど、五条の言う通り色々あって疲れたし…下着だけ取りに行って早く入ろ。
いや、一応警戒してショートパンツ位は持って行こ。あの言い方じゃ絶対に何かある。






お部屋が広かったから、お風呂も広いのかなって期待してたら本当に広かった。

浴槽も、私が足を伸ばしても余裕で足りるくらいに大きい。入浴剤もはいっていて、白乳色の良い香りについ長湯してしまった。


「……普通のスウェットだ。」


変な物が置いてあるんじゃないかってちょっと警戒してたけど、五条が用意してくれていた着替えは何の変哲も無い黒色のスウェットだった。
五条のなのか、私には少し…いや、かなりサイズが大きい。試しに着てみたらワンピースみたいになってしまった。

その下に持ってきたショートパンツを履く。うん。とてもラク。


ふわり。鼻先を擽る香り。


その香りで、先ほど五条に抱き締められながら泣いた事を思い出してしまう。それを考えないよう、自分の頭をガシガシと強く拭いた。

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