目を開ければ、立派なエントランスでした。
「五条、私達さっきまで…」
「トんだの。」
「…………そうなんだ。」
どうして瞬間移動なんて出来るのかちょっと気になったど…それ以上聞くのを止めた。説明、めんどくさいんだろうなぁ。
五条はエントランスを進むと、エレベーターに乗り込んで最上階を押した。
「ねえ、突然来ちゃって大丈夫なの？その特級呪術師さん、出掛けてたりしない？」
「全然ダイジョーブ。」
「でもっ…お世話になるのに手土産とかも持ってきてないし！」
気の効かない奴だと、最初から嫌われてしまったらどうしよう。やっぱり一度外に出て何か買ってきた方が良いよね…？
「はい、とーちゃく。」
考えているうちに着いてしまったらしい。五条がドアの前で止まった。どうしよう。さっきよりも緊張して来た。
着いてしまったものは仕方ない。
とりあえずインターフォン鳴らして…ちゃんと挨拶して…よし。
気合いをいれて、インターフォンを押そうと手を伸ばしたのに…
──ガチャ
「え？」
私が押すより先に、五条がドアを開けて部屋の中に入っていった。
「五条何で鍵持って…、ちょっと！人様の家に勝手に入っちゃダメじゃん！！」
五条は私の制止も聞かず、さっさと靴を脱いで部屋に上がり込む。
「ほら、名前も入ってきなよ。」
「でも…、」
「いーからいーから。早く早くー。」
「…お、…おじゃましまーす…。」
「はいダメーーーーー！！やり直しーーーー！！」
先に部屋にあがった五条が、顔の前で大きなバツ印を作る。
「……は？やり直し？」
「そう。名前は鍵開ける所からやり直しね。ここは名前の新居なんだから、お邪魔しますじゃないでしょ？」
「これ使ってもう一回ね」と、私に向かって鍵を投げた五条はドアを閉めた。
入ったばっかりなのに、すぐ外に出されちゃった…。
ドアを閉めた後に鍵のかかる音もしてたから、この鍵で入ってこいって事だよね。
何だか良くわからないけど、このまま外に立ってて不審者と勘違いされるのも嫌だし…言われた通り中に入ろう。
手の中にある鍵でドアを開けて、もう一度中に入る。
壁に寄りかかっていた五条が、楽しそうな顔で待っていた。
「さてここでクエスチョン。帰ってきてから言うことは？」
「…た…、ただいま…？」
「うん。お帰り、名前。今日からよろしくね。」
………今日からよろしく？
ん？ヨロシク？？？？？？？
…………落ち着け私。一回整理しよう。
えーっと…私が今日からお世話になるのは、特級呪術師さん。
それを決めたのは、上の人と話し合いをしてきた五条。
一番最初にこの部屋のドアを開けたのも五条。
私を助けてくれた時、"僕最強だから"って言ってたのも五条。
……………凄く嫌な予感がする。
「ご、五条。」
「ん？」
「五条の、呪術師の等級って…、」
「僕？勿論特級」
語尾にハートマークがついていそうな甘さで、五条は特級と言った。
「待って待って待って。じゃあ呪術界最強でイケメンの特級呪術師ってもしかして…」
「そ。僕。」
嫌な予感、的中。
「一緒にいてって、こう言う事なの！？ 私、五条と住むの！？」
「むしろ、それ以外に何だと思ったの？」
「わ、私を狙って呪霊が襲ってきた時に、五条に助けを求めろって話しかと思って…。
守ってくれるって言ってたし、危ないときは五条と一緒に行動…みたいな…。」
「まあそれも間違ってはいないけどね。
と言うわけで、今日からここが僕と名前が一緒に住む部屋でーす！ハイ拍手〜！」
玄関で立ち尽くす私の目の前で、五条がパチパチと拍手をしている。
ねえもうこれ夢？夢オチだよね？
グニグニと両頬をつねる。どっちも痛い…現実…。
「名前それやるの好きだよね。そんなに引っ張って、ほっぺた伸びて戻んなくなったらどーすんの。」
反転術式で治せんのかな、五条は良くわからない事を良いながら首を傾げている。
短く息を吐いて、五条に買って貰ったミュールを脱いだ。部屋にあがって、五条の前に立つ。
本当は…一緒に住むのが五条って知ったとき、ちょっとだけほっとしたの。
出会ってまだ１日目だけど、なんとなく…五条と一緒なら大丈夫って思った。
だから…
「今日から、よろしくね。」
「………………。」
「えへへ…改めて言うと、何か照れるね。…五条？」
「あ"ーーー！！！も"ぉーーーー！！！」
「ど…どうしたの突然叫んで…」
突然叫びだした五条は、目隠しで覆われた顔を更に両手で覆って、そのままズルズルとしゃがみこんだ。笑顔で言ったはずなんだけど…私、変な顔でもしてた？
「…今のはかなりキタ……。」
「来た？何が？」
「ちょっと待ってあと１分待ってオネガイ。」
？
…意味わかんない。