「学長。連れてきました。」

「…お前にしては珍しく早かったな。」

扉を開けた先に待っていたのは、ぶさ可愛いぬいぐるみ達に囲まれた男の人だった。
手元のフェルトをチクチクと指すこの人が、さっき五条が言っていた学長さんらしい。


「…………その子が例の?」


手元のフェルトから私へ視線が移った。


「はじめまして。苗字名前と言います。」

「ああ。悟から聞いている。夜蛾だ。此処の学長をしている。」


夜蛾さんの周りはとてもファンシーだけど、どっしりと構えた貫禄あるその雰囲気に圧倒される。

夜蛾さんは私の次に、私の隣に立つ五条へ視線を向けた。


「上への報告は終わっている。」

「それで?どーでした?脳ミソ腐った奴らの反応は。」

「お前も予想はついてるだろうが…呆れたものだな。」

「要求は?」

「苗字名前の地下での監禁及び拘束。定期的な血の採取に、肉体的精神的変化における呪霊への血液効果の調査。」

「ウケる。モルモットかよ。」


突然出た自分の名前に驚く。
監禁?拘束?二人が何の話をしているのか全くわからない。

「あの、」

口を出そうとした私を「名前はちょっと黙ってて」と五条が手で制する。
今までとは違う五条の雰囲気に、それ以上の言葉を発することが出来なかった。


「…それに逆らったら?」

「…………………。」

「あーハイハイそゆこと。ハァーーーーー。予想はしてたけど予想以上にゴミみたいな考えだ。
それじゃあ僕は今からクズ達と楽しい楽しい話し合いをしてきまーす。」

黙り込んだ夜蛾さんに何かを察した五条は、「名前はここで待っててね」と言ってスタスタと出口へ向かって歩き出す。


「ちょ…待って五条!ねえ!ちゃんと説明……っ!!!………行っちゃった…。」


相当イラついているのか、五条は乱暴に扉を閉めて部屋から出て行ってしまった。
残された私と、学長さんの間に沈黙が流れる。


「あの…さっき言ってた、監禁とか拘束って…。」

「私の所に来るまでに、悟から君の血について何か聞いて無いのか?」

「私の血について…ですか?いえ、採血はしましたが結果についてはまだ聞いていなくて…。」

「ガッデム!!」


突然叫んだ夜蛾さんに驚いて小さく声を上げてしまった私に、「すまなかった」と夜蛾さんが頭を下げた。


「悟が話をしていないのなら、私から説明しよう。君は…、」









夜蛾さんは、私を稀血の一族の生き残りだと言った。
稀血と言うのは化け物にとってのご馳走で、体内に私の血を取り込めば、化け物はとても強くなってしまう。
お婆ちゃんが肌身離さず持っていなさいと言っていた手鏡は、私の血を狙う化け物から身を守る為の物だったらしい。


「そんなこと言われたって…今まで普通に暮らして来たんです。
そんな御伽噺みたいな話を突然聞かされたって、はいそうですかと信じられるわけ…!」

「君の気持ちは理解出来る。しかし、君の存在は私達呪術師にとって、希望にも脅威にもなりうる物だ。
我々が君を見つけてしまった以上、野放しには出来ない。」

「だから監視?監禁?ふざけないで!!!
申し訳ありません。私、帰らせて頂きます。」

「待ちなさい。これはもう決定事項だ。逆らえば君を処分するように上からは言われている。」

「勝手にそちらが決めた事でしょう?私がそれに従う義務はありません。」


何が稀血だ。何が呪術師だ。馬鹿馬鹿しい。
やっぱり夢でも見てるんだ。目が覚めたら、きっといつもの日常に戻ってるはず。

マッチングアプリで婚活して、素敵な人を見付けて結婚して、寂しい思いなんてせずに幸せに生きる。

そう。これは悪い夢。起きたら美味しい物でも食べて、さっさと忘れてしまえば良い。












「ねぇ、ドコ行くの?」


踵を返して出口へ向かっていた私を黒が止めた。


「帰るの。早くそこから退いて。」



私の前に立つ黒を睨み付けた。それでも黒は動かない。

…どいつもこいつもイライラする。

強引に横から通り抜けようとすれば、強い力で腕を掴まれた。


「離してよ!!帰るって言ってるでしょ!?」

「帰さない。」

「痛…っ!」


痛いくらいに掴まれて、本気で抗っているのに振りほどけない。ギリギリと力を込められた腕がミシミシと鳴る。


「学長。上の奴等との話はついたので、名前はこのまま僕が連れて帰ります。詳しい事は全て伊地知に。」

「…わかった。」

「っ…勝手に進めないでよ!!!私は帰るって言ってるの!!!!」

「行くよ。」


私の言葉なんて聞く耳を持たずに、五条は私の腕を引いて出口へ進んで行く。



きっとこれは悪い夢。

そう、悪い夢なんだ。

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