Another jujuwalk 1


「って訳でさ、りっぱ寿司行ってきたんだよね。」

「りっぱ寿司!新幹線のとこでしょ?」

「そうそう。あの新幹線、何十回も往復もさせて来た。」


激甘カプチーノを啜りながら五条が今日あったことを話してくれた。
りっぱ寿司と言えばあの新幹線だよね。釘崎さん、新幹線に乗って運ばれてくるお寿司見てどう思ったかな。


「男子3人もいたらお皿の数も凄そう。りっぱ寿司の新幹線って到着した時の音が大きいから凄いびっくりしない?」

「確かに大きめかもね。」

「でしょ?あの音にびっくりして早く取らなきゃって焦っちゃって。まだ取ってないのにボタン押して新幹線帰っちゃった事あるんだよね。」

「マジ?そんなことある?」

「私はある。あの時は店員さんに凄い謝った…。」


店員さんは笑いながら許してくれたけど、本当に焦ったし恥ずかしかった。


「まぁ…戻ってきた新幹線に寿司が乗ったままだったら店員もビックリするよね。」

「…アホだなって思ってるでしょ?どうせアホですよーだ。」

「僕そんなこと言ってないデショ。」

「顔に書いてある。」

「いや、僕の顔には名前ちゃんがカワイイ尊い推せるしか書いてないよ。」

「ドヤ顔で何言ってんの!?そんなの何処にも書いてないから!」

「え〜本当なのにー。ほら見て。こことか、ここにも書いてある。」


トントンと、五条が自分の頬を指でつつく。


「ぜんっぜん書いてない。」

「これは心の綺麗な人にしか見えないからね。」

「悪かったわね綺麗じゃなくて!」


五条が「冗談だよ。」とクスクス笑った。

全く…何が可愛い尊い推せる、よ。嘘ばっかり。私で遊ぶのもいい加減にして欲しい。


「あ、コレお土産。極セットと茶碗蒸し。」

「私に買ってきてくれたの?嬉しい!ありがとう五条!」


りっぱ寿司のキャラクターが描かれたビニール袋がテーブルに置かれる。
袋から中に入っているトレーを出すと、トロや海老、マグロや鯛のお寿司が綺麗に並んでいた。

さっきまでむくれていたのに、お寿司と茶碗蒸しを目の前にあっさりと機嫌が良くなるなんて我ながら現金なやつだなと思う。
でも、お寿司と茶碗蒸しのセットだもん。機嫌だってすぐに直っちゃう。


「どういたしまして。こんな時間だし名前もお腹空いたでしょ?」

「さっき七海さんにパンご馳走になったけど、お寿司と茶碗蒸しなら余裕で入っちゃう!」

「……………………は?」

「え?」

「今なんて?」

「?七海さんにパンをご馳走に、」

「七海が来てたの?高専に?」

「書類届けに来てくれたの。」

「名前は七海と二人でいたの?」

「うん。七海さんが私の暇潰しに付き合ってくれて、二人でお喋りしながらパン食べてた。久しぶりにゆっくり話せたから凄い楽しかった、…五条?どしたの?」


徐にスマホを取り出した五条は、何度か画面をスワイプしてから耳にスマホを当てた。どこかに電話をかけるらしい。


「もっしも〜し。脱サラ呪術師の七海健人くんですか〜?
僕だけどさっき高専で名前と、…あれ?切れた。」


プツンと、電話口から音が漏れた。五条はじっと画面を見つめてから先程と同じようにスマホを耳に当てた。


「もっしも〜し!七み、…また切れた。もっしも〜、…えー!何回掛けても途中で切られるんだけど!」


五条は口を尖らせて「僕の電話に出ないなんて何なのアイツ」と言った。

…五条からの着信だから出たくないんだと思う。


「七海さんと何話すの?朝から任務だって言ってたし、疲れてるんだから何回も電話するの止めなよ。」

「七海にはちょー大事な話があんの。」


もう一度電話をかけようとしている五条を見て、私はため息をついた。

何回かけたって同じだと思うけど…。
まぁいいか。五条もそのうち諦めるでしょ。

さて、私はお寿司の為に緑茶淹れて来よ。

紅茶が入ったカップに手を伸ばした瞬間、テールブルに置いていたスマホが震えだした。
画面には【七海健人】の表示。急いで通話をタップして、スマホを耳に当てる。


『もしもし七海です。お疲れ様です。』

「お疲れ様です。どうしたんですか?」

『苗字さん。私が先ほど貴女に言った事を覚えていますか?』


ヤバイ。受話器から聞こえる七海さんの声が不機嫌全開だ。これ間違えたら絶対にダメなやつ。

頑張れ私…!!!さっき七海さんと話してた事を全力で思い出すのよ…!!!


「えーっと、面倒ごとは嫌い…?」

『わかっているのなら良いんです。あの人の手綱を握るのは貴女の役目でしょう?きちんと責務を果たして頂かないと困ります。』


正解を導けた事にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、七海さんの口から気になるワードが出てきた。
手綱を握る?私が?五条の??

…絶対無理でしょうそれ。


「……待ってください違います何ですかそれ。いつから私にそんな嫌な役目が??」

『違わないでしょう?とにかく…くれぐれも、五条さんに余計なことは言わないように。良いですね?』

「は、はい…。」

『よろしい。苗字さんとの通話が終わり次第すぐに電源を切ります。五条さんにはプライベートな時間なので電話には出られませんとお伝えください。では、おやすみなさい。』

「お…おやすみなさい。」


七海さんに怒らちゃった。かなりショック…。


「七海なんて?」


「プライベートな時間だから電話には出られないって七海さん言ってたよ。…五条のせいで私が七海さんに怒られた。」

「えー?僕何もしてなくなーい?」


七海さんが電話に出る気がないとわかった五条は、手持ちぶさたな様子でカプチーノが入ったカップを意味もなくかき混ぜている。


「したから七海さんが怒っちゃったんでしょ!
うぅ…これで嫌われたらどうしよう。七海さんのこと大好きなのに…。」

「待って名前何それ聞き捨てならな、」

「悲しいから今からお寿司と茶碗蒸しヤケ食いする。いただきまーす。」

「え、無視?無視なの??」


熱い緑茶淹れようと思ったけど…カップに残った紅茶で良いや。

パキッと割り箸を割って、トロのお寿司を口の中に入れる。


「ん〜脂が乗ってて美味しい!最近の回転寿司ってクオリティー高いよね。」

「名前さーん。無視ですかー?」


私の顔の前でヒラヒラと手を振る五条を無視して、2貫目を口に入れて咀嚼する。
わさびの辛みがツンと鼻を刺激すると同時に、七海さんに怒られて傷付いた心がまた少し傷んだ気がした。

七海さんに嫌われたら、絶対に五条のせいだからね…!


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