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「あの、えっと、あの、おにいちゃんたちぼーだーのひと?」

ボーダーへの連絡通路のすぐ近くで、ボーダーに向かっていた出水と米屋の二人は、突然小さな女の子に声をかけられた。

「お?どしたー?」
「え、槍バカ。知り合い?」
「いや、全然知らん子」

その女の子は、まるで陽太郎と同じくらいの歳に見える。
淡い金色の髪に、まんまるの大きな目をした、容姿の整った女の子に、二人は一切心当たりがなかった。

どうしたものかと悩む二人が、答えに困っていると、少女は少しだけ二人に近付いて、もう一度口を開いた。

「ちがう?ぼーだーのひとじゃない?」
「いや、ボーダーの人だけどな?」
「どうしたんだ?」
「わたし、まいごなの、おねえちゃんまいごなの。おねえちゃんぼーだーのひとだから、わたし……まいご……」

大きな丸い瞳に、突然雫が溢れうえええ、と泣き出してしまった少女に、出水も米屋も驚き焦るしかない。

「泣くな泣くな!大丈夫!俺らがお姉ちゃん探してやるから!」
「泣き止めって、よしよし」

陽太郎の相手で、多少子供に慣れている米屋が、少女を抱き上げ、出水はその少女の頭をよしよしと撫でる。
5分程、大丈夫だぞー怖くねーぞーと繰り返していれば、ぐすぐすと未だに鼻は鳴らすものの、涙はようやく止まったようだった。

ふう、と安堵のため息を米屋と出水が吐き出した。
その時。

「何をやっている?」

聞き慣れた声に、出水が振り向くと、そこには射手一位ソロランク2位の、二宮が。
いつも通りのふてぶてしい立ち姿が、今は非常に頼もしい。
出水と米屋が声を揃えて、彼の名前を呼ぶと同時に。

「あ、二宮さん」
「まさおにいちゃん!!」

米屋の腕の中にいた少女が、二宮を呼んだ。

「は?え?」

意味がわからず混乱する二人をよそに、名前を呼ばれた二宮は、眉間に軽く皺をよせた。

「おまえ……なんでこんなとこにいる?」
「あのね、まいごなの」
「またか、またなのか」

はぁああ、と長いため息を吐き出した二宮は、慣れた手付きで米屋から少女を受け取ると、片手で少女を抱きかかえ、空いている手で自らのスマホを引っ張り出した。

「え、二宮さんの妹ですか?」
「……違う。おい、お前の姉さんの名前をいってみろ」
「のぞみちゃん」

のぞみちゃん……誰だよ!と出水も米屋も自分たちの記憶の中をたどる。

「……加古だ。加古望」
「ああ!加古さん!」
「そう。こいつは加古の妹で、なんでなのかは知らんがしょっちゅう家を一人で抜け出す悪い癖がある」
「ええ……」
「今日はなんで家を抜け出したんだ」
「おやつのぷりん、おねえちゃんにあげるの」

はんぶんこするの!と笑う少女はとんでもなく可愛い。可愛いのだが。

「大学にも、1週間に1度は迷子になりにくるからな……」
「あー、そういえば二宮さんと加古さんて同じ歳ですっけ」
「そうだ。そのせいでこいつと顔見知りなのでな」

とんでもなく可愛い、とんでもない問題児なんだな。
出水と米屋は、少女をそう認識することにした。

「まさおにいちゃん、おねえちゃんは?」
「もうすぐくる。大人しく待っていろ」
「はぁい」

ぎゅうと二宮の首に短い腕を巻きつけて、少女は舌っ足らずな砂糖菓子のような甘ったるい声で答える。
あまりにそれが可愛すぎて、普段はあれほど冷静な二宮も少女に説教をする気にもならない。もちろん、それを間近でみることになった二人も同様で。

「陽太郎はクソガキって感じだけど、なんだろうなこっちは」
「小悪魔あたりなんかじゃね」
「見た目は天使なのにな」

はあああと何度目かも分からないため息を三人揃って吐き出すと、ものすごい勢いで走って近付いてくる加古にこれまた3人揃って心から同情した。

end

なにかございましたらおきがるに!
おへんじはメモのほうへ。

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